第140話 【参観日】

<<ランス視点>>

今日は参観日です。

1年生のクラスの皆んなは1時間目だけなんだけど、僕とイリヤは午前中いっぱいなんだ。


1時間目は1年生のクラスで算数の授業、2時間目は特別教室で、3時間目が研究会だ。


2時間目は、学校の新しい取り組みについてお父様達に見て欲しいとの校長先生の希望からで、3時間目は、研究室の先生達の希望らしいです。


さて、今は1時間目ですがステファン先生や保護者の方々の顔に緊張が見えます。


教室の後ろ保護者席には何故か大陸3大国家の元首と宰相様達が並んでいます。


その周りを遠巻きにするように保護者の方々がいます。


「なぁランス。何であんな偉い人達が参観日に来てるんだ?」


レスリーが話しかけてきます。


「2時間目の特別教室を見学するとは聞いてるけど、何でこの教室にいるんだろうね。」


『お兄ちゃん、こっちに王妃様とかいっぱい来てるんだけど?』


今度はイリヤから念話だ。


『こっちにはネクター叔父さん達がいるよ。』


『そうなんだ。ユーリスタさんやお母様だけでもスペル先生、すごく緊張してたのに、完全に固まっちゃって授業になってないよ。


あっ、今お母様が教壇の方に行ったわ。


王妃様やユーリスタさんに言われて授業を替わるみたい。


保護者から拍手されている!』


隣の教室から拍手が鳴り響いている。


イリヤのクラスはお母様が授業を続けるみたいだ。


拍手の音を聞いて、ステファン先生が隣の教室に見に行った。


「スペルちゃん、ずるい!!」


ステファン先生の大きな声が聞こえてきた。


とっさに本音が出たんだろうけど、ステファン先生は恥ずかしさで真っ赤な顔をして教室の外で座りこんでしまった。


僕は後ろの保護者席に行ってお父様達に話しかける。


「皆んながいるとステファン先生が緊張して授業出来ないみたいだよ。


他の保護者の方々に迷惑だから、ちょっと席を外して欲しいんだけど!」


ちょっと拗ねたようなポーズで出来るだけ可愛いく言ったんだ。


そしたらお父様以外、皆んな僕と保護者の方々に謝って出て行ってくれた。


その後、なんとか立ち直ったステファン先生が授業を再開したんだけど、結局立て直せずにそこで終了の鐘がなった。


参観が終わって隣の教室に行くと、お母様がまだ授業をしていた。


スペル先生、腰を抜かして立ち上がれないみたい。


後ろを見たら、うちの教室を途中で出て行った面々が加わっていた。


お母様の授業は、保護者の方々の強い要望もあり、お母様達の新婚旅行の時の話しに変わっていた。


結局、お母様の話し(講演会?)が終わったのは、それから2時間後のことでした。


2時間目、3時間目の予定は無くなってしまい、校長先生や研究室の先生方は残念そうだけど、しょうがないよね。




<<ユーリスタ視点>>

今日はイリヤちゃん達の参観日に来ました。


先日の花見の際に久しぶりにお会いしたハローマ王国王妃様とトカーイ帝国王妃様、キンコー王国王妃様、そしてそれぞれの国の宰相夫人の皆さんと、またお茶会しましょうねって約束していたんです。


それで今日イリヤちゃんランス君の参観日があることを伝えたら、皆さん来られることになりました。

もちろん旦那様方も集まられていますよ。


向こうは向こうで、すっかり酒呑み友達になっているみたいです。


でも『共存共栄』ってできるんですね。


7年前、マサルさんと初めて会った時のことを思い出します。


異世界から転移してきた彼が語る平和な世界。


こうして実現するなんて思いもしませんでした。


武力でなく経済力による国家間の凌ぎ合いは、全ての国に富をもたらしました。


マサルさん曰く、『今はまだどの国も未開発の部分がたくさんありますから、当面は容易に豊かさを享受できると思います。


でもこのままの状態が続けば、経済の伸び率はやがて頭打ちになってくるでしょう。


今のうちに新しい産業や技術を育成していくことが重要ですよ。』ですって。


そうよね。『先んずれば人を制す』って言うし、新しい取り組みを研究するための資金が豊富な今のうちに、先々のことを考えていかなくっちゃ。


そのためにも、この繋がりを大切にするべきだわね。




マサルさんが各国を回って皆さんを連れて来てくれました。


女性陣は、イリヤちゃんのクラスを、男性陣はランス君のクラスを見学します。


教室に入ると既に保護者の方々がたくさんおられます。


わたし達を見て緊張されているのが分かります。


そりゃそうよね。スペル先生なんか、あわあわしちゃって、授業になっていないわ。


「リズちゃん、このままじゃ参観にならないわね。


先生の代わりに授業してきたら?」


「そんなぁ、問題になりますよ。」


「皆さん、先生がお疲れのようなので、リザベートに前で話しをしてもらおうかと思うのですが、如何ですか?」


保護者の皆さんは、頷いて下さる方が多いようですね。


「皆さんあなたの話しを期待しておられるようよ。」


リズちゃんは、渋々前に出て行きます。


やがて教壇に立つと息をひとつ吐いて話し始めます。


「皆さん、失礼いたします。わたしは、国際連合にカトウ公爵夫人のリザベートと申します。


いつもうちのイリヤやランスがお世話になっております。


本日は、ちょっと豪華なゲストが来ておられますので、スペル先生に代わりまして、僭越ながらわたしがお話しをさせて頂きたいと思います。」


教室は大きな拍手に包まれています。


リズちゃんが先生の方を見ると、先生は顔面蒼白の状態で頭を上下に何度も振っておられました。



さてリズちゃんの話しですが、大変面白い内容でした。


演劇でロングランされ、皆さんがご存知のハーバラ村の開拓の話しから始まった話しは、官僚時代の視察や各地での講演活動時の話し等、行政改革のみならず、その後の各地での取り組み等も交えて非常に参考になるものでした。


皆さん、メモを取りながら聞いておられます。


おや、先生までメモを取っておられますね。


少しすると男性陣が教室に入ってきました。


どうも、ランス君に追い出されたようです。


また、先生が固まってしまいましたね。


授業も終盤に差し掛かり、リズちゃんの話しも一区切りついたところで、保護者の1人からリズちゃんの新婚旅行の時の話しについてリクエストがありました。


大陸全土を回ったんだから、皆んな興味があるようです。


結局、話しが終わったのは昼前になっていました。


3時間近く話していたようです。


リズちゃん、お疲れ様でした。

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