第175話 【どこから手をつけて行こうか】
<<ロンドー改革担当ヘンリー視点>>
ジャボ大陸の視察を終え、ロンドーに戻ってきた。
ハーバラ村の視察後、わたし達はナーラの街の整然とした街並みや『アパート』と呼ばれる集合住宅、大規模な上下水システム、魔道具による街灯等様々なものに驚かされた。
中でも最も驚いたのは、スラムが無いことだ。
いや正確に言えば、わたし達が知るスラム街が無いというべきか。
本来ならスラムの住人となるべき孤児や怪我や病気で働けない者達はたしかに存在する。
しかし彼等は、立派な設備の整っている孤児院や領が経営するアパートに住み、きちんとした文化的な生活を送っている。
孤児院では教育も施され、11歳になる頃には小学校卒業程度の学力がつくようになっているという。
実際、孤児院の出身者の定職率は、90パーセントを超えるらしい。
また、怪我や病気で働けない者達も同様だ。
それぞれが働ける環境を提供されて、しっかり働いている。
元々カトウ運輸というカトウ公爵様が起業された会社が、仕事の細分化を行い『分業』という考え方を導入されたらしい。
我等が考える仕事とは、全ての工程をひとりでこなすのが常識だが、『分業』では違う。
仕事の工程を細かく分けて、ひとりひとりは、その分けらた工程のみを行うのだ。
カトウ公爵様によると、『適材適所』と呼ぶらしい。
『適材適所』とは、それぞれが自分に適した仕事に特化して仕事をすることで、十二分に成果を上げるということだ。
例えば力自慢だが、細かい作業が苦手な者がいたとする。
彼が木工職人になった場合、材料の木を切り出したり、荒削りの作業は得意だろう。
しかし、下書きや細かな細工は苦手となると、彼は木工職人不適合の烙印を押されるに違いない。
『適材適所』の考え方では、木を切り出す工程と下書きの工程、荒削りの工程、細かな細工の工程をそれぞれ別の者が行うと考える。
そうすると前出の力自慢の彼は2つの仕事ができることになる。
しかも、この2つの仕事は力仕事に特化しているから、全てをこなす職人よりも、早く終わらせることができる可能性が高い。
この『適材適所』の考え方を当てはめれば、足を悪くして歩けない元冒険者は、事務仕事につけば良いし、頭は良く無いが力自慢のものは、荷物運びに精を出せば良い。
もちろん、元冒険者に教育を施す必要はあるが、これは教育システムを拡充することで賄える。
カトウ運輸で『適材適所』を考慮した『分業』を導入した効果はカトウ運輸のその後の大躍進を見れば明らかだったという。
ジャボ大陸で『分業』を採用するところが増えたのも当たり前だろう。
スラムの住人に『アパート』『教育』『仕事』を与えれば、必然的にスラムは無くなるというわけだ。
非常に良く出来た社会システムだ。
我がロンドーでは、人は余っているが、全ての仕事に余裕があるわけでは無い。
仕事ができる者が限られており、仕事を与えられ無い者が多いということだ。
『適材適所による分業化』が実現すれば、失業率を抑えて経済を活性化させることが可能かもしれない。
わたしは、カトウ運輸のヤング様にそのあたりのノウハウをご教授頂いた。
ロンドーにもカトウ運輸の物流センターを設置することになっている。
カトウ運輸の物流センターを参考に、他の業種への適用を考えていこうと思う。
我等は1週間の視察を終え、ロンドーに戻ってきた。
これから、ロンドー、ヤライ、ヤコブの3国による協定を締結することになっている。
今後ジャボ大陸と交易を始めるにあたり、亜人大陸でもしっかりとした同盟関係を築き、文化を高め、ジャボ大陸の各国と同等の文化レベルを早急に持つ必要があるからだ。
また、同時に3国共『国際連合』に加盟することを決定した。
スパニとの争いに備えることもあるが、それよりも『特許』と『国際裁判所』を利用することで、合法的に先進技術を採り込めるのは魅力的だった。
この『特許』と『国際裁判所』という仕組みは画期的だ。
まず特許だが、考案した技術を秘匿するのではなく、逆に公にすることで権利を主張する。
つまり、自分が開発した技術を堂々と使用できるわけだ。
これにより、秘匿するあまり開発者の死と共にその技術が失われたり、利用用途が限られてしまう等ということが無くなる。
特許登録された技術は、他者でも使用できるが、その際には特許使用料というものを支払う必要がある。
つまり、新規開発した技術を他者が使用する場合は特許使用料金が発生し、その使用料は特許を登録した者に入るわけだ。
これまでは、秘匿のため自分でしか使用できなかったので、せっかく素晴らしい技術でも失われてしまったものはあまりに多い。
今後ジャボ大陸と交易していく中で、これらは必須条件だと思う。
しかし、10数年であれだけの進歩を実現したジャボ大陸のキャパシティは素晴らしいの一言だった。
無事同盟協定の調停も終わり、各国首脳と我々改革担当者が集まって、今後についての第1回会議を始めた。
「さて、皆も視察ご苦労だった。
いろいろ見てきた中で、思うところもあると思うが、一歩づつでも進めて行きたい。
意見のある者は発言をしてくれ。」
「わたしは、教育制度作りから始めるのが良いと思います。
成果が出るには時間が掛かりますが、将来的にみて一番効果がでるものだと確信しております。」
ヤコブ族のネリヤ殿が発言されました。
「わたしは農村改革から進めていくべきだと思います。
ヤライでは、農業従事者が多く子供達も仕事を与えられています。
子供達の手を空けるのが先決だと思いました。」
なるほど、ヤライならではの問題を含んでいますね。
「わたしは、仕事の分業化を推進していきたいと思っています。
仕事の生産性を上げるのと同時に雇用の促進を図りたいと思います。
ロンドーの非就業率の改善にもなるからです。」
ロンドーの現状改善には分業が外せません。
「3人の意見は良く分かった。
3国の抱える問題と視察結果が上手く結び付いているようだな。
カーン殿、ルソン殿、3国それぞれで、今のテーマで進めてみてはどうだろう。
定期的にそれぞれの進捗を報告する会議でそれを擦り合わせるということで。」
「「アーク殿、それでいきましょう。」」
こうして、改革の進め方が決まりました。
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