第21話
食堂がオープンしてから約一ヶ月が経過。口コミで一気に人気が広まり、店は繁盛を始めた。そんなある日の夕暮れ前。
リスティアは、厨房でマリアにクレープの作り方を教えていた。
「……えっと、こんな感じ?」
「うん、マリアは凄く筋が良いね」
「……褒めても、なにも出ないわよ」
ちょっと照れくさそうな顔で、つっけんどんなことを口にする。そんなマリアが可愛くて、リスティアはニコニコとしていた。
だけど、そんな至福の時間を、無粋な声が遮った。フロアの方から、男の威圧するような声が響いてきたのだ。
「ちょっと見てくるね」
「うん、やりすぎないようにね、リスティア店長」
「……はーい」
信用ないなぁ……と、しょんぼりしつつ、リスティアはフロアに向かう。ちょうどそこで、フロアの方から駆け込んできたミュウと出くわした。
ミュウはリスティアの姿を見つけると、だーっと駆け寄ってきた。
「ふえぇ……ぐすっ」
目元にうっすらと涙を溜め、リスティアにしがみついてくる。いつもはピコピコと揺れているイヌミミが、今はしょんぼりと項垂れていた。
「ミュウちゃん、どうしたの?」
「……ボク、ここにいちゃいけないの?」
「そんなことあるはずないよ」
「……ホントに?」
「うん、ホントのホントだよ。どうしてそんなことを聞くの?」
青みがかった髪を優しく撫でつけ、翡翠のような瞳を覗き込む。
「獣人族が人間の街にいるなんて汚らわしい。街から出て行けって言われたの」
ミュウは悲しそうな顔で呟いた。
「へぇ……そうなんだ。そんなことを言った人が、いるんだね」
刹那、原因不明の地揺れが街を襲ったが、それはともかく。リスティアは内心の激情を押し殺し、「あたしはそんなことは言わないから、心配しなくて大丈夫だよ」とミュウを慰めた。
「……本当?」
「うん、あたしがミュウちゃんを追い出したりするはずないでしょ」
「……ありがとう、リスティア店長」
少しだけ安心してくれた。そんなミュウをマリアに預け、リスティアはミュウを泣かせた不届き者を確認するために、食堂のフロアへと向かった。
なぜか、たくさんいたはずのお客さんは一人もいない。
代わりに、二人の兵士を引き連れた、初老の男がいた。武術でもやっていそうながっしりとした体つきだが、着ている服はかなり上質そうだ。
……もっとも、この時代の人間基準の話だが。
「店長、あいつらがやって来て、他のお客さんを追い出しちゃったの」
リスティアに気付いたアヤネが駆け寄ってくる。
「そっか……アヤネはなにか酷いこととかされてない?」
「うん、私は大丈夫。ただ、ミュウちゃんが酷いことを言われたから、アレンが彼らに殴りかかろうとして……」
「あぁ……それで」
店の端っこ、アレンがリューク達に羽交い締めにされているのはそれかぁと納得した。
「アヤネはみんなを連れて、厨房で待機してて」
「でも……」
「大丈夫だよ。あたしが、ちゃんとみんなを護るから。みんなは奥に行って待ってて」
リスティアが微笑みかけると、それで安心してくれたのだろう。アヤネ達はわりと素直に、下がってくれた。それを見届け、リスティアは男達に視線を向ける。
「さて、あなた方は何者ですか? お客ではないようですけど」
「……メイド? 俺は孤児院の管理者を呼んでこいと言ったんだがな」
「あたしが孤児院の管理を引き継いだリスティアです」
「ほう、お前がリスティアか。噂通りの見た目だな」
「……それで、貴方は何者なんですか?」
「俺はこの街を統治しているジェインだ」
「そうですか。それでは、要件をうかがう前に、あたしから一つ聞いてもよろしいですか?」
リスティアは透明な笑顔を浮かべ、けれどそのうちには静かな怒りを秘めて、ジェインに向かって問いかけた。その正体不明の圧力に、ジェインがゴクリと生唾を飲み込む。
「……なんだ、言ってみろ」
「さっき、うちの子が泣いてたんですが……貴方の仕業ですか?」
「――はっはあっ、あのガキ泣いたのかよ!」
笑い声を上げたのは、ジェインの後ろにいた兵士の一人だった。
