第二話 本は空から降ってくる

 高校入学式及び始業式の今日、 俺は妹の声ではなくスマホのモーニングコールで目を覚ました。

カーテン越しの太陽の明かりはまだ小さく、春の朝を感じさせない。

意識が朦朧とする中、スマホを手に取り耳に当てた。


「はぁい?もしもし」

スマホの向こうからは寒々しい風の音が聞こえる。

そして、聞き慣れた女の声が耳に入ってきた。


「おはよ、琉夏君。昨日はよく眠れた?」

今日も明るくハキハキと喋る零。

「おはよう。昨日はあのまま岬と寝たのか?」

そんな話を少ししたところで意識の朦朧さがだんだんなくなってきた。

うん!と明るげな声が返って来ると同時に目についた時計の針が指す時間を見て驚き、質問を投げかけた。


「なぁ、今、朝の6時なんだがなんで電話をかけてきた?」

質問をした理由は簡単だ。電話をかけてくるにはおかしな時間だし、何より同じ家にいるのに何故電話なのか。

待て、おかしいぞ。朝の脳はよく働くというがここまで考えたのは初めてだ。考えに考える俺をよそに答えはすぐに電話の向こうから返ってきた。


「え?もしかして忘れた?今日は岬ちゃんが寮に入る日だよ。朝、妹の送り出しすらしないお兄ちゃんの代わりに岬ちゃんを送ったっていうのに〜!」

少し不満気味な応答が返ってくる。

そういうことだったのか。正直すっかり忘れていた。しつこいぐらい昨日の昼に妹と確認したというのにこの始末である。そんな自分に溜息が出た。


「そりゃ悪かった。でもまて、電車の始発は6時30分だぞ?寮入りだって正午でいいって話だったのに……」

そう、岬から聞いていたのは正午からの寮入りで、こんな朝早くからなんて少しも聞いていない。

その独り言のような質問に少し呆れた声で返答が帰ってきた。


「それがね、岬ちゃん時間を間違ってたらしくて。本当は説明会があるから7時には寮入りだったんだって。だからタクシーでここまで一緒にきたの。」

顔を見えなくても呆れているのが手に取るように分かる。だが、簡単に一緒に行ったというがそれは紛れもなく大変なことだ。


妹の中学校は隣の県。タクシー代だってバカにならないし、何より零も今日高校の始業式だったはずだ。

隣の県から電車使ったって登校時間に間に合わないだろう。着いていかせてしまった申し訳なさと零の無計画さに混乱してしまい、つい声を荒げて話してしまった。


「お前どうやって帰ってくるつもりだ?!1番の電車で帰ってきても学校に間に合わないぞ?!」

「そんな怒んないでよ!うーん、お金もないし走って帰る!学校は……どうにかなるよ!じゃ!」

おい!と呼び止めようと声を出したがプツッと電話は切れてしまった。


「てか、走るって……。」

こんな状況、頭を抱えずにはいられない。ガリガリと頭を搔きむしり、はぁと大きく溜息をついた。

カーテンに手を伸ばして勢いよく開け、遮られていた春の暖かい日差しを部屋の中に取り込んだ。そして、お天道様を見て息をスッと吸うと少し大きめの声を腹から出した。

「今日から始まる高校ライフ、どうか楽しく平和でありますよーに!!」


 俺は自室からリビングに行くと冷蔵庫に向かい、妹が作り置きしておいてくれた朝食のおかず、もとい余り物を取り出してレンジに入れた。

そしてその待ち時間に冷蔵庫に寄りかかり、窓を通して外を見つめる。

窓から入る朝の光は白いソファを明るく照らしていた。


それを見ながら考えてしまうのはやはり零のこと。

自分の妹のせいで晴れの高校始業式に出席できないというのは、原因の発端となった妹の兄として、零をずっと近くで見てきた幼馴染として心に響くものは大きい。

あいつは親がいなくなってからというもの勉強から何まで人一倍頑張って、教えてはくれなかったが有名な高校に特待合格したらしい。

こんなことを考えていると罪悪感は増すばかりだった。


脳の中では色々考えていたが、実際はぼうっとしてたらしくチンとレンジが音を立てて温め終わった合図をすると、体がビクッと震えた。

レンジの扉を開け、飯ごうから飯をよそって食卓に並べた。

ラップを外すとおかずの唐揚げが姿を見せた。

「いただきます」


1日おいた唐揚げというのは温めてもシワシワで、噛んでもカリッもジュワッも感じない。

それでも俺はそれをご飯と一緒に黙々と口に運び続けた。

ふと、時計を見ると針はもう7時を指していた。

「ん、やばっ!ゆっくりし過ぎたか、歯磨きしなきゃ」

急いで椅子から立ち上がる。シンクにただ食器を置いて洗面所に早歩きで向かった。


洗面所の鏡には歯ブラシを動かしてる自分が写っている。でもその姿は前とは違った。

高校の制服は中学の学ランとは違い、ブレザー。

そして、高校生になった自分は前より少し大人になって見えた。まぁ、気のせいだけど。


口をゆすぐと顔を洗い、玄関からバックを持って勢いよく飛び出した。

鍵を閉めるのを忘れ、行ってきますも忘れて、結局早めに家を出た。

何だかんだ朝からあったけど新生活のワクワクは止まらない。

急いでいるわけでもないのに足は勝手に走り出す。


春光の暖かさを感じ、小鳥のさえずりは祝福の声に聞こえ、太陽はこの人生の主人公である自分を、自分だけを照らしているかのように感じた。

街の至る所にある桜も美しく、全ての始まりである春を強調している。


「やっべぇ!ドキドキが止まんねぇや!」

そんな独り言がつい口から漏れた。

息を切らして春を感じ、嫌なことを忘れて思うがままに走った。

だがそれもここで終わりのようだ。気づくと学校に着いていたからだ。

早く来たはずなのだがクラス表が張り出されている掲示板はすでに沢山の生徒で混み合っていた。


「はぁ……はぁ……流石、山小谷学園ってところかな」

この俺の入学する、私立しりつ 山小谷学園やまおだにがくえんは金持ちのボンボンや成績優秀な人達が多く入学する小中高一貫校で、他の学校とは違い、正式入学に“大金を払う”という手段が用いられていたりと、かなり常識外れな学校だ。


