第217話【ダンジョン再攻略1】

<<グリル視点>>

「よし、準備は出来たか?

今日はマサル様が検分として、一緒にダンジョンに入られる。

お前ら、気合い入れていけよ!」


「「「おー!」」」


ダンジョン2度目の挑戦だ。


前回みたいな不様な真似は出来ない。


もちろん、あの魔物達相手に油断することはあり得ない。


今日は総力戦で臨む。


前回、3階層まで行ったが、今回はそこから続けられるらしい。


俺達は庁舎の地下室に移動する。


前回、戻って来た場所だ。


あの時の悔しさが思い出される。


「皆さん、遅れずについてきて下さいねー。」


ランス様の声に皆頷く。


ゴクッっと、息を呑む音が響く。


ランス様に続いて光のゲートをくぐる。


目の前は、あの洞窟だった。



今回の挑戦には、冒険者120人を投入した。


30人1組で4チーム。

3チームが、入れ替わりで戦闘を行う。


怪我で戦えなくなった者が出たら、予備の4チーム目の者と入れ替える。


60人戦えなくなった時点で、リタイヤする予定だ。


ウチのギルドで当面、主戦場となるこのダンジョンを全員に経験させたかったんだ。


30人1組とするのは、ダンジョンが狭くてそれ以上は、動けなくなるからだった。


3階層目は、やはりイノシシが出てくる。


出来るだけ瞬殺しないと、この前の二の舞になるからだ。


それを踏まえてバランスの良いチーム構成にした。




奥に向かって進んで行くと、はぐれのイノシシが時々出てくる。


弓使いに先制をさせて、その隙に剣士が斬りかかる。


今のところ、各チーム3匹までは、対応出来るようになった。


マサル様から借りた『亜空間バッグ』という魔道具に獲物を次々と放り込んでいく。


なんとか3階層を突破出来た。


今のところ負傷者は数名だ。


1人重傷者がいたが、マサル様が持っておられたポーションで完全に回復してしまった。


他の連中も欲しそうにしているが、あんな回復力の高いポーションなんて、俺達に買えるわけ無かろう。



4階層目は、巨大蜂の魔物だった。


体長30センチメートル近い蜂が大挙して襲ってくる。


前衛の30人が、蜂の群れに囲まれた。


剣士が善戦しているが、相手が悪い。


弓使いが刺されてしまった。


剣士も疲れが出て来たみたいだ。


交代させたいが、被害が増える光景しか見えない。


歯噛みしていると、後ろから光の輪が戦っている冒険者達のところに飛んで行く。


その光に包まれた途端、彼等は息を吹き返した。


10数分の戦いの後、なんとか蜂を全滅させられた。


「あの光を浴びた途端に傷が全て癒えて、身体中に力が漲ってきたんだ。


光に包まれた後は、蜂の攻撃も弱く感じられて、一気に形勢が逆転したよ。」


興奮した彼等を労いながらマサル様を見ると、マサル様はニコッと笑みを浮かべて、サムズアップしてきた。


俺は深く頭を下げた。


それに気付いた皆も一斉にマサル様に頭を下げたのだった。




<<冒険者サリ視点>>

わたしの名はサリ。


エルフの血を受け継ぐ弓使いだ。


10年前まで、わたしはごく一般的な冒険者だった。


全世界にマリス様の祝福の光が振り撒かれた、そうマサル様とリザベート様がご成婚されたあの日、祝福の光を浴びたわたしの中のエルフの血が目覚めたのだ。


その日を境にわたしの弓矢に精霊が宿り、矢に炎を纏うようになったのだ。


決して消えない、燃えない、でも魔物だけを焼き尽くす紅蓮の炎は、D級冒険者だったわたしをA級に押し上げてくれた。


わたしの転機ともなった、マリス様の祝福を授けて下さったマサル様とリザベート様のお役に立ちたいと願い、今回の新規ギルドへの移動申請を出したのだ。



3階層でのイノシシの魔物は、手強かった。


だが、わたしの炎の矢を使えば、どうということは無い。


大き過ぎるため、さすがに矢だけで仕留めることは出来ない。


いや時間を掛ければ問題無いが、時間を掛けてしまうと、仲間を呼ばれる恐れが高い。


わたしの矢は、イノシシの目を貫き脳を焼く。


イノシシの動きを防いでいる間に間髪入れず剣士が数人掛りで斬り付け仕留めた。


この連携でイノシシを撃退し無事3階層を攻略したのだ。


皆の意気も高く、勇んで4階層に降りたのだが、そこには弓使いにとって最悪の蜂の魔物だ。


宙を飛び、羽根が放つ風は矢の方向を変えてしまう。


その羽音は不快で、思考力を低下させ、その尾の針が出す毒は身体を麻痺させてしまうのだ。


その蜂の魔物は体長30センチメートルで、宙を自在に飛ぶ蜂は矢で狙うには小さ過ぎ、刀で切るには動きが速過ぎる。


あっという間に我等は蜂に囲まれてしまう。


弓を振り回して蜂を落とそうとしたが牽制するのが精一杯だった。


剣士達も同様で刀を振り回すも、仕留めるには至らない。


時間が過ぎて行く中で、徐々に我等にも疲労が見え始め、蜂に刺され始めた。


やがて毒により重症化する者も現れ、もはやと思われた時、我等を淡い光が包んだ。


光は疲れを癒し、毒を中和していく。

反対に蜂達は苦しそうだ。


思わぬ形勢逆転に我等は勢い付き、一気に蜂を殲滅していった。


わたしは、この光をあの日の祝福の光に重ねた。

そしてマリス様に感謝する。


祈りを終え振り返ると、マサル様の優しい笑顔が見えたのだった。





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