「……貴方が、泣かせたのですか?」
「だと言ったらなんだ?」
「謝罪を要求します」
「はっ、お断りだね」
「……そうですか」
予想どおりの反応に、リスティアはどうするべきかなぁと考え込んだ。
ミュウに知られず、それどころか誰にも知られず、ミュウに暴言を吐いたことを後悔させるのは可能だけれど、それはリスティアの自己満足にしかならない。
また、リスティアの力があれば、ミュウに謝罪させるのも簡単だ。それどころか、謝らせてくださいと、泣きながら懇願させることだって簡単だ。
けど、そんなことをしても、ミュウの傷ついた心は癒えないだろう。
とは言え、二度と同じことを繰り返さないように、生まれてきたことを後悔させるくらいは必要かもしれない――と考えていると、「まぁ待て」とジェインが口を開いた。
「ゲイズ、ここは孤児院なのだから、獣人がいても不思議ではないだろう。むしろ、様々な種族がいてしかるべきだ。出て行けというのは間違っているぞ」
「――はっ、たしかにその通りです。申し訳ありませんでした!」
ゲイズと呼ばれた、ミュウに暴言を吐いたとおぼしき兵士が、あっさりと前言をひるがえして謝罪する。けど、その顔はニヤついている。形だけの謝罪であることは明らかだ。
そもそも、ジェインの言い方もなんとなく引っかかる。けど、これ以上追及しても、ミュウの喜ぶような結果にはならないだろうと思った。
「分かりました。同じことを繰り返さないというのなら、謝罪を受け入れます。ただし……次はありませんよ」
リスティアは爛々と輝く紅い瞳に殺気を込めて、ゲイズを静かに見つめた。
ドラゴンすら逃げ出すほどの殺気をぶつけられたゲイズは、息をすることも叶わず、大量の脂汗を流し始める。そして――十秒、二十秒と経過し、ゲイズの顔が紫色に染まり始めた頃、ようやくリスティアは殺気を引っ込めた。
恐怖から解放されたゲイズはその場にくずおれて、荒い呼吸を始める。けれど、ほかの者は、どうして急に座り込んだんだ? と言った表情。
張本人たるリスティアは知らないフリで「それで、あたしにどんなご用ですか?」と、ジェインに矛先を向けた。
「あ、あぁ、そうだったな。今日ここに来たのは他でもねぇ。孤児院やこの店の税が納められてない件について、だ」
「……税、ですか?」
税金という制度を知らなかったわけではない。
街に入る際に、身分証を作る手数料という名目で税を取り立てていることは理解していたし、この街に住むには税金が掛かることも知っていた。
けれど、孤児院は身寄りのない子供達を保護するための施設で、そういった税が免除される――と、エインデベルからは聞かされていたのだ。
「孤児院は税を支払わなくて良いのではないのですか?」
「それは、孤児院が貧乏だったときの話だ。いまはこのような立派な建物を建て、店も繁盛しているではないか」
「あぁ……それで、税が発生したと言うことなんですね」
それがこの街のルールなら従おうと、リスティアは「おいくらなんですか?」と尋ねた。
「そうだな……毎年、金貨100枚だ」
それを聞いたリスティアは、このあいだオークションで売ったくらいのネックレスを一つ作って売れば、約180年分の税金。それならなんの問題もないね――なんてずれたことを考えた。
けれど、そんなリスティアの沈黙を見たジェインが「くくくっ」と喉で笑う。
「まあ、そう驚いた顔をするな。お前がどれほどの私財を持っているかは知らんが、さすがにそんな税を払えないであろうことは理解している」
「……えっと、そうですか?」
大金貨を100枚。金貨ではなく大金貨――十年分の税を、アイテムボックスから取り出そうとしていたリスティアは、税を払えるはずがないと言われて困ってしまう。
あげくは、ここで十年分を出したら、おじさんの面目を潰しちゃうかな? せめて、用意するのに数日くらいかけた方が良いかなぁ――なんて、気遣いまで始めた。
まあ、もしそうなっていたら、ジェインは狂喜乱舞して帰って行ったはずだけど。ジェインにとって不幸なことに、そうはならなかった。
