第2話【この世界の常識を学ぶ】

<<マサル視点>>

リズが両親と最後の挨拶をした後、リズと荷物を馬に乗せてナーラの街に向かった。


ナーラまでは、馬車で1日くらいの距離だとリズに聞いたので、とりあえず今日のうちに行けるところまで行っておきたい。


この森の中で野宿は避けたいところだ。


リズを馬に乗せて俺は走る予定だが、リズは自分が走るって言って聞かない。


遠慮しているだけじゃなく単純に体力に自信があるのだろう。


もちろんそんな事はさせられないので、強引に馬に乗せて出発した。


幸い馬は元気なので俺の体力次第だと思っていたが、神様に力を強化してもらったからか、馬の走りに負けないスピードで走ることができ、明るいうちに森を抜ける事ができた。


道中湿っぽくなるかなと思っていたがリズも俺の走りに驚いたりして、そんな雰囲気にならなったのは、俺としてはありがたかった。


ビッグベアは解体し、リズが持っていた冷凍の魔道具で凍らせていくつかの塊にしておいた。


森を抜けてしばらくすると、村が見えてきた。


日も暮れてきたので、今日はこの村で1泊させてもらおう。


村に入って、最初に出会った少年に熊の肉を売れる店を聞いた。


泊めてもらうにしてもお金が必要だろう。


村の中心に肉屋があり、親父が暇そうに店番をしていた。


冷凍した肉を売りたいと話すと、ビッグベアの肉は非常に珍しがられた。


俺にはこの世界の貨幣価値がわからないので、リズに金額交渉を頼む。


さすが行商人の娘ということか、高値で買い取ってもらえたようだ。


肉屋で宿屋を紹介してもらい今晩は、そこで泊まる。


その晩、リズと今後について話しをしたが、身寄りがあるわけでもなく、当面一緒に旅をすることになった。


部屋にベッドを2つ用意してもらい、お湯をもらって身体を拭いた。


本当は、風呂に入りたかったがリズに聞くと貴族くらいしか風呂に入っていないようなので諦めた。


俺があまりにもこの世界のことを知らないので、リズが理由を聞いてきた。


リズにはいろいろ見られてるし、隠してもしょうがないので、他の人には内緒ってことで、前世からこの世界に来たことについて話した。


リズは、ちょっと驚いたようだがすぐに納得したようだ。


「じゃあこの世界の事は、わたしが教えてあげますね。


まず、ここですがジャボ大陸キンコー王国ナーラ大公爵領アイカ村です。


ナーラは、大公爵領の首都になります。


キンコー王国の東の端になり、先程の森を反対側に抜けたら、トカーイ帝国ですね。」


貨幣価値について聞いてみると、硬貨は、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種類で 1銅貨が100円程度で1銀貨は1000円、1金貨は10万円相当になるらしい。