ふぅと少し深呼吸。

息を整えて、満開の桜並木の間で軽く助走をつけて、その人の波に潜り込んだ。

ごめん、ごめんと言いながら生徒たちをかき分けてようやく表が見えるところまで来た。

「俺は……1−2か!」

本当はもっとゆっくりクラスメイトの名前を見たかったのだがそうはいかず、どんどんと後ろに押されていった。


そんな時だった。誰かの足に引っかかり、あと少しでこの人間の塊から出れるというところで、後ろ向きにバランスを崩して倒れてしまった。

あと少しで頭が地面に着く。

というところで、バランスを取るために無意識に上げていた右手を自分より細く、白い手が掴んだ。


ブワッと桜の花びらが舞い上がる。

「ふぅ…何とか間に合ったな」

その人は春風に黒い長髪をたなびかせて、笑顔で俺を「よいしょ!」の掛け声と共に引き上げた。

「あ、あの…」

お礼を言おうと俺が声を出すとその人は繋ぎっぱなしだった手を引っ張って

「ここじゃあれだから」と掲示板から少し離れた場所に連れていかれた。


俺はそこで改めてお礼を言いながら頭を下げた。

「あの、助けてくれてありがとうございました。危うく頭から落ちるところでした」

「や、やめてくれよ!たまたま、本当に偶然、ちょー偶然、その場にたまたま居たから手を伸ばしただけなんだ!」

その人は何かを必死に隠そうとしてるのか、たまたまだというのをものすごく主張してきた。


「そ、そうですか、あの初対面であれですが、先輩……ですよね?名前とかって聞いても良いですか?」

そう聞くとその人は少し驚いた顔をしたがそこから数泊置いて答えた。

「先輩なのは間違いないのだが、うーん。まぁ、今は知らなくても大丈夫だよ!一週間後には絶対分かるからさ!」


そういうとクルッと回って背を向けて、先輩は走り出した。

そしてある程度行くとこっちを振り返って手を振って「あ、今日は空に気をつけなよ!琉夏君!」

と叫んで、入り口ではない方の東校舎に走っていった。


かなり不思議な人だった。そして疑問も浮かんだ。

なぜ名札が付いていないのに俺の名前を知っていたのか。

おまけに名前を言わないで俺が先輩の名前を知るまでの時間を明確に指定してくるという、まるでこの先に何が起こるのか分かっているようだった。

「何か縁があるのかもな」

そんな出来事に少し動揺しながらも、俺は入り口である北校舎に向けて歩き始めた。


学校内に入り、教室に行くと教室の入り口の所で生徒会という腕章をつけた女の人が立っていた。

目は鋭く、腕組みしていてその威厳の高さを感じる。

生徒会長だろうか?