初めから他の目的があったジェインが、金貨100枚の代案を持ちかけたからだ。
「孤児院が税を納める代わりに、娘達に奉仕活動をさせろ」
「……奉仕活動、ですか?」
その言葉の意味するところにリスティアが思い至った瞬間、大陸全土を地揺れが襲った。けれどその揺れは一度きりで、しかも全体的に小さくて、誰も気にしない程度だった。
リスティアは自制の利く女の子なのである。
「そうだ。前の院長、ゲオルグ院長は我が街のために、奉仕活動をする娘を斡旋してくれていたのだがな。あのバカが急にいなくなって困っていたのだ。お前がどういう事情で孤児院を引き継いだのかは知らんが、その仕事を引き継いでもらいたい」
よもや断ったりはしないだろうな――と、殺気を放ってくる。けれど、それは殺気と呼ぶのもおこがましい。リスティアにとってはただ不快なだけであった。
だから、どうするべきか迷った。
もちろん、マリア達を苦しめた一味を許すつもりはない。けれど、今のジェインは小動物がギャンギャンと吠えている程度でしかない。
そんな相手を殺しても良いのかどうか……と迷ったのだ。
ここで堂々と殺しちゃうのは……やっぱりダメだよね。ガウェインを殺したときのナナミちゃんの反応を思い返してみると……うん、絶対にダメだ。
だとすれば……手足を切り飛ばしておしおきくらいなら……うぅん、ゲオルグ前院長、すっごく怯えてたしなぁ。子供達も怯えちゃうかなぁ?
「はっ、強がってはいてもしょせんは小娘、恐怖に声も出なくなったのか?」
「……え、あたしのこと?」
「お前以外に誰がいる」
あたしは別に怯えてなんていないんだけどな? なんて思ったのだけれど、ジェインはリスティアが怯えたと思い込んでいるらしい。
実に楽しそうな表情を浮かべている。
「そうだな。更に代案を出してやろう。お前が孤児達の代わりに、奉仕活動にいそしむが良い。お前くらいの器量があれば、需要はいくらでもあるだろう」
「……どうしてあたしが、そんなことをしなきゃいけないのよ」
「子供達が大切なんだろ? あまりぐだぐだ文句を言っていると、お前の大切な子供達が、腹を立てた俺の部下に襲われるかもしれないぞ?」
子供を部下に襲わせるという、明らかな脅しにリスティアは眉をひそめる。
「ふっ、そう不安そうな顔をするな。あくまで、お前が従わなかった場合の話だ。お前が従えば、全ては丸く収まる。お前だって、子供達が傷つく姿は見たくないだろう?」
「それは……」
たしかにその通りだ。
もし彼らが子供達を襲ったら、子供達は間違いなく反撃する。そして、加減を覚えていない子供達はきっと、原形をとどめないほどに彼らを潰してしまう。
もちろん、潰された直後なら、リスティアが生き返らせることが出来るけれど……それでも、やり過ぎた子供達の心に傷が残ってしまうだろう。
なんて恐ろしい脅しを仕掛けてくるんだろうと、リスティアは戦慄した。
子供達のことを考えるのなら、穏便に済ませるべきだ。
けど、自分が奉仕活動をするなんて、絶対にありえない。素直にお金を受け取ってくれたら良いんだけど、奉仕活動が本命ならそれも厳しそうだ。
かといって、他にはジェイン達を皆殺しにするくらいしか思いつかない。
でもそんなことをしたら、子供達に嫌われてしまうかもしれない。ここで、判断を間違えることは出来ない。ジェインの言うとおり、自分は境地に立たされている。
どうしたら良いんだろう……と、リスティアは必死に考えた。
例えば、身体をじわじわと蝕む毒で殺せば、あたしがやったって分からないよね。それなら子供達に怖がられないかな?
……うぅん。あたしは怖がられないかもしれないけど、苦しむ人達を見たら、子供達は怖がっちゃうかなぁ。
なら、精神だけを破壊するとか? それでも、なんとかなりそうだけど……
あ、そうだ! 一瞬で塵も残さず消し飛ばしちゃえば良いんだ。そうすれば「あれ、ジェインさん達、どこ行ったんだろう~?」ってごまかせるよねっ!
