第134話 【魔物の異常発生】

<<マサル視点>>

ランスとイリヤの遠足は散々だったみたいだ。


でも、偶然にも2人があの辺りにいてくれて本当に助かった。


もし、王都周辺まで魔物が来ているのに、誰も気付かなければ大変な被害が出ていただろう。


とにかく、魔物が異常発生した理由を突き止めておかないとな。


問題となる森は、王都の南西の方向になる。


森を抜けてさらに南へ進むとナーラ領だ。

王都から森を挟んで西側は、肥沃な穀物地帯が広がる。


イリヤ達が居たところに真っ直ぐ進んで来たとすると、穀物地帯から来たことになる。




動物がランス達の方に逃げて来たとなると、動物は南側から来たことになるな。


動物達は、魔物に追われていたと考えるのが妥当だが、方向が合わない。


まぁ、空から形跡を確認してみるか。



地上50メートルくらいまで飛び上がると、森が一望できる。


やはりナーラ領側から森の真ん中に向けて木が倒れている。

真ん中付近で直角に折れ曲がって、イリヤ達の居た方向に向いているようだ。


ちょうど折れ曲がっている角あたりに、大型の動物の死体がたくさんある。


おそらく、ランスが魔物に追われている動物の進行を止めたため、追って来た魔物が進行方向を変えて南へ向かったと考えられる。


ただそうなると、魔物は動物を追っていたのでは無いことになる。


魔物が動物を食糧にしようとした場合、そこで止まっている動物達は、格好の餌になるからだ。


当然、そこで立ち止まって喰らい尽くすに違いない。


そうせずに進路を変えたということは、魔物達も何かに追われていた可能性が高い。


魔物の大量発生と、その魔物が追われる理由を調べるべく、魔物が発生したであろうナーラ領側に向かうことにした。


ちょうど木が倒れ始めたあたりで下におりる。


地面には大きな穴が開いており、瘴気が溢れている。


かつてジャン達とヨーシノの森に入った時と似ている。


魔法で体の周りの瘴気を無効化してから、穴に降りて行く。穴は20メートルほど降りたあたりで、横穴に変わっている。


どうやらナーラ領側に向かうようだ。


そのまま横穴を進んで行くと、行き止まりになった。


真っ暗な穴の中は、瘴気で溢れかえっている。


とりあえず噴射口を土魔法で封印し、近辺の瘴気を浄化する。


この大量の瘴気量から考えて、ここで発生した瘴気が、この穴を抜けて森に流れ込み、穴の周辺にいた動物達が、急速に魔物化したのだろう。


そうすると、魔物を追い立てた奴は、このあたりから出てきたことになる。


あたりを詳細に調べるために、灯りを強くした。


「眩しいのお、誰じゃこんなところまで来る奴は?」


聞き覚えのある声に耳を疑う。


「もしかして、ナージャか?」


「おっ、その声はマサルか。

久しぶりじのお。」


「どうしてナージャがここにいるんだ?」


「そうじゃのお、この前会った時の失態を取り戻そうと、瘴気の出所を探しておったのじゃよ。


結構あっちこちに穴が伸びとってな、それを追いかけていたのだが、途中で行き止まりになったんでな、崩れてんだろうと思ってブレスを吐いて穴を開けたんじゃ。


そしたらブレスが強すぎて、いらんところまで、開けてしもうた。


ちょうどお前さんがいるあたりに、下に通じる穴があって、そこから大量の瘴気が吹き出していたのを見つけたのじゃ。


それで、その穴を降りてとうとう瘴気の発生源を見つけたのじゃ。


その発生源を潰してからここに戻って昼寝をしておったのだ。」


「それはご苦労様。


ところでナージャ、この穴を通って地上に出たか?」


「ああ、つい数日前に出たぞ。

ちょっと新鮮な空気を吸いたかったからな。


でも地上も瘴気が溢れていたから、顔だけ出してここに戻って来たのじゃ。」


これだ。ナージャが誤って開けた穴が偶然縦穴に当たって繋がり、そこから瘴気が森に流れ込んだ。


それにより穴周辺の動物が魔物化したタイミングで、ナージャが穴から顔を出したものだから、魔物が怯えて逃げ出したに違いないだろう。


動物達は、その魔物に追われるかたちで森を抜けたのだろうな。


とりあえずは、解決したな。


「ところでナージャ、瘴気の元はなんだったんだ?」


「それなんだがな、よくわからないんだ。


よくわからないものが大量に積まれていて、そこから出ていた。


とりあえず、ブレスで全て焼き払っておいたから、もう大丈夫だと思うのじゃ。」


「どんな形だった?」


「金属で出来た円柱形で、黄色や緑色で、それからな横に同じ絵が描いてあったわ。


ええっと確かマサル達の世界から来た奴等に見せてもらった写真とかいうのに描いてあったなぁ、なんだったか、船のなんとかに似てたな。」


「もしかして、スクリューか?」


「そうじゃ、そんな名前じゃった。」


ドラム缶に、スクリューのような模様の印刷といえば………


瘴気の正体がわかった。


間違いなく放射能だ。

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