こういう時は挨拶をしておくに限る。


「おはようございます」

そういって軽く頭を下げ教室に入ろうとすると、「おい」と呼び止められた。

背筋に電気が走ったような、ムズムズした感覚を覚える。(あれ?俺なんかしたかな?!挨拶ショボいとか?そんな感じ?!)と心の中で悲鳴を上げた。

なんとかポーカーフェイスをして

「なんですか?」

と振り向いたが、内心かなり荒れている。

だが、言われたことはそんなことではなかった。


その人は俺の下半身を指差した。

「お前、急いで家から出てきたのか?チャック、空いてるぞ」

指さされたところに目を向けるとガッツリ社会の窓が開いていた。

「マジか」

思わず言葉が口から漏れる。まさにチーンってね。

チャックをぐいっとあげると苦笑いしながらゆっくりと教室に逃げた。


あぁ、やってしまった。初日からチャック全開登校するとは…。しかも生徒会長と思われる方だぞ?いきなり変な印象を与えてしまった。

そんなことを考えながら自分の席を見つけて座った。

窓際の1番後ろ。典型的か、とツッコミが出そうになってしまった。

チャック全開登校のことを根に持ちながらもクラス全体を見回す。男子が数人ちらほら、女子は廊下で固まっている。


「やっぱり、知り合いはいねぇか」

余計な期待だ。分かってはずっといた。進路希望調査の時に誰もここに志願したと言ってなかったし。

少し落ち込んでいると、急に視界が暗くなった。

「だーれだ!」

後ろから声がした。手の厚み、そしてそれに合わない無駄なイケボ。


「まさか、三吉か?」

そう答えるとパッと視界が明るくなり、そいつが前に回ってきた。

「正解!よっ!琉夏!」

今、後ろから回ってきたこいつの名前は今井いまい三吉みきち

中学校からの仲で、親友だ。

野球部に入っていたのでガタイはそれなりによく、デブだとからかわれていたことがあったが、正体は全部筋肉だ。


「お前、なんでここにいるんだ?!志望は工業高校だろ?!」

嬉しい、とても嬉しいのだがそれ以上にこいつがここにいることに動揺が隠せない。

「なに驚いてんだよ!いいだろ?俺が決めた進路なんだからさ」

「そりゃ、そうだけど……」

三吉にそう言いくるめられると背中をトントンと叩かれて耳元で喋り始めた。


「なぁ、あの二列目の1番前の席に座ってるあいつ、ずっとああしてるんだよ。なんか可愛そうだから一緒に声かけに行かないか?」

その言う席を見ると、確かにずっと静かに前を見て座っている男子がいた。

「そう、だな。行ってみるか」


とは言ってみたものの、正直自分から初対面の人と話すのは得意じゃない。朝から結構ハプニングがあって初対面の人とは話したが、その時も少し緊張していた。

だが、俺とは逆に声をかけるのが得意な三吉は一緒に声をかけようと言ったのにも関わらず、俺を置いていってさっさと声をかけていた。


「なぁ、お前さ!一人か?」

三吉はそいつの肩を叩いてそう声をかける。

そいつは急に声をかけられてビビったのか、少しずつ三吉のところに近づいていた俺からでも分かるぐらいビクッと飛び跳ねた。

「ひゃっ!え、えぇと、は、はい。一人ですっ!」

「あははは!!女みてぇな声だな、というか女だな!細ぇし、小ちぇし!あははは!」

失礼にも程があるな、これは。確かに凄く女子みたいな声だったし、正直、男用のブレザーを着ていなければ女と間違えられてもおかしくないぐらい……美人だ。


「三吉!お前、失礼だろ!」

今尚腹を抱えて笑っている三吉のところに着き、耳をつねった。

だが、痛い痛いと言いながらも笑いは治らない。