うん。それならきっと大丈夫。そうしよう――なんて、リスティアがぶっ飛んだことを考えていると、入り口からドレスを纏った少女が現れた。
前回とは服装がずいぶんと違うけれど、ゆったりとしたウェーブの掛かった金髪に、穏やかなブルーの眼差しは間違いない。以前、リスティアを指名したお客さんだ。
「お姉ちゃん、ごめんなさい。今は立て込んでいて、孤児院食堂は閉店中なんだよ」
「そのようですわね。でも、わたくしも今日は、別件で来たので問題ありませんわ」
「……別件、なの? えっと……それじゃ、なんのご用でしょう?」
リスティアは店員としての妹モードを止めて、普通の口調へと戻した。その瞬間、シャーロットは少しだけ寂しそうな顔をした――ような気がした。
「用というのは他でもありませんわ。貴方とは本音でお話ししたいと思って」
「……本音、ですか? 貴方は、いったい……」
リスティアが小首をかしげると、少女はドレスの裾をちょんとつまんで、優雅にカーテシーをしてみせた。
「申し遅れました。わたくしはシャーロットと申します。この周辺を統治する、ウォーレン伯爵家の長女ですわ」
金色の少女――シャーロットが名乗った瞬間、なぜか空気が凍り付いた。けれど、リスティアは気にせず、「そうだったんですね」と普通に応じた。
「と言うことは、シャーロット様も、孤児院の件でいらっしゃったんですか?」
「……あら、よくご存じですわね」
リスティアにとって、シャーロットはお気に入りの妹候補だったけど、ジェインと同類だったのかとがっかりしそうになった。
けれど――
「リスティアさんが私財をなげうって、孤児院の建て直しをおこなった話は聞いています。足しになるかは分かりませんけれど、ここの市長に支援金を渡しておきました」
「支援金……ですか?」
予想とはまるで正反対の言葉に、リスティアは首をコテンと傾けた。
「ええ、毎月の支援金とは別に、建て替え費用としての支援金ですわ。金額はこちらの羊皮紙に書いてあるので、ご確認くださいませ」
その羊皮紙には、立て替えの支援金として、金貨30枚。そして毎月の支援金として、金貨3枚と書き込まれていた。
それを見ていると、シャーロットが少しだけ顔を近づけて囁いてきた。
「実は……市長が横領をしているという噂があるんですの」
「横領、ですか?」
リスティアがオウム返しに聞き返すと、ガタガタッ! っと、ジェイン達が身じろぎをしたが、取りあえずスルー。シャーロットとの会話を続ける。
「ええ、横領です。ですが、なかなか証拠が掴めなくて困っているんです。もし、渡される支援金が記載された金額と違っていたら、わたくしに報告してくださいませんか?」
「報告すれば良いんですか?」
「ええ、証拠を押さえることが出来れば、その首をはねることも容易なので」
シャーロットはそこまで言って、「まあ、孤児院の管理者が貴方に代わった時点で、正しい金額を払ってるとは思いますけどね。じゃないと、すぐバレますし。さすがに、そこまで馬鹿とは思えませんし……」と自嘲気味に笑った。
だけど、それを聞いたリスティアも苦笑いを浮かべる。ここに来てようやく状況を理解したからだ。
「ここに書いてある毎月の支援金というのは、毎月支払われるんですよね? 一年に纏めて、とかではなく?」
「そのはずですけれど……まさか?」
「ええ。あたしが院長になってから数ヶ月、支援金をもらったことがありません」
「――なっ!?」
想像もしていなかったのだろう。シャーロットは信じられないと目を見開いた。
「想像したよりも腐ってますわね。ただ、上手く追い詰めないと、リスティアさんが嘘をついていると逃れる可能性もあります。なんとか証拠を押さえたいところですが……」
シャーロットが独り言を呟きながら考え始めたそのとき、ジェイン達がなにやらこそこそと、店から帰ろうとしたので、リスティアは「お帰りですか?」と声をかけた。
その瞬間、ジェイン達は面白いほどに飛び上がった。
「――あら、そう言えばお客様がいらしていたんですわね。横から入るような真似をして申し訳ありません。どうぞ、先にお話をなさってください」
