第207話【ジョージ再び】

<<リザベート視点>>

第4陣の移住者が港に到着しました。


第1次移住者10,000人はこれで最後です。


第4陣は、農業従事者がほとんどです。


農地についてはローバー先生とランスが頑張って作ってくれました。


わたしも確認に行きましたが、広さも土の質も問題無さそうです。


都市部は、全て集合住宅にしましたが、農地の方は3階建てのテラスハウスにしました。


農家には自宅にも作業スペースが必要ですからね。





さて、船から第4陣が続々と降りて来ます。


いつものように歓迎セレモニーを行っています。


すっかり街の名物になっていて、これを見るために観光に訪れる人達もいます。




降りて来る人波の中に一際異質の一団がいますね。


ちょっと厳ついっていうか。


あっ、あれはもしかして、ジョージさん達じゃないですか!


相変わらず荒くれ者みたいな風貌です。


ジョージさんも顎髭が立派になっていて、ちょっと見、分かりませんでしたよ。


「ジョージさ~ん!」


「あっリザベート様?」


最後にお会いしたのはいつ頃でしたでしょうか。


わたしも、あの頃からずいぶん容姿も変わってしまいましたからね。


分からなくてもしようがありません。


「やっぱり、リザベート様だ。

この度は、建国おめでとうございます。」


「ジョージさん、ずいぶんご無沙汰致しております。


皆さんもお元気そうで良かったです。


ええっと、トムさんとヤムさん、それとハムさんでしたわね。


後の方は初めましてだったかしら。

忘れてたらごめんなさいね。」


「うおー、俺達の名前まで覚えていて頂けたなんて!


こんなに、う、嬉しいことはありやせんぜ。


リ、リザベート様、ありがとうございます。


やっぱりリザベート様は聖女様だったよ。」


トムさん、そんなに感激しなくても良いんですよ。


と言うか、やめてもらっても良いですか。


観光客の皆様が騒いでいますからね。


「とにかく、降りて来る人達が後ろで詰まってますから、前に進んで下さいね。」


ジョージさん達を見送り、次々と降りて来る人達を歓迎しながら、迎え入れました。


いつものように、カトウ運輸の皆さんが引率して下さいます。


マリヤさん達は、若い女の子達に有名店の紹介をしているようです。


ショーウィンドウに飾ってある商品の値札を見て、皆さん驚いていますね。



「リザベート様、先ほどは失礼しました。


綺麗な街ですね。」


「ジョージさん、ありがとうございます。


ところで、移住者に混じって来られたみたいですが?」


「そうなんですよ。我々も移住希望です。


ひと通り世界中の土木工事をやって来ましたからね。


そろそろ、落ち着いて仕事をしたいなぁと思いまして。


やっぱり落ち着くなら、この国だろうって話しになりました。


トムの奴も所帯を持つみたいですし。」


さっきは気付かなかったのですが、少しニヤけたトムさんの後ろに、可愛らしい女の人が歩いています。


上着の裾をちょこんと掴んでいますね。


「トムさん、今ジョージさんに聞きましたわ。

おめでとうございます。」


「リザベート様ありがとうございます。


ほら、ちゃんとご挨拶しないと。


この国の王妃様で、聖女のリザベート様だ。


リザベート様、こいつはサリーって言います。」


「サリーさん、ようこそいらっしゃいました。」


サリーさんは泣き顔になりながら、道路に跪きました。


それを見た移住者の皆さんが一斉に跪きます。


「み、皆さん、顔を上げて下さい。


もお~。トムさん、こんなところで、そんな紹介の仕方をするからですよ。


本当に、皆さん顔を上げて下さいね。」


皆さん顔を上げてくれません。

それどころか、拝んでいる人達もいます。


本当に困ってしまいました。

「おや? リズどうしたんだい?」


わたしが遅いのが気になったみたいで、マサルさんがやって来ました。


「「「き、救国の英雄 マ、マサル様」」」


「「「大神官、マサル様」」」


余計に大変なことになりました。


たまたま視察に訪れていたマリス教マサル派の神官達も混じってしまい、ますます混沌となってしまったのでした。




<<サリー視点>>

わたしがトムさんに初めてお会いしたのは、わたしの村にジョージ様達がやって来た時です。


あんなに怖い顔をしていますから、最初見た時は本当に怖かったんです。


でもね、わたしが村の荒くれ者に襲われそうになった時は、10人もいた荒くれ者達を、1人であっという間にやっつけてくれました。


「お、お嬢さん、だ、大丈夫で、ですか?」


「へっ?あっ、ありがとうございました。

大丈夫です。」


怖い顔を真っ赤にして、どもりながらも、わたしを気遣ってくれるところが、顔の怖さとのギャップが大きく、それがひどく可笑しくて。


庄屋の次女として生まれたわたしは、お姉ちゃんと違って、婿を取る必要も無く、ある程度自由に恋愛することが許されていました。


だからっていって、小さな村のことですからね、窮屈なことには変わりありません。


庄屋の娘ということで、言い寄って来る者も少なかったのです。


でもわたし、かなりの人見知りなので、近寄ってくる男の人って怖くて。


そんなことで、20歳になっても彼氏の1人も作らず、ますます行き遅れ感が漂っていました。


そんなわたしのどこが気に入ったのか、トムさんはいつもわたしを気遣ってくれました。


トムさんとは、いろいろな話しをするようになり、彼のことが分かってきました。


彼は、たまに自宅に来られるジョージ様と一緒にいろんな国を廻って、土木工事を行い、農村改革のプロフェショナルと呼ばれる有名人だったみたいです。


お父さんに聞くと、王都で大人気と聞いている演劇『マサル、ハーバラ村の奇跡』にも登場しているらしいのです。


わたしがトムさんと親しくしていることを知ったお父さんは、やたらトムさんを薦めてくるようになりました。


わたしとトムさんは、微妙な距離を保ったまま、数ヶ月が過ぎました。


そして、村での作業も終わり、トムさん達は村を離れることになりました。


トムさんは、家の外をウロウロしています。


「サリー、着いて行きなさい。

トムさんが好きなんでしょ。」


お姉ちゃんが背中を押してくれました。


わたしは思い切って、トムさんの前に行きました。


トムさんは少し驚いていましたが、意を決したようにわたしに言ってくれました。


「俺と一緒になって下さい。

絶対幸せにしますから。」

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