情脱信仰
佐藤 田楽
情脱信仰
漠然とした妄想は美化され、妄言の真意を強める。
歴然の詳細は疎まれ、暴言の的に晒された。
人の脆弱な部分。
想うだけなら勝手なのに、表に出した途端、思ったことをさも諭すようにぶつけてくる。
裏に置くべき秘め事を免罪符の衣を借りて曝け出す。
隠さない。情けない。意味を持つことが分かっていない。
曖昧な経路で迷っている。その後ろに火を放つ。
まるで詩人気取り。中途半端に自制した奢りが傲慢を誇張させ、当然を麻痺させる。
対す評論家もどき。それが批判なのか称賛なのか、評価の質を位置付けるのはやはり自分で、そこに誤りがあるのか過ちが居るのかは生涯判明することがない。己に心はひとつしかない。
最近、もう1人の自分が姿を見せなくなった。自己の統一。または別離。
いずれにせよ窮屈は無くなり、自由の本質を忘れてしまった。
しかし、対価として不安を失った。かつてもう1人の自分が目の前で見せていた術をいつの間にか真似して、逸らす事に正当性を説くようになった。
そう思えば酷く情けない、焦燥が影で身を満たしていた。
かつて底辺に居て地の味を確かめていた時は、どんなに辛く悲しくても飛び上がるための自信が備わって時を待っていた。
しかし重石が外れて、ほんの少しばかり、予期せぬ浮上を得たせいでそのときに全てを落としてしまい、浮遊感が快楽を生み、奥底の恐怖が破裂しそうである。
分からない。求めた物はまた間違っていた。
揺らぐ紫煙は色を消した。
また迷う予感がある。だから、足掻きが日に日に増している。
なのに、恐怖を感じない。それが怖い。今はそれが恐い。
ふと、振り返ってみると後ろは黒く焼けていた。
自分はそれの様子に安堵して微笑んだ。
向こうには断頭台がまだ、しっかりと有ったのだ。
さうさな。
それも、いいかもしれない。
ーーー情脱信仰
情脱信仰 佐藤 田楽 @dekisokonai
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