第141話 【春休み】

<<ランス視点>>

小学校の春休みは4月に2週間あります。

小学校の制度は、お父様の意見を参考にユーリスタさんが作ったってステファン先生が教えてくれました。


ユーリスタさんの話しをする時のステファン先生ってとっても一生懸命なんだ。


ユーリスタさんのことを尊敬してるんだって。



何故4月に春休みがあるのかっていうと、春の麦まきや田植えがあるから。


子供にも田植えや麦まきをしてもらって、食べ物の大切さを覚えて欲しいとの願いからユーリスタさんが決めたんだそうです。


そんなわけで、僕とイリヤは今ハーバラ村に来ています。


村長のフレディさんや娘のマリーさんと一緒に田植えの最中です。


「マリーさ~ん、このくらいの間隔でいいですか~。」


「イリヤちゃん、上手ね。そんな感じで大丈夫よ。


ランス君、よそ見をしない!

カエルばっかりに気を取られてるから、曲がってるわよ。」


マリーさんに怒られちゃった。


だって田んぼにはカエルやタガメなんかがいるんだよ。

図鑑でしか見たことが無い生物がいるのに見ないフリなんてできないよね。


イリヤは見たくないらしいけどね。


「マリー、ちょっと曲がったくらい大丈夫じゃないか。


男の子は、カエルとか見たらわくわくするものなんだから。」


さすがフレディさんは男だけあってわかってくれる。


「お父さんがそう言うんだったらしようがないけどね。


でも男の子ってなんであんなのが好きなんだろう?

ねえイリヤちゃん。」


「マリーさんもフレディさんもカエルの話しはやめて!

テンション下がっちゃう。」


イリヤは嫌いなカエルのことを思い出しちゃったんだろうな。

かなり怒っている。


「イリヤちゃんごめんね。

今日の晩ご飯はハンバーグにしてあげるから、機嫌直してくれる?」


「マリーさんありがとう。イリヤハンバーグ大好きです。」


イリヤの明るい声に皆んなホッとしていた。



「お昼ご飯の準備が出来ましたよ~。

一区切りつけませんか~?」


お母様の声だ。


もう、お腹ペコペコ。


「リザベート様、ありがとうございます。

すぐにそちらに行きます。


さあ皆んな、昼休みにしようか。」


フレディさんの呼びかけに、田んぼで働いている人達が一斉に腰を伸ばしてひと息つきます。


「やった~。やっとお昼ご飯だ~。」


僕達と一緒に来た小学生が、わいわい言いながら、村の集会所に集まってきます。



そうなんです。この春休みを利用して、僕達の通っている小学生の生徒達のほとんどが、このハーバラ村に来て田植えをしています。


ほら参観日に、お母様が教壇に立って先生の代わりに授業したじゃない。


その時の授業内容に保護者の方々がいたく感動したみたいで、『是非うちの子にも、そういう感動体験をさせたい』ってなったんだって。


校長先生がその話しを聞いて、すごく乗り気になったとかで、全ての生徒の保護者に声を掛けたみたい。


結局、200人近い生徒が参加することになって、ハーバラ村を含めた10の村に分かれて田植え体験をしているんです。


各村には引率の先生が付いているんだけど、人数が足りなかったから、ハーバラ村にはお母様が引率することになったみたい。


お母様も久しぶりのハーバラ村でとっても楽しそう。


この村のおばさん達に囲まれながら、楽しそうに笑いながら仕事を手伝っている。


「「おばさん、こんにちは。今日は、ありがとうございます、」」


お母様と親しげに話している女の人に話しかけた。


「あんた達がリズちゃんの子供かい?」


「はい。お母様のお知り合いですか?」


「そうだよ。あんた達のお父さんとお母さんには、むかし世話になってね。


2人のおかげで、生活が一変したのさ。


ほら、この村を見てごらん。

綺麗な街並み、市場には豊富な食材、村人達は活気に満ちている。


これ全部、あんた達の両親のおかげだよ。」


「マーサさん、もおぅ、大袈裟なんだから。


皆んなが頑張ったからじゃないですか。」


「そうだね。皆んなで頑張った。

でもね、ここだけじゃなくて大陸全土が豊かになったのは、あんた達の頑張りじゃないか。


わたしゃ、それが嬉しくてね。」


マーサおばさん、本当に嬉しそう。


「青い空の下、皆んなで田んぼを作り収穫祭を思いっきり楽しんで、また、次の年も田んぼを作る。


単調で変化の無い生活かもしれないけど、その中で少しずつ工夫をして収穫量を上げていくのが、楽しいんだ。」って、僕達の隣りにいつの間に座っているフレディ村長が言った。


そうだよね、皆んながこういう平和な時を過ごすために、お父様やお母様、ユーリスタさん達が頑張ってきたんだよね。


僕達はまだ3歳だから、将来どうなるか分からないけど、どんな仕事に着いても、この平和な時を忘れないようにしようと思うんだ。



第6章完

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