第74話【魔族は本当にいるのだろうか?】
<<ハッカ視点>>
「あくまで推測ですが、なんらかの原因で、ナーカ教国側の結界が壊れ、ハーン帝国が侵入したため、仕方なくハーン帝国を滅ぼした。
または、長い年月をかけて瘴気が無い場所でも生きていける力を付け、人間に対して挑めるようになったかです。」
マサル殿の言葉に一同驚きを隠せませんでした。
ホンノー人達の一連の話はここにいる全てで共有しています。
それ以外にも、ヨーシノの森での瘴気大発生のことやカクガーの森にあった瘴気発生魔方陣のこと等も同様です。
これまで、伝説上の存在でしかなかった魔族の痕跡が、次々と出てきたのですから。
そのどれもが、マサル殿の活躍で大きな問題にならなかったのは、幸いですが、これからどんな事態が起こるかわかりません。
国際連合としても、第1級の議題として勉強会や意見交換、万が一の連絡体制を整えています。
ハーン帝国に起こっていることに魔族が関与しているのであれば、それは人類にとっての大きな脅威となるでしょう。
「マサル殿、あなたの予測が正しいとして、我々人類は魔族と戦っていくべきだろうか?」
ハローマ王国のガード王の言葉が重く感じられます。
唾を飲み込む音があちこちから聞こえてきます。
「残念ながら、わたしにもわかりません。
まだ、魔族と直接会っておりませんので。
ただ、このまま先送りにしても良い結果は出ないと思いますので、この機会に会って話しをしたいと思っています。」
「かなり危険ではないかのう。」
アーノルド様も不安気な様子です。
当然です。伝説上の魔族は、とてつもない魔法を使って、マリス様の使いである神竜を封印し、圧倒的な火力をもって、人類をプラートの地から追い払ったと言われているのですから。
いくらマサル殿といえど、かなわないのではないでしょうか。
「とりあえず、続きを見ませんか?」
マサル殿の言葉で、とりあえず映像の続きを見ることになりました。
<<ハローマ王国ガード王視点>>
マサル殿が言っていた通り、魔族の関与の可能性が大きくなってきた。
魔族については、未知数ではあるが、我が国のダガー公爵領で起こった隠れホンノー人によるクーデターには肝を冷やした。
もしあの場にマサル殿がいなければ、ダガー領は当然として近隣の領地も盗られていたかもしれない。
魔法や我々には無い技術を用いての攻撃は、今の人類には太刀打ちできないレベルのものだったと後から聞いて寒気がしたものだ。
魔族と人間のハーフで力を失ったと言われるホンノー人ですらそうなのだから、魔族の強さは計り知れないだろう。
「とりあえず、続きを見ませんか?」
マサル殿の言葉に我に返る。
そうだ、落ち込んでいてもしようがない。
もっと良く研究して、魔族に備えよう。
万が一魔族とことを構えることになっても、国民を守るために我等は戦わなければならないのだから。
「ナーカ教国との国境を越えて北西に進みます。
この辺りは比較的農業が盛んみたいですが、農作業の途中でどこかに消えたように見えます。
農機具が畑に置きっ放しになっている光景が見れます。
ちなみに、国境付近から北西まで、探知魔法で人も含めて生物を探してみましたが、反応はありませんでした。
次に北西から南西に向かって見ます。
こちら側は、峻険な岩山でできた山脈が続いており、集落自体が少なかったように思われました。
確か岩山の反対側はトカーイ帝国だったと思いますが、レイン皇帝、山を越えてハーン帝国民が逃げてきたと言う報告は受けておられませんか?」
「特に受けてはいないですね。
あの山脈には豊富な鉱脈があって、我が国の重要な資金源になっています。
ハーン帝国側からも掘ったら出ると思うのだが、奴等は自分達で技術開発もせずに、こちらに発掘した鉱石の無心ばかりしてくるので、脅しを掛けたのですが、今度は盗もうとまでしたのです。
そのため、鉱山の出入り口や山道は特に厳しく取り締まっています。」
「そうですか。実はこの後はここら辺と同じ状態でした。
次は帝都、中央付近になります。」
映像は、南西から北東に向かって進んで行きます。
進むにつれて人家が多くなってきます。
我が国との国境から帝都まで続くメイン通りには、いくつもの馬車が置き去りになっています。
もちろん、人影はありません。
いくつかの大きな街を通り過ぎると、帝都の城壁が見えました。
下から見ると豪奢な作りに見えましたが、上から見るとハリボテですね。
虚勢ばかりで実の無い、あの国らしいです。
「帝都の中心地まで来ました。
やはり、人っ子ひとりいません。
突然消えてしまったという表現が一番しっくりくるでしょう。」
マサル殿の言葉に、謎は深まるばかりです。
人々は、どこに消えたのでしょうか?
こうなるとスイツ元宰相の最期の言葉が気になります。
彼は何を言いたかったのでしょうか。
<<マサル視点>>
撮影した動画を見終わった。
皆さん何かを考えているのだろう。
さすがにこのメンバーだと、取り乱す者はいないが、それでも不安は大きいだろう。
とりあえず、本日の会議は終了して明日も会議を継続することになった。
会議終了後、こちらにスポックさんがやって来た。
「マサル殿、少しお時間頂けますでしょうか?」
「大丈夫ですよ。魔族のことですか?」
「そうです。各国の首脳の様子を見ていたのですが、皆さん気丈そうに見えますが、内心では恐怖が支配しているでしょう。
もし、国際連合としての対応がなかなか決まらないようであれば、恐怖に負けて単独でナーカ教国に攻め入る国が出てくるかも知れません。
そんなことになったら、魔族との争いに収拾がつかなくなり、大陸中が戦火に巻き込まれてしまうかも知れません。
わたしとしては、魔族と共存できる道を模索したいと思っています。」
実にスポックさんらしい意見だ。
恐怖に負けずに肝も座っている。
やはり、この人は国際連合事務局長に相応しい。と改めて思う。
「スポックさん、あなたの意見は理解しました。
わたしも同意見です。
懸念が現実にならないように、早急に対応策を考えてみます。」
俺の言葉に安心したのか、スポックさんは微笑みを浮かべて部屋から出て行った。
さて、ナーカ教国に行ってこようかな。
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