第160話 【閑話 デカの思い出】

<<デカ視点>>

わたしは、ヤライ族のデカ。

元気な8歳の女の子です。


今日はお父様の誕生日。

お父様に何かプレゼントをしたくて、森に来たの。


もちろんお父様には内緒よ。


おっきな森にはキノコや果物なんかがいっぱいあるの。


奥の方に入ると怖い魔物や動物がいるから、危ないって言われてるの。


だから森の奥には近づかないように気をつけなくっちゃ。



森の中に入って行くとキノコがあった。


これは食べられるヤツね。

こっちは毒キノコだわ。


あっ、あそこにウサギがいた!

よく太っていて美味しそう。


お父様はウサギの肉が大好物だったわね。


捕まえなきゃ。

精霊様、力を貸して下さいね。


わたしは、風の精霊魔法を使って、ウサギを射ようとした。


あっ外れた。


驚いたウサギが逃げていく。


待って!


わたしは、夢中でウサギを追いかけた。


しばらくして、ウサギを見失ったわたしが我に返るとそこは深い森の奥だった。


「…………帰り道が分からないよう。」


どうしよう。


途方に暮れる。

まだ8歳のわたしには、どうすることもできない。


そんな時、遠くでオオカミの遠吠えが聞こえた。


わたしは怖くてその場にうずくまり、ただただ1人で森に来たことを後悔することしか出来ない。


元々薄暗い森の中、時間だけが過ぎていく。


ガサ…ガサガサ……


心細さにすすり泣きしていた時、少し離れたところで、草が擦れ合う音がした。


何かいる。


直感でそう思った。


そして、その瞬間草の間からオオカミの顔が覗いた。


オオカミと目が合った。


オオカミがヨダレを流しながらこちらに近づいて来る。


いやっ、来ないで!


わたしの願いも虚しくあと少しのところまで、オオカミが近づいて来た。


わたしは目を瞑って神様に祈るしかできない。


シュッ! ギャン!!


オオカミの悲鳴にも似た声に、恐る恐る目を開ける。


目の前にオオカミは血を流して横たわっていた。


カサッ…カサッ…


また何かが近づいて来る。


今度はエルフだった。


でも少し身体の色が黒い。


あっダークエルフだ。


わたし達の国を植民地にして、食べ物なんかを無理やり奪っていく悪い人達。


たまに、若い人が連れ去られていくって、隣の家のマシおばさんが言ってたっけ。


わたしも捕まって連れて行かれるのかなぁ。


そんなことを考えていると、そのダークエルフに声を掛けられた。


「こんな森の中で何をしている?」


「ウサギを追いかけてたら、迷い込んじゃったの。」


泣きべそをかきながら答えると、ダークエルフは優しく抱き寄せてくれた。


「こんなところで1人で心細かっただろう。


これをお食べ。」


ダークエルフは、腰に付けた袋から干し肉を出してわたしにくれた。


わたしのお腹は、干し肉を見た途端に『キュウ~』と鳴った。


わたしは恥ずかしくて、横で笑い転げるダークエルフを睨みつけた。


「あははは……


ごっごめんね。笑ったりして。

レディに失礼だったね。


僕の名前は、アーク。見た通りダークエルフだ。


君は?」


「デカ、ヤライ族のデカ。」


わたしは、恥ずかしさも忘れて干し肉に齧り付きながら答えた。


「そうか、ヤライのデカか。

干し肉はもっとあるから好きなだけお食べ。」


アークはそう言うと、水筒から水も分けてくれた。


それから、わたしはお父様の誕生日プレゼントを探しに森に来たこと、ウサギを追いかけていたらどこにいるのか分からなくなったことをアークに話した。


「ちょっとここで待っててね。」


そう言うとアークは、草の中に消えてしまった。


また1人になって不安になったけど、5分くらいで手にウサギを持ったアークが戻って来た。


「はい、お父様へのプレゼント。


君にはこれをあげるよ。受け取ってくれるかな。」


ウサギと一緒に渡されたのは、赤い小さな球に糸を通した首飾りだった。


「ありがとう。大切にするね。」


わたしの言葉にアークは嬉しそうに頷いた。


「さあ、家に帰ろうか。」


アークはわたしの手を取ってゆっくりと歩き出した。


途中、わたしとアークはいろんな話しをした。


「さあ、ここを真っ直ぐに行くとヤライだよ。


ここでお別れだ。


また逢えたらいいね。」


「うん、ありがとう。また逢いたいね。」


こうして、わたしはアークと別れて家へと帰った。


もちろん、お父様には大目玉を食らったけど、アークのことは話さなかった。


そうそう、ウサギは美味しかったよ。


またいつかアークと逢えたらいいな。


わたしは赤い球を見ながらそう神様にお願いしたんだ。

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