第159話 【スパニの攻撃】

<<スパニ軍第3師団師団長ハリス視点>>

わしの名はハリス、栄光あるスパニ軍第3師団を預かる指揮官だ。


我が一族は代々、軍の要職を歴任しスパニでも有数の軍閥だ。


その中でもわたしは稀代の指揮官として将来を有望されている。




現在、我が第3師団は、エルフの国ヤライに侵攻中だ。


我が国とヤライの国境付近であたらしい鉱山が見つかったと聞く。


その鉱山の奪取が目的だ。


ヤライの地はロンドーも狙っている。


今回の侵攻は鉱山資源の獲得ももちろんだが、出来るだけ深く入り込みロンドーが介入する前にヤライの所有を主張するとともに、対ロンドーを見据えた陣地構築も戦略の中にある。


この戦が成功すればわたしの軍内での地位も確固たるものとなり、軍全体の掌握も難しくないだろう。


あり得ないことだとは思うが、万が一敗北するようなことがあれば、それは即わたしの失脚となる可能性もある。

なにせ、我が一族内でもわたしの地位を狙っている奴等が沢山いるのだ。


力こそ全ての獣人族のスパニでは当たり前のことであり、わたしもそうして地位を獲得してきたのだから。




先に放ってある斥候の報せでは、国境線に巨大な土壁が築かれているという。


ふっ、弱いくせに細やかな抵抗というものか。


面倒ではあるが、向こうの守兵は高々2000だ。


こちらの20000が力押しすれば、あっという間に終わるだろう。


「ハリス様、間もなく国境付近に到着します。」


副官が報告に来た。


わたしは馬車の窓から外を見ると、正面に頑丈そうな土壁がそそり立っている。


あの土壁はちょっと邪魔だな。


しかし象獣人に突撃を繰り返させれば、時間の問題だろう。


象獣人は象を操ることに長けている。


機動性には欠けるが、陣地の構築や、攻城戦には強力な力を発揮する。


「よし、象部隊を先行させ壁の正面を崩してやれ。」


「はっ。象部隊による攻撃を開始させます。」


1000頭近い象が壁に向かっていく。


少し時間は掛かるだろうが、大した問題では無い。


少しづつ削れていく壁を見て敵方の不安は拡がるだろう。


いつものように、命乞いに内通してくる者も出てくるかもしれない。


そうなったら早いのだが。

あまり期待せずに気長に待つとしようか。

この馬車は特別製で、ベッドやリビングも完備されている。

長期滞在でも何の心配もない。


心配するとしたら兵糧だが、ヤライの中心地まで攻める予定で兵站も整備してきた。

長期戦は何の問題もない。





象部隊の攻撃開始から5日経った。


馬車の窓から、壁を見る。

あまり変化が無いように見える。


「副官、象部隊の状況を報告せよ。」


「はっ、壁への攻撃に象部隊を1000投入しました。


しかし、壁の手前に堀が掘られておりまして、象が壁に近づけなかったため、現在堀の埋め立て作業をさせております。」


「堀の埋め立てはどの程度で終わるか?」


「順調に進めば後5日程度で壁への攻撃が始められるかと。」


「他の者達も動員し、3日で終わらせろ。」


「承知しました。」





更に5日経過した。


「副官、まだ壁に異常が見られぬが、どうなっている?


攻撃が始まっているのでは無いのか?」


「それが、堀の埋め立てに苦慮しております。


象に大木や大岩を運ばせ堀を埋めようとしているのですが、象が掘りに近づこうとすると、エルフの精霊魔法でしょうか、イナズマのようなものが象に襲いかかり、象が近づけない有り様です。


今は少し離れた場所まで象で木材や岩を運び、兵が少しづつうめたてている状況です。」


「精霊魔法か、エルフめ弱いくせに小癪な真似を。


そうだ、鳥人部隊に上から攻撃させろ。」


「はっ、承知しました。」





更に5日経過した。


「副官、戦況はどうか?」


「申し訳ありません。

硬直しております。」


「鳥人部隊を投入して壁の上や向こう側を攻撃させているのだろう?」


「攻撃に向かわせておりますが、戦果を挙げることなく撃退されております。


どうやら壁の上から、精霊魔法で火炎攻撃を受けている模様です。」


「エルフの精霊魔法などマヤカシに過ぎん。


少し距離を取れば届かぬだろう。」


「それが、50メートル以上の射程があり、鳥人の飛べる高さを上回っておりまして。」


「ええい、忌々しい。


そうだ、もぐら部隊を使え。

壁の下を掘って進むのだ。」


「はっ、承知しました。」





更に5日経過した。


「副官、戦況はどうか?」


「残念ながらもぐら部隊が壊滅しました。


堀の外側から掘らせたのですが、堀が思いの外に深く、掘らせた穴が掘に横穴を開ける形になりました。


もぐら部隊に水抜き用の水路を掘らせ、堀の水を抜かせましたが、横穴から大量のワニが出て参りまして、もぐら部隊に襲いかかりました。


水死した者、ワニに殺された者を合わせると、もぐら部隊の8割にのぼります。


現在では横穴も埋められて、水位も元通りに戻されております。」


「何をしておるのか。この地に来てから既に20日以上立っておるぞ。


これ以上の遅滞は、わしの戦歴に汚点を付けるものになってしまうでは無いか。


お前の首も無事では済むまい。


お前が先陣に立って、何が何でも戦果を挙げてくるのだ。

手ぶらで帰ってくることは許さん。」


「はっ、命に変えましても。」






10日後、伝令がわしの馬車にやってきた。


「ハリス師団長様、申し上げます。


アスマ将軍以下5000名余、敵との交戦により全滅。


アスマ将軍も討ち死にとのことです。」


「なに、5000だと!!」


5000の兵を失うなど、既に大敗ではないか。


まだ、壁は無傷であるのに。


これは一旦撤退し、戦力強化が必要であるな。


「よし、お前わしの副官になれ。

本日より将軍に任命する。


撤退を開始するぞ。」


「はっ、ありがたき幸せ。

承知しました。撤退開始します。」


本当に使えん奴ばかりだな。


ところでアスマ将軍って誰だったかな?

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