第220話 【ランスの特訓2】
<<冒険者ナルン視点>>
俺は今猛烈に感動している。
俺はナルン。マサル共和国の冒険者ギルドに所属する冒険者だ。
自慢じゃないが俺はこのギルドでもベテランだ。
世界中のダンジョンを周り、俺が参加したパーティーがダンジョン攻略した数も両手に足りないくらいだ。
この国に来たのは、グリルに誘われたからだ。
年齢的にも引退を考えていた俺だが、以前に身を寄せていたギルドのギルド長であったグリルが新天地へ移動するに当たって、俺を誘ってくれたのだ。
新天地となる国名は『マサル共和国』。
あの救国の英雄マサル様が先ほど建国した新しい国である。
これまで無人島であったところを開拓したというから、原住民とのしがらみもない。
冒険者として長く生きてきた、ひとり者の俺にはもってこいの環境だった。
この国に来てすぐに、マサル様の御子息であるランス様が、土地を造成中にダンジョンを発見したと言う連絡があった。
しかもそのダンジョンに単独で侵入し、1階層目にいたモグラの魔物を大量に狩ったと言う。
その話しを聞いた時、俺は正直信じていなかった。
ただグリルは、冒険者にとって憧れとなるダンジョンが発見されたとしたら、この国の冒険者ギルドにとって僥倖であるため、非常に乗り気だった。
もちろん国王の御子息の言であることも大きかった。
ランス様の案内で、ダンジョンの攻略に向かう。
最初のダンジョン攻略から俺も参加していた。
ランス様が言った通り、1階層目に巨大なモグラが現れやがった。
俺は先頭に立ってモグラと対峙する。
デカイが戦えないほどじゃない。
実際に戦ってみたが、1、2匹であれば上位冒険者が3人もいれば充分倒せる。
ただ、1階層目に出る奴じゃあない。
高難易度と呼ばれるダンジョンでも、10階層くらいに出てきそうな魔物だ。
一緒に前衛に出た2人はまだB級に昇進したばかりだったから、少し手間取ったが、連携に慣れてくれば充分戦えるだろう。
俺は後ろで見ているグリルにサムズアップで、『大丈夫だ』と伝えた。
しばらく行くとたくさんの穴が空いているエリアに入った。
モグラの巣かとしばらく様子を見るも、何の気配も無い。
グリルに目配せをして、穴の先に進む。
しばらくして、突然モグラが全ての穴から顔を見せやがった。
ダメだ、多過ぎる。
気合いで倒せなくは無いが、この穴ぼこ地帯では、かなり不利な戦いになるだろう。
「引き返せ!」
俺は大声で怒鳴り、皆を下がらせる。
最後になった俺の頭上から『下がって下さい。』って声がする。
上を見ると、ランス様が浮かんでいた。
俺は急いでその場を下がる。
振り向くとランス様が魔法を使うところだった。
ランス様の魔法は一瞬で辺りを凍らせ、モグラも凍りついている。
あの冒険者ギルドで話していた、『モグラを仕留めた。』って言うのは本当だったのだ。
その後もランス様は、俺達の尻拭いをしてくれた。
おかげで、あんな大量のイノシシのスタンピードに遭遇したにも関わらず俺達は1人の死者も出さずに3階層目を踏破した。
2回目の挑戦となった昨日は、マサル様に助けられた。
俺達は自分が強く無いことに気付いたのだ。
今日冒険者ギルドでランス様による魔法研修があった。
俺は純粋な剣士で、魔法が使えない。
だから今日の研修は関係ないのだが、今日はダンジョン攻略が無いため、暇潰しにギルドに来てみた。
練習場に来てみると、思った以上に集まっている。
やはり魔法使いがほとんどだが、ランス様が講師ということで、興味半分の輩も多い。
まあ俺もその一人になるのだが。
後ろからだとランス様の姿は見えない。
ランス様はちっこいからな。
まだ9歳らしいじゃないか。
しかしあの魔法は超一流だった。
魔法の研修はどんどん進んでいる。
詠唱をしないでイメージを豊かにすることで、強力な魔法の発動がし易くなるらしい。
確かに難易度の高い魔法を成功させる魔法使いが出てきはじめた。
中には魔法を使えなかった剣士にも使えるようになった者まで現れた。
こうなってくると、冷やかし半分で参加していた連中の目の色が変わる。
しばらくすると、その中の何人かは、魔法が使えるようになったみたいだ。
俺も挑戦してみるが、やはりダメなようだ。
やはり体内に魔素を溜めることが出来ないと魔法が使えないという説は本当のようだ。
諦めかけた時、ランス様が言う。
「魔力が無くても魔素があれば、魔法は使えるみたいです。
だって魔道具があるでしょ。
火を着けられなかった人は、魔素を集めるイメージをしてから、火を着けるイメージして下さい。」
俺はその言葉を信じ、魔素を集めるようにイメージする。
何の反応も無い。
しかし一縷の望みを持って、魔素を集め続ける。
しばらくすると、少しずつ身体が暖かくなる気がする。
始めは身体の外側が、そして時間が経つに連れ身体の芯に暖かさが流れていくようだ。
これが魔力?
俺は手のひらを前に出し、その上に炎をイメージする。
ちょうどランタンが油を吸って火を灯すように、俺の身体にある魔力が手のひらに流れていき、火を着けるように。
何と言うことだろう!
微かではあるが炎が灯った。
俺は夢中で、魔素を集める訓練を行なった。
まだ実戦で使えるほどの速度では無理だが、これからの訓練次第では使えるようになるかもしれない。
俺が、その日から魔法の訓練を欠かさなくなったことは、言うまでも無いだろう。
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