第3話  進路指導はいらないと宣言する

 勉強に関して高校入学早々に挫折し、開き直った私は当然、大学進学など微塵も考えていませんでした。周りは国立大や難関私立大など目指しているのに、大学進学に興味がない、と言い切っているのですから相当の変人ですよね。ですが、私が進学に興味が無かったのにはちゃんと理由があります。勉強したくないというのは勿論ですが、そもそも、さらに深く学んでみたいと思うものが無いのに4年という長い時間と多額の学費を費やすのがもったいなと思ったからです。世間のイメージでは、大学の間は自由だとか遊べる、やりたいことができる、などといったものがあるでしょうが、進級するためには単位をとらなきゃいけないし、卒業論文だってあります。進級のために興味のない講義を受けたり、就職しても役に立ちそうもない中途半端な専門知識を何故学ばなければならないのか...私はその生活を想像した時に世間が言うような自由を感じることはできませんでした。まあ、そんなこと周囲に説いたところで誰の共感も得られないことは分り切っていたので、学生時代に誰かに話したことはありませんけどね。笑


 ただ、このままニートになっていつまでも親の世話になるのも嫌でした。事実、全く勉強しなくなった私を見て母親は口うるさく小言を言ってきました。今なら母親の心境もわかりますが、当時の(今もたまに)私にとってはそれも窮屈だったのです。親が言うから大学に行く、有名な会社に就職する、そんな未来に何の楽しみが残されているのか。誰かにああしろ、こうしろ、と言われることに物凄く嫌悪感を感じていたんですね。いつしか、


早く家から出て誰の干渉も受けることなく自由に生きたい


そう思うようになりました。


 しかし、驚くべきは父親の対応でした。父は、私には世間一般の生き方が合っていないことを早々に見抜いていたらしく、高校2年の夏にこんな話を持ち出してきたのです。


「海上保安庁に入らないか?」


「・・・は?」


 それが私の最初の反応だったと思います。そりゃそうですよね。何の脈絡もなく突然そう言われれば、誰でも同じ反応になると思います。しかし、そこから私の変人ぶりが炸裂していきました。


ヤマトみたいなのに乗れるのか...面白そうじゃん。


そう思ったんです。幼いころからスターウォーズや宇宙戦艦ヤマト、ゴジラなどを観て育ってきたので、そういう世界に興味が無いではなかったし、ちょうどその頃はガンダムにハマっていたので、タイムリーだ!と思いました。そういう組織に入れば自分も映画やアニメみたいな特別な世界で生活できる!と。今考えてみると「お前、考え直せ‼」と言いたくなるほどアホ丸出しの動機ですね。いや、それ以上に娘にそんな提案してくる親もどうかと思いますが。そんなわけで海上保安庁に入ることをほぼノリだけで決めてしまいました。


 大変なのはその後です。海保に入るためには海上保安大学校か海上保安学校のどちらかに入学しなければなりません。ノリでイエスと言ったものの、ずっと海上保安庁にいる保証も無かったので、大学卒業の資格がもらえる大学校を目指すことに決めたのはいいのですが、進路指導の先生に相談したところで、何も情報を得ることはできませんでした。それもそのはずです。今まで、防大に進学した人はたくさんいましたが、海保進学は前例が無かったのです。(後に約50年前に1人だけいたことが判明しました。)入学案内はおろか、どこに行けば入試の情報が手に入るのかすらわかりませんでした。


 学校の先生が軒並み白旗を揚げる中、活路を見出したのはまたしても父でした。どうやって調べたのか、学校の情報や入試相談会、はたまた海保大卒業生のブログなど、まるで自分が入学するんじゃないか、と思うほど詳細な情報を集めてきたのです。それぞれの情報を吟味していくうちに、進路対策は自分でやれば十分だとわかりました。父も同じことを感じていたようです。保護者同席の進路面談の時でした。


「娘さんの進学指導に関してなんですが、我々も前例のないことでして...」


担任が困ったように切り出しました。そこで父が放った一言がこちら。


「あぁ、そうですよね。大丈夫です。入試の情報なんかは自分たちで集められるんで!」


担任はもちろん「えっ!?」という反応です。当然ですね。私も一瞬、


「言っちゃったよ~」


と思いましたが、今度は矛先がこちらに向いてきました。


「君はそれでいいの??」


担任にそう聞かれたときの私の返答がこちら。


「はい。入試情報に関して困ってることは特にないです!」


これを聞いた担任はラッキー‼と思ったのでしょうか、急に明るい口調で、


「そうですか!では、細かいことはご家庭で進めていただくとして、我々もサポートできるところはしていきますので。」


と言って面談は終了しました。「進路指導は必要ありません!」と言い切る父親に、「特に困ってないです!」と宣言する娘。このやり取りだけ見ると、この親にしてこの子ありだな、とつくづく思います。担任はさぞ驚いたことでしょう...いや、面倒が減って良かった!と思っていたかもしれませんが・・・

 こうして、我々、変人親子は自力で入試対策を進めることになりました。果たして、勉強大嫌い受験生は合格することができるのでしょうか?結果は次の項でお話しすることにしましょう!

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