第146話 【ジャルさんの怪我】

<<イリヤ視点>>

ジャルさんをシルビア先生のところへ連れて行きました。


「うーん、骨は折れてそうね。

強く倒れたのかしら?

もしかしたら、一部の骨が砕けているかも。」


ジャルさんの足を触診しながら、シルビア先生は、難しいそうな顔をしています。


「ちょっと切ってみようか。


イリヤちゃん、麻酔の準備お願い。」


「はーい。」


わたしは、シルビア先生の部屋の棚の中からいくつかの瓶を取り出して、机の上に並べます。


「シルビア先生、切る範囲と時間はどのくらいにしますか?」


「そうだねぇ、長さ30センチくらいで2時間くらい効けば良いね。」


わたしは、各瓶から慎重に薬剤を調合していきます。


「先生、調合出来ました。」


「じゃあ、こっちに来て塗ってあげて。」


ジャルさんは、かなり痛そうな顔をしていますが、『切る』って聞いて、ちょっと驚いています。


そうなんです。身体を切って悪いところを直すという治療方法は、シルビア先生独自の方法なんです。


普通骨折の場合は、2~4本の木の棒で折れた患部を固定して、治るのを待つんですが、上手く治らない時が多々あります。


今回のジャルさんのように、折れた骨が一部砕けてしまった場合、骨が真っ直ぐくっ付かずに、歩き難くなったりすることがあるそうです。


ただ、骨が砕けているかどうかなんて、見分けが付かないから歩き難くなったら、『運が悪かった』ってなるみたいです。


でも、シルビア先生はその砕けた骨を元通りにくっ付けるやり方を編み出しました。




わたしが塗った麻酔薬は、順調に効いているみたいです。


ジャルさんの呻き声と呼吸が治まってきました。


全く声が聞こえ無くなったので、患部を軽く触ってみました。

反応はありません。


「先生、準備大丈夫そうです。」


「イリヤちゃん完璧ね。


じゃあ、切っていくわね。」


シルビア先生は、小さな鉄製のナイフや小さなハサミを使って、麻酔の効いてる患部を切っていきます。


血が出てきますが、気にしません。

そして骨の辺りまで深く切ると、小さな鉄製の道具を2枚中に入れ、開いていきます。


「やっぱり骨が砕けてるわ。

イリヤちゃん、そこに置いてある糊を取ってくれる?」


わたしは、あらかじめ先生が用意していた、骨を接着する糊を渡しました。


先生はピンセットで細かな骨を拾いながら、糊でくっ付けていきます。

試行錯誤しながらも短時間である程度付いたら、元の骨の間に入れて更に糊で固定します。


「ふうー。こんなものかな。


イリヤちゃん、そこの布を取って。」


わたしが布を渡すと、先生は今繋いだ骨の辺りを布で巻いて更に糊付けします。


「よし、じゃあ縫合しましょう。」


無事縫合も終わり、ジャルさんの足には添木を3本巻いて終了です。


この手術は、シルビア先生しか出来ないそうです。


麻酔に使った軟膏も、骨をくっ付けた糊も、骨を固定する布も、全て先生が薬草から作ったものです。


薬草から作っているので、当然無害です。

布も少しずつ溶けていって、半年もすれば無くなってしまいます。


こんなものを考えるだけでもすごいのに、作っちゃうなんてすごいというしかないです。


ちなみに、手術に使用した器具も先生が依頼して作らせたものです。



「うーん。」


ジャルさんが起きたようです。


麻酔自体は局部的なものですが、自分の身体が切られるのを見るのって普通嫌じゃないですか。


特に手術なんて一般的じゃないですから、怖くないはずがありません。


だから、手術の間だけ眠るように軽い麻酔を嗅がすんです。


「ジャルさん、気分はどうですか?」


「ああ、イリヤちゃんか。

足の感覚が無いんだけど、どうしたのかな。」


「今、シルビア先生が治療して下さいましたよ。

今は足に麻酔がかかっているから、感覚が無いと思います。


しばらくすれば戻ってきますよ。


あと、足なんですが、やっぱり折れていました。

シルビア先生が真っ直ぐにして下さったので、しばらく動かないで下さいね。


足の感覚が戻ってきたら騎士団の医務室まで移動しましょう。」


わたしが、手術のことを説明すると、ジャルさんは、ホッとした顔をして、また眠ってしまいました。


痛くて辛かったんだと思います。


でも、シルビア先生が近くにいて下さって本当に良かったです。


あのままだと、ジャルさんは足が不自由で、騎士団を辞めなければならなかったかもしれません。


やっぱり医学と薬学は奥が深いと思います。


わたしもシルビア先生のような素晴らしい人になりたいと改めて思いました。

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