快楽の虫
あきたけ
快楽の虫
第1話 はじまり
「…………私、虫を飼っているの」
少女は微笑みながらそう言った。
少し薄暗い公園の中だった。
辺りは、もう日が沈みかけていて、少女の顔が白く微かに、儚げに感じた。
「……虫?」
と、少年は聞き返す。
「ええ。少し変わった色をした綺麗な虫なの、私、その虫の名前は知らないけど」
少女の声は、少年にとって癒しの声だった。まるで透き通るような、少し儚い綺麗な声色。その雰囲気に、彼は惹かれた。
公園の中は静かで、優しい春の日差しを浴びた広葉樹たちが、ユラユラと動いている。
「飼っているのに名前、知らないんだ」
「詳しく無いから」
詳しくないから、と彼女は言う。
「ある日、私の家にやって来たの。かなり大きい虫で……小さい、ピンク色の足が五本づつ、両方に着いてて、合計十本。顔は、黄色いキバみたいなのが、くっついているんだ。目は青く光っている」
「不思議なかたちをしているんだね」
と少年は言う。
実を言うと、少年はその虫の姿を想像する事はできなかった。
ただ、少女の話しに耳を傾けていたいだけだった。
「ねえ、虫の姿……想像できないでしょ」
少女が、少年の心を見透かしたかのように問いかけた。
「うん。実は、あんまり信じられない」
「じゃあ、私の家においで」
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