第174話 【学校と民度】

<<ヤコブ改革担当ネリヤ視点>>

本日は村の学校を見学します。


そもそも言っちゃなんですが、学校って有力者の子息が行くところですよね。


たしかにルソン様からジャボ大陸では最近学校が増えて、識字率や計算の出来る人が激増しているとは聞いていましたが。


こんな小さな村に学校があること自体おかしな話で、通う子供達がいるのでしょうか?




学校に着いて驚きました。

しっかりとした校舎にたくさんの子供達がいます。


わたし達がいた村の中心部以外にも各地から移住して来た人々が集落をいくつか作っているみたいで、子供の数も多くなったそうです。


子供達は年齢別のクラスに分かれて、読み書きや計算、地理や歴史等を学んでいました。


小学校は一般的に5歳から11歳までの7年間通うことになるそうです。


カリキュラム自体は5年分だそうですが、春休みや収穫祭休み等の長期休みがあったり、家庭の事情を考慮して長めに7年間とっているそうです。


長期休みには、小学校卒業後にしっかり社会に出られるように、職業体験や各地域での交流等を行うそうです。


小学校は、最低6年間は通うことが義務付けられており、優秀者は中学校への進学もあるとのことです。


よく出来たシステムだと思います。


ただヤコブでは、幼い兄弟の面倒を見るために学校に通えない子供達も出てくると思われます。


「幼い兄弟の世話のために学校に通えない子供達はいないですか?」


「そうですね、たしかに家庭の事情や病人の看病等で通えない子達もいるかもしれません。


ただこの村では、村民達が協力し合って、そうならないようにしています。


助け合いの心を育むのも教育ですからね。」


案内してくれている村民が答えてくれました。


この考え方が浸透しているからこそ、この村の高い民度が定着しているのでしょうね。


民度が先か教育が先かの問題はあると思いますが、民度を高めるための工夫として、『道徳』の時間というものを、小学校では取り入れていると聞きました。


『道徳』の授業では、他人を思いやる心や、人との接し方、集団の中での考えるべきこと等を教えるそうです。


民度を高めるのは非常に長い時間が掛かりますが、教育に組み込むとは、考えたものです。




各クラスの授業内容を聴いていましたが、教える教師陣が良いのでしょうか、しっかりした授業内容になっています。


教師の育成は、非常に難しいと聞いていましたが、こんな地方の村にこのレベルの教師を置けるなんて。


わたしは村長のフレディさんに聞いてみました。


「ああ、先生方のことですね。


実は王立アカデミーの先生方が小学校、中学校の教師を大量に育成して下さっているのです。


アカデミーには『次世代の農村を考える会』という大人気の研究会がありまして、そこで学んでおられる生徒の皆さんが率先して各地の農村に教師として来て下さっているのです。


ちなみに、各所で代官や改革推進されている方々の多くはこの研究会の出身者だと聞いています。


実はこの研究会、カトウ公爵様の奥方であるリザベート様が立ち上げられたのですよ。」


フレディ村長は少し興奮気味にお話しされています。


なるほど、きちんとした教師の育成システムがあるから、これだけの教師を養成出来るわけですね。


しかしまだ改革が始まって15 年ほどだというのに、これだけの先見性を持ったシステムが構築されていることに驚きです。


我々もしっかりとこのシステムを学んで、構築出来るようにしなくてはいけないですね。


責任重大です。




校内の見学が終わり、校長室で学校運営や教育内容について伺っていると、日もだいぶ暮れてきました。


すると既に子供達が帰った校舎で声が聞こえてきます。


廊下に出てみると、たくさんの大人達が教室に入っていきます。


「あの方々は?」


「ああ、夜学のことですね。


この村に学校が出来てからまだ10数年です。


大人達の中には教育を受けていない者がほとんどでしたので、要望に応じる形で、大人達のための夜学を5年ほど前に開設したのです。


小学生レベル、中学生レベル、農業や建設等の専門課程まで、幅広く学んでおられます。


専門課程では、アカデミーの先生方や王都の学者先生も教えに来て下さっていますよ。」


豊かな生活が子供達に教育を与え、それに感化された親達も教育を受けることで、学んだ知識を使って更に生活が豊かにする。


村全体が豊かになることで、人口も増え、収穫量も増加していく。


まさに絵に描いたような改革成果です。


このような現象がジャボ大陸全域に広まりつつあり、それを国家間を超えて支援する組織や仕組みもあると聞きました。


これほどの大計を描いた方は、神としか言いようが無いでしょう。


わたし達は、半ば呆然としながらも、自国での取り組みに頭を悩ませるのでした。

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