なので三吉の耳をつねりながら俺もそいつに話しかける。

「ごめんな、なんか。俺は花咲琉夏、よろしく!」

そう言ってつねってない方の左手を差し出すと、そいつは立ち上がって、首を左右に振りながら両手で手を握った。

「ご、ごめんだなんて、大丈夫だから!中学の時もあだ名が女っぽい女だったし、そう言われるの慣れてるし、僕は村上むらかみ和斗かずと、二人とも声をかけてくれてありがと!」

握られた手の感じは、さっき先輩に握られた手と同じぐらい細く、弱々しかった。

本当に女なんじゃね。

そんな事を脳内で呟いた。


「琉夏、そろそろ離して欲しいんだけどいいかな?」

肩に手を置いて、完全に忘れていた三吉が降参をしてきた。

気づいたようにごめん、と手を離す。

掴んでいた左耳は赤くなっていた。

だが、そんなことは気にせず和斗にすぐ話しかける。

「よーし!これで俺ら3人、友達だな!」

そういって、大きく笑いながらガタイの良いその体で俺と和斗を抱き寄せた。


そんなことをしていると教室にさっきの生徒会長さんかと思われる方が入ってきて、もうすぐ始業式だから廊下に並ぶようにと指示を出した。

体育館に移動して少し経つと始業式が始まった。

はじめの言葉、校長挨拶、理事長挨拶と続き、新入生挨拶で眼鏡を掛けた如何にも頭の良さげな男子生徒が登壇した。原稿を台に置き、マイクに口に近づけて話し出す。


「皆の衆、我が学園へよくぞ来たな!私は理事長の息子でありこの学園に首席で入学した山小谷やまおだに秀弥しゅうやという!私がこの学園に入学したからにはこれから全学年定期テストで最下位だった者は強制退学とする!精々頑張るんだな!」

秀弥が宣言をすると全学年からえ〜という声が飛びかった。

そんなバッシングを浴びながらも清々しい顔で彼はステージを降りていった。

ありゃ絶対原稿読んでないな。


「静粛に!次!生徒会長挨拶!」

司会の教頭は少し強めの声で進行し、騒めく生徒たちを静かにさせた。

さて、生徒会長挨拶は俺はとっても気になるところだ。理由はさっきうちの教室の前にいた人を生徒会長と勝手に呼んでいただけで本当のところ分からないからである。

なのでステージを注目して見ていると、さっき教室の前にいた人ではなく全体的にふわふわした感じの人が登壇した。

髪色は薄ピンクで軽くカールがかかっている。

そして生徒会長っぽくない少しおどおどした動きを見せていた。

その人はマイクの前に立って数秒置くと、マイクに口を近づけて話し出した。


「え、えぇと。い、一年生の皆さん!ご入学おめでとうございます!私は、せ、生徒会長の、星乃ほしの丸美まるみですっ!ひ、人前が苦手なのですが、精一杯頑張るので、どうぞ、よろしくおねがいしましゅ!」

わーお。予想 外しただけじゃなくて気弱そうな生徒会長出てきたー。おまけに噛んだし、最後。

そんなことを考えながらもしっかり生徒会長が降りるところまで見届けると、教頭が式終了の宣言をして無事式が終わった。


教室に戻り、席に着いて前の席の三吉と話していると音を立てて扉が開いた。入ってきたのは先生だ。

教卓の前に来ると、ニコッと笑って自己紹介を始めた。

「みんなこんにちは!俺は今日から君たちの担任になる保科ほしなみつると言います!担当は英語です!じゃあ今からみんなも自己紹介……といきたいところなんだが、さっきの秀弥くんの発言が少し問題になっていてこれから会議があるので今日はもう下校とします!もともと午前授業だからまぁ少し帰るのが早くなっただけだな!ちなみに秀弥くんはうちのクラスなのでからかったりしないように!それでは!」


