屋岡高校自然科学コース

鈴木 那須

第0話 勿論君も行くよね?

とある県のド田舎の公立の中学校。

静かな一組と騒がしい三組に挟まれた三年二組教室のど真ん中の席で俺はラブコメを読んでいた。そのラブコメのシリーズはアニ化、実写化されるほど人気がある。確か全六冊だった気がする。最初は聞いたことがあるから借りてみた…らどっぷりハマってしまった。正直に言う。面白い。読んでみ!ガチで面白いから!

自分ではあまり意識してないがこのシリーズを読む時普段の5倍顔がニヤついているらしい。そのせいでよく友達(主に女子)に「またニヤついとる」などと言われるのだ。まあ、それほど面白いのだ。

それほど面白い本をいつも通り騒がしい昼休みに顔をニヤつかせながら読んでいた。俺がとる動作はたったひとつ、ページをめくる事だけだった。


物語が終盤に差し掛かった頃、俺に向かって誰かが近づいてきた。

「ねえ」

明らかに女子の声だ。

俺は本を読みたかったので顔を上げずに

「なに?」

とだけ答えておいた。

「………に勿論君も行くよね?」

「何処に?」

顔を上げた。そこにはポニーテールが似合う同じクラスの女子が立っていた。彼女は、綾ちゃん。フルネームは、伊藤 綾。ソフト部の主将で成績優秀。

さっきの会話だが最初の方を本を読んでいたので聴き逃した。いや聞き流した。

もう一度言って欲しい。そう思った。ワンスモアタイムプリーズ!

「自然科学!学校を出てそのまま真っ直ぐ歩いて行ったら屋岡高校があるやろ?そこの理数科」

あー

彼女は俺が願った通りに言い直してくれたサンキュー。だけどもう少し優しく言ってくれ。

俺はこの時、「進路なんてどうでもいわ!」「近ければ何処でも良い」と思っていた。でもなぁ、こんな眩しい笑顔でこんなにも真っ直ぐな瞳で女子に見られたら「NO」とは言えない。この時の俺は経験値が余りにも少なかったんだよ!女子に話しかけられただけで少しドキッとするようなピュアな少年だったんだよ!

そんな訳で俺は「うん」と答え、別に入るつもりも無かったその自然科学コースとやらを受験し見事合格し屋岡高校に入学した。



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