白金貨は、貴族街でしか使用出来ないらしい。


日用品や食料品は、ほとんど銀貨数枚までで足りるようで、未だ物々交換も多いらしい。


そういえばこの宿屋もビッグベアの肉を少し渡したら銀貨1枚で泊まれたので、物価も高くなさそうだ。


もしかするとビッグベアの肉がレアだからかもしれないが、どっちでもいいか。




<<リズ視点>>

マサルさんが走って、わたしが馬じゃもうしわけがない。


わたしも体力には自信があるしわたしが走った方がいいのではと言ってみたが、全く聞いてくれていない。


まぁちょっとしたら交代しようと思って移動を始めて驚いた。


馬よりマサルさんの方が断然速いの。絶対おかしいって。


馬が追いついて行っているというよりもマサルさんが馬のペースに合わせてくれているようだ。


自分が走らなくて良かったと思う、きっと足を引っ張っていただろう。


すぐにビッグベアのところまで戻って来た。ビッグベアの肉は美味いので高値で売れる。


マサルさんに説明してわたしが解体した。ちょっと役に立てたかなぁ。


幸い馬車から持ってきた荷物の中に冷凍の魔道具があったので細かく分けて冷凍しておく。


切り口がきれいなので結構な量をとれた。これで当面の生活資金は確保できた。馬車にもいくらかあったけど心許なかったしね。


明るいうちにに森を抜けてアイカ村に着いた。首都ナーラまであと半日くらい。


これまでの速さなら今日中にナーラに着いたと思うけど、きっと馬がもたない。


マサルさんは余裕そうだけど。この人絶対に普通じゃないよ、言えないけどね。


さてビッグベアを売ってお金にしょう。マサルさんに肉屋と交渉してもらったがどうも様子がおかしい。


話しが噛み合っていないようなので、代わりにわたしが交渉した。


処理が早く保存状態も良かったので思ったよりも高値がついた。


わたしも交渉頑張ったからね。


ナーラまで行けばもっと高く売れるだろうから必要な分だけ売った。


宿屋に入ったらマサルさんが2部屋取ろうとしたので、1部屋にしてもらった。


だってもったいないし、マサルさんならって…アァ恥ずかしい、赤面してしまった。


だってマサルさんってあのビッグベアを倒しちゃうほど強いし、足は速くて体力も凄いし。


力が全てのこの世界では超優良物件だよ。そのうえ優しいし。


マサルさんは少し抵抗していたが、諦めてベッド2つで妥協してくれた。

1つでも良かったのに…


食事を済ませたらマサルさんが宿屋の主人に風呂の場所を聞いていた。


こんな村に風呂があるわけないじゃない。


貴族でもなかなか入れないのにね。


やっぱり常識がずれている。


部屋に入ってからお湯で体をふいた。


マサルさんは、わたしの体を見ないように気を使ってくれていた。


別にマサルさんならいくら見られてもいいのに。


マサルさんの背中を拭いてあげようとしたら、焦ったような態度がちょっとかわいかったのは秘密にしておく。


体も拭き終えて、ひと段落したところでマサルさんに改めてお礼を言った。


マサルさんは「当たり前のことをしたまでだよ。


困ってたら普通助けるだろうし、まして人が殺されるかもしれないのに、放って置けないだろう。」と当たり前のように言う。


いやいやおかしいでしょう。


自分が生き延びる事が全て、親兄弟でも簡単に裏切る人が多いのに、初めて会った人間にこの態度は。


本来ならわたし身包み剥がされて奴隷として売り飛ばされても文句言えないのに。


もしかして、どこかの王族か何か?と思って、単刀直入に聞いてみた。


「俺は全然王族じゃないよ。


ごく普通の24才独身男だよ。


そうだよね、いい大人なのに常識がなさすぎるから、当然おかしく思うよね。ちょっと長くなるけど、俺の話しをしようか。


俺は、この世界の人間じゃないんだ。


元居た世界で死んだら、なぜかこの世界に飛ばされたらしい。


さっき、神様に会ってそう言われた。


本来はこっちの世界に生まれ変わって赤ちゃんから成長していくそうなんだけど、たまたま手違いでそのままの姿でここに来たんだ。」


その後、私が助けられた理由や、マサルさんの強さの理由、神様から与えられた使命などを1時間位かけて聞かせてもらった。


なんだかよくわからないけど伝説の勇者様みたい。


ますますこの人と一緒に居たくなっちゃった。


でもマサルさんにはもっとふさわしい人がいるんだろうなぁ。


きっと領主様が知ったら手放さないよ。


マサルさんにも口止めされたし、この事は2人の秘密ね。キャ。


マサルさんが、こちらの世界の常識を教えて欲しいと言ったので、現在地や硬貨の種類、貨幣価値などを簡単に説明した。


マサルさんは金貨や白金貨に驚いていたけど、強い魔物の討伐報酬とか、結構高額なお金って動くんだよね。


ましてや厄災級の魔物なんかだと銀貨じゃ持てないよ。


お父さん達は昔冒険者時代に白金貨を報奨金でもらった事があるみたいだけど本当に一部の人間だけだよね。


私みたいな庶民には関係ないけどね。


でも今回ビッグベアの肉ひと固まりが銀貨50枚になったのは大きいよね。


でも、マサルさんが宿屋で肉ひと固まりを出したときは正直びっくりした。


あまりの常識知らずに驚きすぎて、止める間もなかった。


宿屋の主人も喜びすぎて、宿代も安くなったし、今晩の食事も無茶苦茶豪勢だったので良しとしておこうと思う。肉はまだまだあるしね。

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