第211話【学校を作ろう】

<<スポック視点>>

マサル共和国の各家庭には、『テレホン』というマサル様の発明した魔道具が備え付けてあります。


各家に出ている線に繋がったトランシーバーのような物で、それぞれに固有の8桁番号が振ってあり、その番号を押すと、特定の家と連絡が取れるものです。


通話範囲は国内に限定されますが、とても便利な物で国民からも高い評価を受けています。


一方、従来からあるトランシーバーは、各国の政府や役所で既に使われており、国内の主要拠点や国家間のやりとりに利用されています。


トランシーバーは、利用用途を国家運営に限定することが、国際連合総会で決議されているので、民生用途では利用できないのです。


各国からは、『自国内でのみ使えて、通話範囲を限定できるトランシーバー』の開発を求められていたそうで、その製品第1号が『テレホン』です。


トランシーバーは、個人が持てることや世界中どことでも通話出来ること、多人数で会話出来ること等、非常に機能が高いので、『これを量産すれば良いのでは』という意見もあったのですが、悪用された場合、非常に危険性が高いため、利用用途を限定することになったのです。


マサル様は、将来的には『テレホン』をトランシーバーくらいの利便性に持っていきたいようですが。



『テレホン』は、マサル共和国の集合住宅を建設した際に、全戸に備え付けてあります。


既に各国からは大勢の視察団が訪れ、導入の決まっている国もいくつかあります。






「スポックさん、ジョージさん、今から執務室まで来て頂けませんでしょうか。」


マサル様からトランシーバーで連絡が来ました。


ジョージさんにも同時に繋がっているようです。


わたしはマサル様の執務室に向かいました。


ジョージさんは既に来ていました。


「ふたり共、急に申し訳ありませんでした。


実は、学校の建設をしたいと思いまして。


住民の人数から考えて、小学校が3つ、中学校が3つ、高等学校が1つくらいでしょうか。


あと大人用に職業訓練校も欲しいですね。


建設用地については、区画整理時に空けてある土地があるので、そこを利用して下さい。


教師については、国内を優先して採用し、足りなければ他国に要請して、なんとか揃えましょう。


何か気になることはありますか?」


「学校の運営資金はどうしますか?」


「基本的には全て税収で考えています。

学費は全て無料にしたいのですが、それでは他国とのバランスが取れなくなってしまいます。


各国の学費を調査して、最低レベルに設定しましょう。


あと、自国民には小学校と職業訓練校は無償で、中学校、高等学校への進学者については、特待生制度と、低金利の奨学金制度を導入しましょうか。


そうですね、小学校は義務教育にしましょう。


そうすれば、将来的には全国民が読み書き計算が出来るようになりますよね。


職業訓練校は、再就職支援事業としますか。」



よくこんなにアイデアが出てくるものだと、今更ながら感心します。


このマサル様のアイデアを具現化していくのがわたし達の使命なので、もちろん頑張りますよ。


「分かりました。小学校から順次建設を始めます。


教師については、中学校以上の卒業者を公募し、筆記と面接の試験を行って採用しようと思います。」


「学校の設備や設計、採用基準については、研究室の先生方に相談すれば良いと思います。


建設については、わたしや子供達も協力しますので、遠慮なく声をかけて下さいね。」


「申し訳ありませんが、よろしくお願いします。」


マサル様の言葉に、ジョージさんは恐縮していますが、マサル様はヤル気満々のようですね。






小学校3ヶ所の建設と、教師の採用は、2ヶ月ほどで終了しました。


教師にはマリス教マサル派のシスター様達が、名乗りを挙げてくれたのです。


マサル様の建国ということで、マサル派の総本山もキンコー王国から、こちらに移動して来ているので、人材は豊富でした。


マサル様が大神官なので、おかしなことにはならないと思うのですが。


この国に国教はありません。

自由に宗教を選べるのですが、基本大多数が、マリス教マサル派を信心しています。


加えて、マサル様とリザベート様を生き神様として崇拝していますが。


とりあえず、義務教育の御触れを出しました。


マサル様とリザベート様の像は、ますます売れているようですね。


国庫に入ってくる特許使用料が半端無いです。


これだけで、小学校の運営資金が捻出出来そうです。

えっ、シスター達の給与は不要?


慈善活動の一環として見ていると。


有り難いことです。




小学校が始まりました。


1年生から6年生までで、約1000人ですね。


初登校日の午後、3人の学校長からそれぞれ連絡が来ました。


どうやら、2割くらいの生徒が家庭の事情で登校出来ないようです。


最大の理由は、親の共働きで幼い兄弟の面倒を見る必要があるからと。


後は既に働いているという者ですね。



家庭の事情はなかなか難しい問題です。

ひとりでいろいろ考えましたが、良いアイデアが浮かびません。


申し訳無い気持ちで、マサル様に相談しました。


「幼い兄弟の面倒を見る必要があるのであれば、無償の託児所を作りましょう。


既に働いている子には、夜間学級を試験的に実施してみましょう。


効果をみてから、最善策を考えましょうか。」


って言われました。


無理を通すのではなく、出来る改善案を考えて行動するのですね。


まだまだ、思慮が足りなかったです。


もっと頭を柔軟にしないとダメですね。



マサル様のアイデアを採用したところ、小学校への就学率はほぼ100%になりました。







先日、小学校と託児所を視察してきました。


どちらも、外まで聞こえる元気な子供達の声に、これまでの苦労が報われた気がします。

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