第265話 【レントゲン1】
<<ランス視点>>
今僕は、冒険者ギルドに来ています。
ダンジョンの攻略以来、この国の冒険者ギルドの質は他国よりも大きく向上しました。
皆んな一丸となって、魔法の習得や訓練に励んだからですが、それよりも団結力が強くなったことが一番大きいと言われています。
ギルド長のグリルさんのところには、各国から視察や訓練依頼が多数入っているとのことで、その対応に追われているそうです。
グリルさん自身は、各国の冒険者ギルドの質が上がることと、綿密な協力体制が構築できることに積極的なので、出来るだけ要請を受け入れたいのですが、訓練場所や宿泊場所、訓練教官等が足りず、躊躇しているようです。
「ランス様、今日はわざわざ来て頂いて申し訳ございません。」
「グリルさん、様はやめてくださいよ。僕だって冒険者ギルドに所属しているんですから。」
「ははは、そうでしたな。でもランス様にはお世話になりっぱなしなんで、他のギルド所属冒険者とは同じには思えないんですよね。ガハハハハ」
グリルさん、楽しそうです。
元々マサル共和国の冒険者ギルドは、キンコー王国、ハローマ王国、トカーイ帝国の冒険者ギルドから集められてきた人達なので、それぞれの国の冒険者ギルドには知り合いも多い。
だから、これまでも少しずつこちらの冒険者ギルドに移動して来る人達もいたんだよね。
各国の冒険者ギルドは、優秀な人材の流出を抑える為に自分のギルドの質を上げたいと思っているみたい。
「ランス様、今日来て頂いたのは、冒険者達の怪我のことなのです。
ご存知の通り、冒険者稼業はいつも危険と隣り合わせなんですよ。
だから少しくらいの怪我なんか気にもしないんですけどね、中には骨を折ったり、内臓に傷を負ったりしても、病院に行かない奴も多いんです。
自分が離脱することで、チームの収入が無くなってしまうこともありますからね。
そんな無理を繰り返していると、若くして冒険者を続けられ無くなる者が後を絶たない。
ギルドとしても、すぐに病院へ行くことを勧めるんですけど、病院も人手不足なもんで、1日仕事になっちまうんです。
だから、余計に病院に行かなくなっちゃうんですよ。」
「それは困ったものですね。」
「そうなんですよ。それで病院に行かなくても怪我の具合を簡単に判別できないものかと。」
「そうですねえ、魔法で回復させることはできますが、ある程度悪いところを直すイメージを持ってから魔法をかけないと、あんまり効かないんです。
だから回復魔法を魔道具に入れても効果は薄いんです。」
「そうですか。やっぱり無理ですか。」
「でも、体の中に流れている魔素を見ることで怪我の場所や状態をおおよそ掴むことはできるので、病院に行く必要があるかどうかの判定は出来るかも知れません。」
「ほ、本当ですか!」
「ええ、たぶん。お父様にも相談してみますね。」
「助かります。よろしくお願いします。」
僕は家に帰るとお父様に相談した。
「そうか、とりあえず患部と状況が分かればいいんだよな。
『レントゲン』を開発してみるか。」
お父様に何かアイデアがあるみたい。
「お父様、僕も手伝っていいですか。」
「じゃあ一緒に作ってみようか。」
「ランス、今から作るのは『レントゲン』という魔道具なんだ。
まず、魔素を少し濃縮するイメージをしてごらん。
それを目に集中させて自分の手を見るんだ。」
僕はお父様に言われた通り、濃縮した魔素を目に集中させる。
目の前が少し紫色になったところで、自分の手を見てみた。
焦点が合わなくて少し苦労したが、はっきり見えるようになると、手の中の骨が見えた。
「お父様、手が透けて見えます!」
「それが『レントゲン』の原理だ。
実は魔素はお父さんの故郷で、放射能と呼ばれていたものによく似ているんだ。
お父さんの故郷ではこの放射能を使った機械で身体の異常を検査していたんだ。
さあ、今の現象を魔道具に組み込んでみようか。」
魔素の濃縮はそんなに難しくは無い。ただ目で見る行為をどういう風に実現するべきなんだろう?
「ランス、前にビデオを見せたよね。あれはどうやって映像にしていた?」
あっそうだ、あの魔道具を応用すればいいのか!
ビデオの魔道具はガラスに映った映像を魔素に写し込んで微妙に変化させた魔素をそのままの形で魔核に閉じ込めるようにしたものだ。
ということは、目に入ってきた魔素をそのままの形で魔核に書き込んでやれば、ビデオの魔道具に写せるかも。
僕はお父様に手伝ってもらいながら、魔道具の作成に取り組んだ。
3日後、ついに画像としてビデオの魔道具に写すことに成功した。
「よくやったねランス。あとはこの映像を写真機で写してやれば静止画として残して置けるだろう。」
それから5日かけて静止画の判別の方法をまとめた資料を作成して、冒険者ギルドへ持ち込んだ。
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