第216話 【冒険者ギルドの解体室】

<<ランス視点>>

転移の魔方陣を使って庁舎まで戻って来た。


グリルさん達、へとへとみたい。


庁舎内に残っていた冒険者の人に、魔物の買い取りについて聞いてみた。


魔物を解体して部位を取り出す必要があるみたい。


ギルドでも解体してくれるって言うから、解体場に付いていった。


「ここで解体するんだよ。

ところで魔物はどこだい?

リュックの中かい?」


「ここにおけば良いのですか?

ちょっと場所が狭いかも。」


「おお、凄えなぁ。楽しみだねぇ。


この部屋の中ならどこでもいいよ。」


冒険者のおじさんは、ニコニコしながらそう言った。


「じゃあ出しますね。」


僕は亜空間を開いて、イノシシの魔物を床に広げた。


部屋中、山のように積み上げられた魔物に、おじさんもビックリ。


イノシシは体長5メートルくらいのが、52匹いたからね。


それ以外にもモグラが60、カエルが20匹、亜空間に入っている。


身動きが取れない状況だったから、半分以上をもう一度収納した。


「なんだいさっきの量は。

スタンピードでもあったのかい?」


「うん、イノシシは1匹やっつけたら、仲間を呼んじゃったんだよね。」


「なるほど、よく生きて帰れたもんだ。

しかし、鮮度がいいな。


ただのマジックバッグじゃねえな。」


「これは空間魔法です。中では時間も止まっているから、いつまでも新鮮なんです。」


「こりゃ驚いた。しかしすごいもんだ。


とりあえず今日はこれ1匹で手一杯になりそうだから、また明日にでも持って来てくれるかい。」


「分かりました。おじさん、よろしくお願いします。

じゃあまた明日。」


僕は冒険者ギルドを後にして家に帰った。


夕食の時にお父様に今日の話しをしたら、次は自分も行きたいだって。




<<冒険者ギルド解体室ベンチ視点>>

さっき妙なガキが来やがったんだ。


魔物を狩ったから買って欲しいって言うんだぜ。


まだ10歳くらいの子供がだ。


この国に冒険者ギルドを作るって言うから来たんだけど、今日初めてギルド長のグリルさん達が、ダンジョンに潜るって話しを聞いたところだ。


暇にはちげいねえ。


子供の相手でもしてやるか。


リュックを背負って、綺麗な身形の少年は、どう見ても狩りに行っていたように見えない。


冗談で、ここに出してみなって言ったら、部屋が狭過ぎるって言いやがった。


構わないと言ってやると、目の前が明るく光り、部屋中に馬鹿でかいイノシシが山積みになってた。


このままじゃ、身動きもとれねぇ。


そう思っていたら半分くらいの量になり、ようやく検分出来るようになった。


こんな馬鹿でかいもん、どうやって仕留めたんだよ。


1匹でもA級指定じゃねえのかい。


触ってみると鮮度が高い。

まるで今狩ったばかりのようだ。


少年に聞いてみると空間魔法とか言っている。


よくわからねぇが、時間の止まるマジックバッグみたいなもんだな。


とりあえず全部は解体出来ないから、1匹だけ残して翌日にまた来てくれるように頼んだ。



少年が帰った後、解体作業をしていると、ギルド長がやって来た。


目の前のイノシシを見て、深いため息をついた。


「これ持って来たの、子供だったろう。」


「ええ、これと同じイノシシを部屋いっぱい持っていましたぜ。


ギルド長は、彼をご存知なんですか?」


「彼はこの国の王マサル様の御子息のランス様だ。


そのイノシシは、今日俺達が行ったダンジョンで彼が1人で倒した獲物だ。」


「あれを全部ですか!?」


「正確にはあの中の1匹だけ、俺達冒険者全員で倒した。


後は全て彼が1人で、それも一瞬で倒したんだよ。


はあぁ、英雄の子はやっぱり英雄なんだな。」


ギルド長が遠い目をしていた。




<<マサル視点>>

先日夕食時に、ランスが冒険者に連れられて、ダンジョンに行って来た時の話しをしていた。


結構な魔物が居ると言うことで、次は俺も一緒に行くことにしたんだ。


ダンジョンは冒険者ギルドの管轄下だから、今度も冒険者達と一緒に入ることになる。


俺達だけの方が小回りが効いていいんだけど、今後の管理まで考えると、冒険者ギルドに主導してもらった方が良いだろう。


メンツの問題もあるだろうし。


日本人の小市民的な性格は、何年経っても抜けないようだ。



ギルド長のグリルさんと、冒険者ギルドの事務所で打ち合わせを行う。


「マサル様、わざわざご足労頂きありがとうございます。


今回の再攻略にはマサル様もご参加頂けるとか、助かります。」


「お邪魔になるかもしれませんが。

また息子のランスも参加させて頂きます。」


「滅相もない。前回の攻略の際はランス様が居られなければ、全滅してました。


参加して頂けると非常に助かります。」


「ありがとうございます。


それで、今回の計画はどのような感じになりますか?」


「そうですね、あのダンジョンには、今までの基準を超える魔物がいると思われます。


たかが3階層で、あのイノシシですからね。


今の冒険者達には、荷が重過ぎると思います。


出来れば、マサル様、ランス様の後を荷物持ちや露払いで結構ですから、お供させて下さい。


わたし達がいると、邪魔なのは承知していますが、新しいギルドで、冒険者を纏めて行くには、実績も必要なんです。


つまらねえ見栄なんですが。」


「グリルさん、大丈夫です。

お立場はよく分かりますので。


あくまでも、わたし達は検分というスタンスで参加させて頂きます。


もちろん、狩りのお手伝いはさせて頂きますが。」


涙ぐみながら頭を下げるグリルさんに、俺は手を差し出して固く握手をした。









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