トリムルティの宝

アクア

【一部】World_アイテリア

プロローグ

私は夢を見ている。

非現実的なはずの魔法に様々な魔物達、そして沢山の種族が住んでいるファンタジーな世界で生きる自分の夢だ。

この夢はいつ覚めるのか、本当に夢なのか。

そう考えながらその世界で生活し、はや10年の月日が経ってた──。



──



「……」

 

まだぼんやりとする頭のまま、私は目をゆっくりと開く。

今日は魔物との戦闘があって疲れていたはずなのに、何故か目が覚めてしまった。

もう1度寝ようと横になるが中々寝付けずに、ベッドでごろごろと寝返りをうったあと、やはり眠れないと仕方なく体を起こす。

宿屋の安い木で出来たベットから抜け出し、窓を開けて外の空気を軽く吸う。空を見ると綺麗な満月だ。

 

「この世界に来た時も、こんな満月だったな……」

 

私は普通の女子高生だった。演劇が好きで、将来は舞台女優になりたいと夢見る本当にごくごく普通の18歳だ。

それは突然だった。翌日の学校の準備を済ませ、部活で朝が早いからと決まった時間に就寝しただけ。

しかし目が覚めるとそこは、全くの別世界だった。

 

それから魔物に襲われそうになる、いきなり剣術を学ばされる……生きる為に必死な目の回る日々だった。

運良く自分を最初に見つけてくれた人が善人だったのが不幸中の幸いだったと思う。

 

この世界での生活は最初に私を見つけてくれた人、師匠のお陰でかなり安定している。

今は様々な所を旅し、用心棒として稼いでいる。

師匠が剣術を教えてくれたおかげで繋げた命だと、壁に立てかけた彼に贈られた2本の剣に視線を向けた。

 

再び月に顔を向け、背中に意識を向けぐっと力を入れる。

すると背からは青く、大きな翼が。

角も生え、オマケに尻尾まで。

これだけではなく、もっと竜に近い姿にもなれる。

 

そう、自分は人間では無くなっていた。

それに気づくまでこの世界のに来てからそれなりに時間がたった頃だったが、今の自分は『竜人』という種族らしい。

それも今は絶滅した貴重な種族。

初めてこの姿になれると知り外に出た時、道行く人が絶叫して逃げて行く姿は今でも忘れられない。

それ以来人前で竜人の姿を晒すことはしないようにしている。

 

「まぁ、空を飛べるのは嬉しんだけど」

 

普通の人間から亜人へ変わっても、私はあまり動揺しなかった。順応性が高いというのか、鈍感と言うのか。

もう元の世界の記憶、学校、友人、そして家族の事さえ薄れてきて、ここの生活に慣れてきている事にも、人の適応能力の凄さを感じる。

元の世界に帰りたいという気持ちがこの10年で、だんだんと薄れてきていた。

 

軽く翼をバサりと動かしたあと、自らの中にしまう。

何だか思いふけってしまったなと思いながらまたベッドに戻ろうとすると、急に胸の中心に痛みを感じた。

 

「いっ……!何?」

 

今日の戦闘で傷を負った覚えは無い。

それに胸の痛みだけでなく、体がごうごうと燃えるように熱かった。感じたことない感覚に、軽い恐怖さえ覚える。

急いで痛みの原因を探ろうとシャツのボタンを外し、胸元を見ると、そこには何かの紋章らしきものが焼かれるように刻まれていっていた。

 

「くっ、なに……これ……?」

 

全て模様が肌に刻まれると、黒かったそれは光り輝き水色に染まる。そしてその紋章には、それには見覚えがあった。

 

「え……これってまさか例のやつ!?」

 

私は真実を確認するため、1階の酒場へとかけ降りた。

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