第15話【マサル改革に着手する】

<<マサル視点>>

マリス様からタブレットを貰った。早速使ってみようと思いタッチしてみたが反応がない。


音声入力かなと思い、声に出そうと思ったら、声が出る前に勝手に入力された。


もしやと思い、別の事を思い浮かべるとそれが入力された。


どうやら、頭の中で検索すると思っただけで検索できる様だ。


『日本』で検索してみた。

《首都 東京、人口 約1.26億人、自治体数 1741、主食 米、 ………》


向こうの世界の情報は、問題無く出てくる。


この世界はどうだろう。

『キンコー』《王都 キョウ、人口 3000万人、自治体数200、主食 小麦(パン)、肉(魔物) 、 ………》


なるほど、向こうの世界だけでなく、こちらの世界の情報も検索できる様だ。


この情報があれば、具体的な数字で改革案を提案でき、その信憑性が高まるだろう。


また、規模的なものもおおよそ掴めそうだ。


まずは、どこから手をつけていくか。


生命活動に必要な衣食住の中で、一番喜ばれて効果があるといえば食べ物だろう。


まずは、食の改善から始めよう。

この世界の主食はパンと魔物肉だな。


パンは、ナーラ公爵家では柔らかい白パンだったが、アイカ村の宿では、上等な料理と言っても固い黒パンだった。


白パンが安く手に入れば喜ばれるに違いない。


早速なぜ白パンが高価なのかを調べてみた。


小麦の収穫量が少なく、また粉をひく為の器械も効率が悪い為、手間と量の問題で白パンを作る為の小麦粉が高価になっているのが原因の様だ。


また発酵に使う上質な酵母が特定の商人に独占されている為、庶民の手には入らず、発酵不十分なのも大きな理由だった。


先ずは小麦の生産量を増やすこと。


次は、水車を使った精度の高い製粉機の作成と普及。


3番目に、酵母の簡単な作り方レシピの開発と安価な流通経路の構築か。


小麦の作付け面積はそこそこあるが単位面積当たりの収穫が少ない。


実際に小麦畑を見てみると、

1.水路が遠く充分な水が供給されていない。

2.土が痩せており栄養が足りない。

の2点が大きな問題だとわかった。


水の確保については、土地の高低の問題が大きく、つるべを使って手動で水を引いているので、充分な水を引けていなかった。


水車を使って自動で水を引ければ解決出来そうだ。


土については、肥料も与えず二期作しているのが原因か。


腐葉土や堆肥を入れ、小麦以外の作物との二毛作にした方が収穫量を増やせるだろう。


これらの施作をレポートにまとめ、早速ユーリスタに相談してみた。


ユーリスタも独自に問題点を洗い出す中で、俺と同じ所を調べていた様だ。


「二毛作の2つ目は、米にしてみてはどうでしょうか?」ユーリスタ様の言葉に俺は驚いた。


「米があるのですか!」


「えぇ、以前西方にある別の大陸からの使者が我が領にもたらしたものがあります。


収穫自体は問題なかったのですが、美味しい食べ方が分からず普及しなかったのです。


今は城内で細々と育て、種の保存をしています。保存も効きますし、小麦と並ぶ主食になればと思っているのですが。」


「食べ方については、お任せ下さい。私の国では米が主食です。」


「なんと!それは僥倖です。小麦と米の二期作にしましょう。」



2人で、レポートの内容について議論を交わし、次の日にヘンリー様に上申した。


ヘンリー様は、2人の話しを聴き、感嘆の声を上げると共に、直ぐに取り掛かれる様に領主様や、試行を行う直轄地の農民に説明する機会を設けてくれた。


農民は半信半疑だったが、もし失敗しても領主が補填してくれる事になった為、積極的に動いてくれる事になった。


腐葉土については、森の中に豊富にあった。


あれだけ動物や魔物がおり死んでいってるのだから栄養については抜群だった。


水車については、水の組み上げと石臼の自動挽きを実現出来るものを、タブレットで検索し、図面を起こした。


これは俺の得意分野だ。


木工職人だけでなく、細かなネジやバネ等金属加工職人も専属で雇い入れ、作業に取り掛かってもらった。


水路の延長なども、領で土木を担当する専門の役人を用意してもらい、領主主導で進めてもらえるようになった。


なお、水路の工事については農民だけでなく、犯罪者なども投入し、急ピッチで進められた。


こうして俺たちの計画は動き出し、俺は忙しい毎日を送る事になった。




<<ヘンリー視点>>

ユーリとマサル殿が、改革案を持ってきた。


まだ、あの打ち合わせから3日しか経っていないのに、この世界の事をよく調べており、直ぐにでも取り掛かれそうな内容である。


ここまでされると、わたしのところで止める訳にいかない。


2人に2日ほど時間をもらい、直ぐに領主である兄の元へ向かった。


2人がまとめたレポートを兄と2人で再確認し、失敗時の税の免除と食料の補填に関する内容を詰め、試行を行う場所を決めた。


わたしの直轄地内の村長の中でも、特に優秀なフレディの村を試行の地に選んだ。


屋敷に戻ると使用人にフレディを迎えにやり、フレディとユーリ、マサル殿を引き合わせた。


フレディは、この計画を聴き二つ返事で了承し、直ぐに村人の人選と振り分けを行なった。


フレディは、一旦村に戻ると各作業毎のリーダーとなる村人を連れて、屋敷に戻ってきた。


再度作業計画を皆で確認し、フレディは、村人とマサル殿、そして何故かリザベートを連れて村に帰って行った。




<<リズ視点>>

最近マサルさんが、外出することが増えた。


たまに屋敷にいてもユーリ様と一緒にいる事が多い。


どうやらマサルさんの世界を参考に、この世界を良くしていく事を進めているようだ。


将来の妻となる予定のわたしも何かお手伝いしたい。


ユーリ様に相談したら、喜んでくれた。


とりあえず学校へ通うまでの間、マサルさんの近くでサポートさせて頂く許可を得た。


明日からしばらく、マサルさんは試行を行う村に行く事になるのでわたしもついて行く事にした。


試行を行うのは、フレディ様の村だそう。あの村は行商でよく行く。


フレディ様は、新しい物好きで珍しい物や役に立ちそうな物は、すぐに欲しがる。


こんなの何に使うのだろう?って思う様な物を買ったと思ったら、次に行った時には、上手く役に立っている事が多い。


「あの人は、工夫するのが上手いんだ。」ってお父さんが言っていたっけ。


もちろん、全ての物が上手く行く訳ではなくて、2回に1回は部屋の隅に残骸が転がっているみたいだけど。


フレディ様の案内でハーバラ村に着いた。


この村は比較的裕福な方らしい。


とりあえず試行の目処が立つまでは、マサルさんと一緒にフレディ様の家にご厄介になります。

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