第145話【イリヤはお医者様? 2】

<<リアン視点>>

あぶない!


ランス君の頭に当たるかと思った瞬間、ランス君が……… 消えた?


次の瞬間、ランス君は、騎士様の背後にいました。


それに気付いた騎士様が剣を水平に切ります。


するとまたランス君の姿が消えました。


次の瞬間、騎士様の前に現れたランス君は、上段から騎士様の肩に木剣を当てていました。


「ランス、お前また魔法を使いやがったな。


でも、良い攻撃だったぜ。


魔法を使ったとはいえ、剣で俺に勝ったんだからな。」


騎士様は、嬉しそうにランス君の頭を撫でています。


ラ、ランス君……すごいです。


騎士様に勝っちゃいました。


まだ8歳なのに……。信じられません。


「ねぇ、ねぇ、イリヤちゃん。ランス君すっごいね。騎士様に……… あれ?」


横にいるはずのイリヤちゃんに夢中になって声を掛けたのですが、イリヤちゃんがいません。


ええっと…………


辺りを見渡してみると、あっ、いました。


怪我をした騎士様の手当てをしているみたいです。


わたしもそっちに行ってみます。


「いてててて、お前ちょっとは加減ってもんが、あるだろ!」


「すまない、さっきのお前の攻撃を避けるのに精一杯で、力加減が出来なかったんだよ。」


「まぁまぁ、ラリーさんも悪気があったわけじゃないみたいだし。


それよりも、足の方は痛みますか?」


「イリヤちゃん、すまないね。

あっ痛っ。」


イリヤちゃんが、打たれた方の騎士様の足を触っています。


打たれたところが、腫れ上がって黒くなっています。


「ジャルさん、これ足の骨が折れて、内出血しているんじゃないですか?


とりあえず応急処置しますから、一緒にシルビア先生のところに行きましょう。」


イリヤちゃんは、持っていた大きな鞄の中から、薬草や器具を取り出して、作業を始めました。


2分ほどで出来たそれを怪我をした騎士様の患部に当てます。


「スーっとして、痛みが和らいだよ。

イリヤちゃん。ありがとう、大丈夫そうだ。」


立ち上がろうとする騎士様に対して、イリヤちゃんが肩を押さえます。


「ダメですよ、ジャルさん。

今は、麻酔の薬が効いているだけですから。


ちゃんと治療しないと、真っ直ぐに歩けなくなっちゃいますよ。


あっ、ラリーさん。ジャルさんを運びたいんだけど、何かジャルさんを載せる板か何かないですか?」


「わかった取ってくるよ。

で、でもジャルの怪我、そんな重症なのかい?」


上ずって、心配そうな騎士様の声に、イリヤちゃんは答えます。


「ラリーさん、大丈夫ですよ。

このまま放っておくと、足が曲がっちゃうんだけど、すぐにシルビア先生に診てもらえば、治ると思いますから。」


「わかった。すぐに板を取ってくる。」


しばらくして、騎士様が大きな板を持って来ました。


「ジャルさんを板の上に載せます。」


イリヤちゃんが、怪我をした騎士様に手を当てると、薄い明かりが手から広がり、それに包まれた騎士様が少しだけ上に浮きました。


そのままイリヤちゃんが地面に置いた板の方へ手を移動させると、騎士様も板の上に動きます。


イリヤちゃんが手を下に下ろすと騎士様の身体も下に降りてきて、板の上に上手く載りました。


「イリヤ、コントロール上手くなったね。」


ランス君の声に振り向くと、訓練中の皆さんが、心配そうに周りを囲んでおられます。


「じゃあ、2人でジャルさんを運ぶよ。

僕が浮き上がらせて移動させるから、イリヤは周りに風の柵を作ってジャルさんが落ちないように気をつけてね。」


ランス君がイリヤちゃんに向かって声を掛けるとイリヤちゃんが頷きます。


ランス君が手を翳すと、騎士様を載せた板が腰の辺りまで浮き上がりました。


「「「「「おおっ」」」」」


イリヤちゃんが手を翳すと、板の周りを薄い明かりが囲みます。


「「「「「おおっ」」」」」


「皆さん、ちょっとジャルさんを治療に連れて行ってきます。


すぐに戻って来ますので、戻って来たら、訓練よろしくお願いします。」


ランス君が騎士の皆さんに声を掛けます。


「「「「「「おう、ランス。ジャルを頼んだぜ」」」」」


ランス君とイリヤちゃんはそのまま走り出すと、すごい速さで騎士様を載せた板を運んで行きました。


騎士様達も皆んな呆気に取られています。


「でもイリヤちゃん、すごかったよな。

怪我の具合を診てから薬草を配合してたもんな。」


「まだ8歳だよね。さすが、英雄と聖女様の子供だよね。」


「全くだ。このまま成長したらどうなるんだろうな。」


騎士の皆さんが口々にイリヤちゃんとランス君のことを話しています。


「リアン様、なんか大変でしたね。」


レスリーが横から話しかけて来ました。


「ほんと、あの2人は規格外よね。


でも、レスリー。訓練中のあなたもカッコ良かったわよ。」


真っ赤な顔をしている幼馴染みを見ながら、怪我をした騎士様が無事に戻って来られることを願うのでした。

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