第302話【とある星の再建7】

<<マサル視点>>



「はいはい、新人歓迎会か何かの王様ゲームの罰ゲームなんですね。」



「「「.......!」」」



「マ、マサルさんは神ですかぁー?」



「いや、俺もさんざんマリス様にやられてましたからね。神の裁きと言えばそれしか浮かばないですよ。」



バツの悪そうなマリス様とユリア様はほおっておいて、俺はケンジ君のことを考える。


異世界での立ち回りについてはセミナーで説明できるとして、問題はメンタルの復活か。


俺達の役割って、結構厨二病の方がうまくいったりするんだよな。


ケンジ君のナチュラルな厨二感は大事にしてあげたいし。


さてどうしたものかな。



「ユリア様、とりあえずケンジ君を次のセミナーに誘ってみて下さい。


俺の方で建築に関する基本的な説明をしてみます。それと俺の経験談も含めて話すことでメンタル面の解消をお手伝いできればと思います。」



「ユリア、マサルさんは元の世界でも建築のプロフェッショナルだったんだよー」


マリス様、すっごく自慢げ。



「マサルさんありがとう。絶対行かせますからね。」






しばらくして、俺が講師を行うハウツー・セミナーの一番後ろの席に暗い影を落とした無口な少年が座っていた。







<<ケンジ視点>>


昨晩、女神ユリア様が夢に現れた。


一生懸命励ましてくれるんだけど、どうしていいか分からなくなってしまった俺には、耳が痛いんだよな。


やっぱり俺みたいな小僧じゃ駄目だったんじゃないか、初めから無理な話だったんだって、どんどん暗くなっていく自分が嫌になってくる。


「それじゃあ明日セミナーに参加してね。もう予約してあるからね。」


セミナーがどうのこうのってユリア様が言ってたような気がするけど、よくわかんないや。



そして今、起きてからボーっとしていたら、いきなり席に座っていた。


一瞬驚いたけど、周りに日本人の人達がいっぱい座っているの見えた。


俺と同じような歳からおじいちゃんまでいろんな年齢層の人がいる。


楽しそうにおしゃべりしている人達や、下を向いている人達など様子も様々だ。


俺が座っていたのは一番前の席、目の前には一段高くなって教壇みたいになっている。


教室?そういや昨晩ユリア様がセミナーがどうのって言ってたっけ。


ここがそうなのか。日本人が多いから安心するけど、こんなところは初めてだから緊張する。


そうだ後ろの席に移動しよう。


俺はそそくさと最後列の空いている席に移動した。





「さあセミナーを始めます。今日講師を務めさせていただきます、加藤優です。よろしくお願いします。」


うつむいて存在感を消していると教壇の方から声が聞こえてきた。


あー、なんかうざいなあ。どうせ自分の成功事例とかを押し付けるんじゃないの?


こういうの良く知らないけど、学校の先生なんかそうだったもんね。


雑談になるとさあ、すぐに自慢になるんだよな。あれぜってーうざったいって。


そんなことを思いながらなんとなく耳を傾けてみる。


だってさ、もうどうしていいか分からないんだよ。一人になっちゃったし。


結局ムーア達も俺から離れて行っちゃったし。そりゃあんなところで一から生活できないもんな。


しようが無いのは分かっているんだ、分かってるんだけど.......


なんていうか割り切れない時ってあるよね。



静かな教室内に流れる講師の声。ゆったりとした温和な口調はひとりっきりの俺の耳に優しく聞こえる。


人恋しさも手伝ってその声を聞こうとしている自分がいた。








<<マサル視点>>


恐らくあの暗い少年がケンジ君だろうな。ユリア様は最前列に席を取ったって言ってたけど、後ろに移動したのかも。


あの顔色じゃ、だいぶまいってるな。あんまり難しい話しはしない方が良さそうだ。成功事例なんかもってのほかだろうしな。


でも他の受講生は聞きたがるんだよな、成功事例。


まだ失敗したことが無いから、自分も必ず成功できるって疑わないんだろうな。


とりあえずはケンジ君がこっちを向いてくれるまで簡単な話しをゆっくりしようか。


しばらくの間、俺が異世界に着いた時の話しや、異世界の住人との交流の話しをゆっくりと話していると、ケンジ君の顔が次第に上を向いてきたことに気付く。


どうやら聞いてくれる気になってきたらしい。


俺は記憶から失敗談を探し話し出す。


マリス様は俺の異世界生活は完璧で順調だったって言ってくれるけど、実際はそうでも無かったんだよね。


初めてヘンリー様と会った時もずいぶんと疑われていて牢屋に入れかけられたし。


あの時は、リズとジャンが取り成してくれたから助かったしね。


ハーバラ村でもリズの存在が無かったら受け入れられることは無かっただろう。


そういった意味では、俺はリズ達に助けられてここまで来たんだな。



そんなことを考えながらゆっくりと講義を続けていると前列一番右手から手が上がる。


「加藤先生はご自身でずいぶん現地の人に助けられたとおっしゃっていますが、それはご本人の努力と能力が無しえたのではないですか?」


「そうですね、全く無いわけではありませんし、俺が異世界から来たことを信じてもらうためにはボールペンなどの日本の商品が役立ったのもありますからね。


でも大事なことは、それぞれの世界に出来るだけ合わせることじゃないかと思っています。


チートな能力だけで言えば、俺の持っている能力は破格だったと思いますが、それでもその使い方を十全に知っていたわけではありません。


長い生活の中で徐々に効率的な使い方を学んでいったように思います。


それよりも、相手の生活に合わせて知恵を少しづつ提供し、信頼を勝ち取ることから始めるのが上手くいくコツじゃないかと思います。


俺の時はリズ、俺の奥さんなんですが彼女の存在が非常に大きかったです。


彼女があの世界と俺を結び付けてくれ、彼女のおかげでチートな能力を上手く活かせたと思っています。」


「加藤先生はご自身の成功が奥様との出会いに起因しているとお考えなのでしょうか?」


「成功というのが何を指すのか俺には分かりません。


ただ、こうして皆さんよりも高い壇上でお話ししていることが成功であるとすればおっしゃる通りかもしれません。


ご質問の通り、リズとの出会いは俺の異世界生活の中で最大の喜びであり、ここでこうして居られるのもリズのおかげに間違いないでしょう。


人間個人が出来ることなんてたかだか知れています。


わたし達はそれぞれチートな能力を頂いてそれぞれの異世界へ来ています。


日本にいる時よりも出来ることが大きいですし、それはそれぞれの世界でも大きな影響を与えるモノでしょう。


ただそれだけで世界を変えれるわけでは無いと思います。


それぞれの世界の人達としっかりと手を組み、真摯に話しを聞きながら一歩づつ進めていかないと、皆さんのチートな能力を生かしきれないんです。


俺もそこだけはしっかりと言えます。」




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いつもお読み頂きありがとうございます。


好評連載中の拙著「100年生きられなきゃ異世界やり直し」とその続編である「100年生きられなきゃ異世界やり直し2」もお楽しみ頂ければ幸いです。


よろしくお願いいたします

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