そういっていそいそと教室を出ていってしまった。

教室を見渡すと男女共に席が一席空いていた。

男子は秀弥のなんだろうが、もう一人、女子の方は風邪でも引いたのだろうか?始業式を休むとはなんとも…。

そんなことを考えているうちにみんなもうバックに荷物を詰め始めていた。

俺も急いで物を詰めながら三吉に話しかけた。


「なぁ、一緒に帰れるか?」

「お?いやぁ、これから親と外で飯食うからもう迎え来てるんだわ。ごめんな?」

手を合わせて申し訳なさそうに眉を寄せた。

「いやいや!予定があるなら仕方ないって!」

ならばと和斗を誘おうと思い、そちらを向くと彼はもういなかった。

三吉によるとさっき話している間に颯爽と帰ってしまったらしい。

なので帰り道一人ルートが確定した。


「あぁ、一人で帰るのは暇だな」

ボソッと呟いて小石を蹴った。

太陽はもう真上におり、歩道と区別のないコンクリートに日差しが落ちていく。

トボトボと歩いているとアゲハチョウが俺の前から飛んでくる。

「綺麗だなぁ、今年初めてみた」

少し立ち止まりそれを目で追う。

真上までいったところで蝶の更に上の方から何か降ってくるのに気づいた。


それはすごい勢いで落ちてきて、俺は顔を青くしてとっさに避けた。

ずしっと重い音を立てて本が地面に叩きつけられた。

大きさはハリーポッターの原作本と同じぐらい、こんなのが頭に落ちてくるところだったと思うとゾッとした。

「見たことない文字、海外の本かな?なんかこういうのワクワクするし、やっぱり運命感じちゃうよね!家持ってって読んでみるか!」

本なんて全く興味ないのだが、なぜか今回は興味が湧いた。本を取り上げ、ここで立ち読みをしようとも思ったが、歩きスマホと歩き読書はやっちゃダメとおばあちゃんに言われたことがあるので本はバックに押し込んで、飯を買いにコンビニに立ち寄った。

おにぎり二個をお買い上げして、家までペースを上げて歩いた。


玄関の前に着き、ドアの鍵を開けようとバックに手を突っ込むがいくら中で手を動かしても鍵が見つからない。

「ふ……そりゃそうか」

今日の朝の行動を思い出し、鍵のかかっていないドアを勢いよく開けた。

そして大きく息を吸い、近所迷惑確定の大きな声で叫んだ。

「ただいま!我が家!」


そう叫ぶや否や二階に駆け上がり、部屋着に着替えコンビニの袋を手に本を小脇に挟んでリビングへ駆け下りた。

ソファの前の床に腰を下ろして、テーブルにおにぎりを並べる。

「さてと、お待ちかねの読書しながらの食事だ!」

家に帰ってきてから相当慌ただしくしたわけだがそれも全部本を早く読むため。


本を開こうとする手は心臓のドキドキを血管を通じて受け取り、少し震えている。

だがそれを好奇心で打ち破り、開いたと同時に表紙がテーブルにあたり、カタンと音を立てるぐらいの勢いで本を開いた。

ここでありえないことは起こった。

ページに目を通す暇もなく、本体が眩く光を放ちながらゆっくりと宙に浮き始めた。

俺は目をまん丸くして驚いた。


「おいおいおい!どういうことだっ?!」

驚いてる間に本はどんどんと宙に浮いていく。

だがある程度いったところでピタッと動きが止まった。

そしてもっと強烈な光帯びて、

フラッシュした。

痛い。その光を浴びた途端、右腕に痛みが走った。

痛い痛い痛い痛い痛い!!

その痛みは段々と通常の痛いとかの次元じゃないぐらいまで強烈になっていく。

今にも腕がもげそうなぐらい痛い。

俺の口からは常に声にならない悲鳴が出続けていく。

あぁぁぁぁぁぁ!

ぁっ…。


プツン、なにかが切れた。

もう右手が痛くない。

死んだのか?

いや、死んだなら何故考えられる。

そういえば声が出ない。目も闇しか映していない。

何も聞こえない。

いや、聞こえる。微かに、何処からか。

耳をすませると少しずつハッキリしてきた。

後もう少し、あと少し。

聞こえた。

「お前は意識を失ったのじゃ」

幼げな女の子の声。

これを聞いた瞬間、全部が真っ暗になった。

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