第162話 【ロンドーとの交渉】
<<ロンドー族皇太子アーク視点>>
昨日、ヤライ族の族長であるカーン殿が、王宮に来られた。
ロンドーとヤライとの関係修復の足掛かりとして、カーン殿のひとり娘をわたしの妃にしたいとの申し出だった。
ヤライ族とは古くからの因縁があり、50年前に我がロンドーから独立してからは、ほとんど交流が無い。
わたしは、まだ70歳なので、ヤライが属国になる前を知らないが、父や長老達はヤライに対して深い憎悪の感情を持っているようだ。
今ロンドーは、人口の増加に食糧事情が追いついていない。
特にヤライが独立してからは、悪化の一途を辿っている。
属国であったヤライの生産物に頼っていた訳だ。
ヤライは独立後、順調に国作りを進め、今では我が国であっても迂闊に手を出せないようになっている。
ヤライは我がロンドーと違い、農業生産が盛んだ。
ただ、人口は年々減少している。
つまり食糧は余っているのだ。
しかも、人口が足りないため非耕作地が年々増えているらしい。
なら、ヤライから正規の貿易取引として、食糧を輸入すれば良いのだが、父や長老達のわだかまりがそれを阻害しているのだ。
わたしから見れば、ナンセンスな話しで、そんな何の価値も無いプライドなんて糞食らえだ。
こちらで問題になっている非就業者をヤライで受け入れてもらい、非耕作地を減らしてもらうと同時に、生産物を輸入すればお互いに今後の成長が望めるだろう。
実は40年ほど前に、わたしとヤライの族長の娘との婚姻を画策したことがある。
ヤライから妃をもらうことで、2国間の繋がりやわだかまりを払拭して、お互いの国の発展を目指そうと考えたのだ。
2国が親密になることで、当時力を付けてきたスパニに対抗する意味合いもあった。
この提案は、独立後間近と言うこともあり、また当時のわたしの発言権が弱かったことも含め、自然消滅してしまった。
今は当時ほど父や長老達の力も大きくなくなっている。
つまり、ヤライのカーン族長の申し出はわたしにとって、渡りに船だったのである。
カーン殿には貴賓室を用意し、待機して頂いている。
今日は朝からロンドーの主要な者を集めて、昨日のカーン殿の提案について協議中だ。
「ヤライの娘を妃として、我が国とヤライが対等な立場になるだと!
馬鹿も休み休みに言え。
最近まで属国だった国とそんな関係を築けるはずが無かろう!!」
「そうだ、ヤライが属国として戻るのであれば、妾くらいにはしても良いが!」
皆好きなことを言っている。
「ヤクル、お前の意見はどうだ。」
わたしはヤクルに意見を求めた。
ヤクルは、若いが頭が切れ合理的にモノを考えられる。
次期宰相候補の筆頭だ。
「はい、わたしはこの提案、受け入れるべきだと思います。」
「それはどうしてだ。」
「理由はいくつかあります。
第1に、我が国の食糧不足と、非就業者増大の問題があります。
我が国は工業生産に力を置き成長して来ました。
反面耕作地は減り、すぐに農業生産力を上げるのは難しい状況です。
また、人口増加の勢いは依然として衰えず、働く場所が無い若者が増え、我が国の財政を圧迫しているのも事実です。
対して、ヤライでは人口の減少に歯止めがかからず、非耕作地が増えていると聞いています。
ヤライとの関係修復は、双方の問題解決の近道となりますでしょう。
第2に、ヤライとヤコブの関係があります。
ヤコブはご存知の通りヤライとの親密度が高く、ヤライと対立する我が国とは一線を引いております。
ヤコブの高い技術力を学ぶためにはヤライとの関係改善が最も効果があると思います。
また、ヤコブは最近後継者争いで揉めておりましたが、ジャバ大陸に行っていたルソン殿が、後継者に決まったようです。
今後、ヤコブはジャバ大陸との交易を推進していくでしょう。
我が国にとってもジャバ大陸との交易の取っ掛かりを得ることは、将来的な国益を考えた場合、必須だと思います。
第3として、スパニとの関係があります。
我が国を凌ぐほどの規模となったスパニは、既に我が国の脅威となっています。
スパニに対抗するためにも、ヤライやヤコブとの同盟は必要です。」
ヤクルの話しに、一同は言葉を失う。
全てが的を得ていて反論の余地が全く見つからないのだ。
「ヤクルの言う通りだ。
我々は考えを改めるべき時が来たのだな。
いや、若い世代に交代するべきだな。
アーク、本日この時から王権をお前に移譲する。
この件、お前の初仕事とするがよい。」
父王のこの一言で、政権を担う体制は大幅に入れ替わり、新しいロンドーへの船出となったのだ。
「カーン殿、お待たせした。
我が国としても、貴殿の提案を受け入れたいと思う。
今後は、ロンドー、ヤライが対等な国として交流を深めていくことをお願いしたい。」
「アーク殿、ありがとうございます。」
「カーン殿、貴殿の娘さんとの婚姻を発表する際にわたしの王位継承も発表する予定です。
末長くお願いします、父上殿。」
わたし達は熱い握手を交わした後、今後の段取りについて話し合ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます