第133話 【遠足で魔物に遭遇する 2】

<<イリヤ視点>>

南の草原に向かって歩き出してしばらく行ったところに、砦跡があります。

昔、まだ大陸中で国同士の戦争が絶えなかった頃、この砦が王都を守る最終ラインだったって先生が説明してくれました。

今は使うことが無くなったので、砦跡として観光名所になっているそうです。


しばらく行くと右側に森が見えてきました。


森の横を抜けると草原です。


森は結構大きいので草原までは後1時間くらいはかかりそうです。


この森にも昔はたくさんの魔物がいたそうですが、今はほとんど見かけなくなっているそうです。


街道が整備され、駅ができたことで人通りも多くなったため、魔物も出にくくなったのと、時々王都騎士団が訓練のために間引きをしているそうです。


そう言えば、ハリスさんもカトウ運輸の警備課で魔物駆除を行っているって言ってましたね。


リアンちゃん達と談笑しながら森の近くの街道を進んでいると、森の方から土煙が上がっています。


それに気付いた護衛の冒険者の方々が、森に向かって走っていきました。


そのうちの1人が大声で叫んでいます。


「魔物の大群が森から出てきた!! 早く逃げろ!!」


かなり焦っています。


スペル先生も驚いて固まってしまいました。


「スペル先生、皆んなをまとめて下さい。わたしが壁を作って対応します。」


固まっている先生にそう言って、わたしは森の方向に少し進み、土魔法で大きな壁を作りました。


100mくらいの幅で丈夫な壁を作りましたが、飛び上がって森の方を見ると、思ったより大群です。


1人では対応が難しいと思って、お兄ちゃんに念話で助けを求めました。


すぐにお兄ちゃんは来てくれました。


「イリヤ、皆んなを囲むように壁を作って!僕は堀を掘って、魔物が近づけないようにするから。」


お兄ちゃんはそう言うと、空を飛びながらわたしの作った壁の外側に大きな堀を作っていきます。


わたしが囲った壁を囲むように大きな堀ができました。


「イリヤ、この堀に水を入れて魔物が通れなくするんだ。」


わたしはお兄ちゃんと一緒に堀を水で満たしました。


簡易な城壁みたいになっています。


とりあえずは中の皆んなは大丈夫だと思います。


わたしはトランシーバーでお父様とネクター叔父様に連絡を入れました。


お父様は、すぐに駆け付けてくれました。


ちょっと壁と堀を見て驚いていましたが、『よく頑張ったね』って声を掛けてくれました。


ネクター叔父様は、砦跡の方まで騎士団を派遣して王都への侵入に備えるって言ってました。


お父さんは、迫ってくる魔物を大規模な風の魔法で切り裂いています。


あんなに大群なのに、あっていう間に減っていきます。すごいです。


お兄ちゃんも加わって一緒にやっつけています。


わたしも空からその光景を見ていましたが、ふと別のところを見ると護衛の冒険者さん達が怪我をしています。


わたしはそちらに飛んで行って、光魔法で治療してあげました。


皆んな喜んでくれて何よりです。


小1時間程度でしょうか、魔物の大群はいなくなり、付近には大量の魔物の死骸が散乱していました。


風魔法で一刀の元に死んでいるので、死骸はきれいなものです。


冒険者の皆さんは、お父様に確認を取ると、嬉しそうに魔物の解体と回収作業に向かっていきました。


「お父様ありがとうございます。

僕は、王都の西の方から来たのですが、向こうでも動物の大量発生がありました。


森の反対側は大丈夫でしょうか?」


お兄ちゃんがお父様に話しかけている。


「大丈夫だ。森の周辺地域からも被害の報告は来ておらんぞ。」


いつの間に来たのか、ネクター叔父様が話している。


「ランス君もイリヤちゃんもお手柄だったね。


君達のおかげで王都は、救われたよ。

勲章でもあげなきゃね。


ところで、この頑丈な壁と堀は、マサル殿が作ったのかな?」


「イリヤが壁を作って、僕が堀を作りました。

水は2人で入れたんだ。」


「なんと、さすがマサル殿の子だ。


こんなもの作ろうとしたら、工兵師団を投入しても1ヶ月は掛かるだろう。


それにこの戦力。

カトウ公爵家だけで、大陸を1日で征服出来るんじゃないか?

はっはっはっ。」


叔父様の豪快な笑い声の横で顔を引きつらせているのは、騎士団長様と宮廷魔導師長様かな。


「あっそうだ、皆んなのところに戻らなきゃ。


今遠足の最中なんです。」


お兄ちゃんが慌てて、空を飛んで行った。


宮廷魔導師長様の顔が引きつったままなのは、見なかったことにしよう。


結局遠足は中止になった。


そりゃそうだよね。


翌日、お兄ちゃんのクラスの子に聞いたら、向こうも壁に囲まれていたみたい。


壁から出られなくて怖かったって。


お兄ちゃんは、かなり謝っていたみたいだけど。


忘れてたんだからしょうがないよね。


そうそう、壁と堀はお父様が綺麗に整地してくれました。


お父様、ありがとうございます。

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