第268話 【魔獣の襲来2】

<<ライズ視点>>

「それでだな、今日ここに来たのは、その騎士団からの情報で、魔物の死骸が見つかった3日前くらいから妙な地鳴り音が聞こえていたと聞いたからなんだ。」


俺の質問に食堂の親父はちょっと遠い目をしてから答えた。


「そういやそうかも知れないなぁ。


それが何か?」


「いやなにね、魔物の死骸と何か関連があるんじゃないかと思ってね。


どんな音だった?」


「そうですねー。


たしかに3日くらい前から低い地鳴りはあったかと思います。

でも、この辺りは砂嵐も多いですし、地鳴りのような音はよくあるんで、あまり気にはしていなかったんです。


でも… あれは魔物を発見した前日だったんですが、いつもとは明らかに違っていましたね。


夜半ですかね、始めは大きな地響きが近寄って来る感じでしたが、10分くらいで収まって。


静かになったなぁと思ってしばらくしたら、遠くから地響きが近寄って来て、一瞬大きな音がして、全ての音が無くなったんです。


何かと思って外に出たんですが、砂漠の辺りは夜になると明かりも無くて。

その日は月も隠れていて真っ暗だったんで何も見えなかったんですよ。


それで翌日に砂漠に見に行ったら、大量の魔物の死骸に遭遇したってわけです。


死骸って言ってもそりゃひどい有様でした。


まるで何かに食い散らかされたかのように、皮と骨が散乱していまして。


慌てて、近くで訓練をされていた騎士団様に報告に上がったんでさあ。」


「ありがとう。役に立ったよ。


お代はここに置いておくからね。ありがとうな。」


俺は店の主人に礼を言って、マライとの約束の場所に急いだ。


既にマライは到着していて、俺達は近くの喫茶店に入った。


「コヒーを2つ頼む。」


「かしこまりました。」


給仕の女の子が愛想よく注文を取ってくれ、スキップするように軽やかに厨房に向かっていった。


「ライズ、何か収穫はあったか?」


「おう、魔物の死骸の第1発見者に話しを聞くことができた。


話しを聞いているとひとつの仮説が立った。

前日に魔物が何かに追われていたようだな。

魔物達は砂漠の奥からこちらに逃げてきたところを、何か砂に潜っている奴に襲われ、一気に喰われてしまったようだ。


皮と骨だけが散乱していたらしい。」


「しかし、魔物100匹を一瞬に喰らうなんて普通じゃ考えられないが。」




ドドドドドドー、ドドドドドドー、ドドドドドドー


「ありゃ何の音だ?」


「砂漠の方だな、行ってみよう!」


俺達は喫茶店を飛び出し、音のする方へ急ぐ。


砂漠に到着すると前方500メートルくらいのところで大きな土煙が上がっていた。


「お、おい、あれってスタンピードじゃないのか!


俺前に見たことがあるわ!」


たしかに尋常じゃない範囲で土煙が上がっており、マライの言う通りならば大型の魔物が200はいそうだ。


「やべえ!!真っすぐこっちにやって来やがる。オアシスが飲み込まれるんじゃないか!!」


そうこう言っているうちに土煙との距離はどんどん縮まり、後200メートルくらいまで接近してきた。


砂煙の中に、サイや象、クマ等の大型魔物の姿が見え隠れしだした。


中にひときわ大きな魔物がいる。


ギガントだ。その姿は人間に似ているが身長は20メートル近くあり、攻城兵器をもってしても傷を付けることすら難しいと謂われる伝説の魔物だ。


その知能は高く、ギガント1体で国を滅ぼしたとの歴史も残っている。


「まずいぞ!! これは!! 避難命令が間に合わない!!」


ズズズズズズ、ズズズズズズ、



足元地下深くで振動が起こり、不気味な擦過音が響き渡る。


やがてそれは足元を抜け、徐々に静かになっていった。



ドゴーン、ドゴーン、ドゴーン、


残り150メートルまでに近づいた砂煙が大音響と共にひときわ立ち上がり、目の前が砂煙に覆われる。


魔物の断末魔ともとれる低い音がひとしきり鳴り響き、そしてその音が消える頃、砂煙もようやく晴れてきて砂煙に隠されていたスタンピードの全貌が明らかになった。


「「うっ!!!!」」


そこには魔物に貪り付きその肉を頬張る、サソリを本体として様々な魔物をへばり付かせた奇怪な生物、そう、おとぎ話に出てくる伝説の魔獣『キメラ』がいたのだった。



キメラは、その数多の口から吐き出す毒液や数えきれない鋭い牙で数100体にも及ぶ魔物を食い散らかしている。


最後となったギガントの胴体に食いついたまま、キメラはこちらを振り向き、ギロリと睨んできた。


もうダメだ。


俺は生きることをあきらめた。


あんなのに狙われて生きていられるわけがない。


キメラは咥えたギガントに満足したのか、それとも俺達のような小さき人間に興味は無いのか、睨むのを飽きたように後ろを振り返って歩き出し、そのまま砂漠の砂の中に消えて行ってしまった。





第12章 完

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