被験体な僕は異世界では悪役らしい
真田そう@異世界もの執筆中
Prologue
「あああああああああああああああああああああああああああああ‼」
人間のものとは思えない猛獣じみた絶叫を上げるのは、声に反して可愛らしい顔をした少年だった。
少年が悍ましい声を上げる理由、それは人体実験によるものだった。
違法なものではない。少年が承認したうえで契約したものだった。
この実験は危険なもので、命を落とす可能性があり、少なくとも何らかの身体的変化は免れないだろうということだった。
マウスによって実験が行われてなおそれほどの危険がある実験を少年が受けるのには、もちろん理由があった。
五千万円。人体実験によって払われる給料だ。
少年の家はひどく貧乏で、父を亡くしてからは母の非正規社員としての収入のみが頼りだった。
だから少年は、実験を受けることを決めたのだ。
「にしても、まさかこの実験を受けてくれる人間がいるとは」
この実験は会社の中でも保留になっていた案件だった。
成果が出れば相当な利益が出るだろうと想定して実験の対価は多めに設定されていたが、それでも受けてくれる者はいなかった。
というのも、この実験は脳死した人間や何らかの病気を患っている人間じゃできないもので、健康でなければならないのだ。
「ええ、ここまで健気な少年がいるとは驚きでした」
白衣を着る、喜寿は迎えていそうなじじいと話すのは、三、四十歳ほどに見えるきりっとした色男だった。
二人の会話が数回交わされるうちに実験は終わり、少年が実験室から出てきた。
「どうだった? 正直な感想を教えてくれ」
「痛くて辛くて、でも気絶することができなくてまさに地獄でした」
少年は正直な感想を述べる。これも実験の重要なデータとなるのだ。
少年は実験を受けても、一見変わっていないように見えた。しかし、白衣の男が服を脱いで見せてくれと言うと、少年の胸が一部変色しているのが分かった。
「ありがとう、実験成功だ。君の勇敢さには敬意を抱くよ」
「い、いえ、そんな大層なものではないですよ」
少年は謙遜しているが、その覚悟は確実に、敬意を抱くに値するものである。
家族思いにしてもここまでの覚悟をできるものは世界的に見てもそうそういないだろう。
今だって、自分に残った傷を見てショックで泣き崩れてもおかしくないというのに。
「それじゃあ、気を付けて家に帰るんだよ」
「はい、ありがとうございます」
本来ならばこんなにすぐに帰したりはしない。病棟で数日間から数週間様子を見て帰すのが普通だ。
しかし、少年はどうしても今日帰りたいと言っていた。理由を聞こうとしたが、ここまでしっかりした少年なのだ、大丈夫だろうと敢えて踏み込むのはやめておいた。
実際、少年には今日今すぐに家に帰る必要性があった。
だって今日は、少年にとって、そして少年の家族にとって大切な日だから。
「お母さんの誕生日かぁ。今年はプレゼント奮発しちゃったっ」
可愛らしいという言葉が似合いそうな少年は実はもう15歳。
お金を得るためにできることは少ないが、新聞配達をして稼いでいた。それに実験をして得たお金も前払いとして受け取っていて、親の通帳に振り込まれていた。
ちょっとした小金持ちになった気分で鼻歌交じりにスキップし、家路を急いでいると、少年に一人の人物が声を掛けた。
「あの、あなたは何歳ですか? 名前を教えていただけませんか?」
浮かれた少年に声を掛けたのは、執事を連れて街中に似合わないドレスを着て白く長い手袋をつけたお姫様然とした美少女だった。
「えっ、僕ですか⁉ ぼっ、僕は15歳で、
少年は肩を強張らせつつも名乗り、そしてその美少女の姿に赤面した。
15歳になる少年は思春期真っ盛り、見惚れてしまうのは無理もなかった。
しかし、そんな少年の心を知ってか知らずか、お姫様は笑顔で、すぐに次の句を発した。それも、あり得ないような句を。
「——伊吹さん。異世界に行ってみませんか?」
双葉伊吹の新しい人生が、始まろうとしていた。
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