シャーロットが頭を下げ、ジェイン達にその場を譲ろうとする。
「い、いや、俺達の話はまた今度で良いからよ!」
まくし立てて帰ろうとするが、そんなことを許すリスティアではない。
「今度と言われましても。さっきも申し上げましたけれど、税の代わりに、子供達やあたしに、奉仕活動をさせるという件はお断りします」
「ひゃやおうっ!?」
謎の悲鳴が上がった。
「……リスティアさん、なんのお話ですか?」
「じつは、そこにいる彼がジェインさん――市長だそうです」
「……え?」
シャーロットがきょとんと目を丸くし、ジェインがこの世の終わりのような顔をした。
「それで、毎年金貨100枚の税を支払うように求められたんです」
「――は? き、金貨100枚の税を、毎年、ですか?」
「ええ。それで、お金を支払う代わりに、あたしや女の子に奉仕活動をしろ、と」
「奉仕活動というのは……ま、まさかっ!」
「ええ、そういう意味、みたいです」
リスティアの説明を理解したのか、シャーロットの美しい顔が怒りに染まっていく。そしてそんなシャーロットとは正反対に、ジェインは真っ青に染まっていく。
シャーロットは、ジェインに視線を向けた。
「ふっ、ふふふっ、よりにもよって、我がウォーレン伯爵家が丁重にもてなそうとしている相手に、そのような振る舞い……どうやら、税を取り立てられるのは貴方の方ですわね」
「ひっ、ち、ちが、違います!」
「あら、なにが違うのかしら。貴方の首を税として納めてくださるのではないというのなら、その理由をぜひ、わたくしに分かりやすく教えてくださるかしら?」
シャーロットが、怒りに満ちた視線をジェインにぶつける。
「お、俺は……そう、滞っていた支援金の支払いをするために来たんだ!」
蛇に睨まれたカエルのように怯えていたジェインが、そんな風にまくし立てた。そして、大きな声を上げたことで恐怖から解き放たれたのだろう。勢いに任せてまくし立て始める。
「そもそも俺は、税金を支払えなんて一切言ってない! 税がどうとか脅されたとか、その娘が勘違いしているだけだ!」
「よくもまぁ、そのような嘘を並べ立てられるものですわね」
「う、嘘じゃない! 嘘だって言うなら、その娘の発言が事実だって証明してみろよ!」
「くっ、このっ、よくもぬけぬけとそのようなことを……っ」
シャーロットが悔しげな表情を浮かべた。
ん~、普通の女の子の発言だけじゃダメってことみたいだね。
そんな風に理解したリスティアはパチンと指を鳴らし、その場にいる全員の視線を自分に集めた。そうして目を合わせたジェインに、真祖の吸血鬼が持つ魅了の力を発動する。
「さぁ……貴方がここになにをしに来たのか、洗いざらい正直に話しなさい」
リスティアが紅い瞳を爛々と輝かせ、静かに命令を下す。
その次の瞬間――
「俺がここに来たのは、金になると思ったからだ。お前に支払えないほどの税金をふっかけて、交換条件で言いなりにすれば、孤児院に送られる支援金を着服できるからな」
「……え?」
急に罪の告白を始めたジェインに、シャーロットがぽかんとした顔をする。
「それに、新しい院長はとんでもない美少女だって噂だったからな。騙して借金を負わせるなりすれば、その美しい身体を俺の好きに出来ると思ったんだ」
「な、なんて下劣な……汚らわしいっ!」
シャーロットの碧い瞳に、軽蔑と怒りが宿る。
もう十分だと考えたリスティアは、ジェインにかけていた魅了の力を解除した。
「……はっ!? 俺は、なにを……っ。い、今のは誤解だ! ただ、思ったことを口にしたというか、いえ、思ってもいないことを口にしただけでっ! と、とにかく失礼する!」
ジェインが身をひるがえし、出口へと走る。それと同時、怒りに打ち震えたシャーロットが右手を顔の高さに振り上げた。
「引っ捕らえなさい、脅迫の現行犯です!」
右手を振り下ろし、凜とした声で叫ぶ、その瞬間、店の外から騎士の格好をした男達が乱入。あっという間にジェイン達を拘束してしまった。
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