続・娼館に売られたけど、成り上がって見せます!
由友ひろ
第0話 今までのあらすじをふまえまして、その後……
「可愛いディタ。何でそんなにつれないの……」
赤みを帯びた金髪に、紅い瞳、彫刻のように整った顔。二重で切れ長の目をヤンワリと細め、ジレジレと私の指をいじっているのは、ジークフリード・ザイザール、ザイザル国第三王子(王位継承権第一位、皇太子)である。超絶美男子のこの王子は、ちょっと……いやかなり残念エロ王子であり、私の三年越しの恋人でもある。
「私は今はウスラに買われているから」
私のつれない態度に、ジークはショックを隠せないとよろけ、わざとらしく私に抱きつく。さりげなく、お尻辺りをサワサワとしている。
恋人だし、触るくらいなら別にもっと堂々とすればいいのに……って、堂々とすれば絶対に怒るけどね。
「うぅ……ッ、だからディタに好きに触れられないんじゃないか」
私は娼館出身で、娼婦見習いから娼婦になる御披露目の時に、隣国の王ウスラに大金貨四十枚という大金で半年間買われたのだ。娼婦としてではなく、アンネの話し相手・学友としてだ。
という訳で、私の今の雇用主はウスラであり、ウスラの婚約者であるジークの妹のアンネローゼである。
故に、王宮にいる私の側にはいつもアンネがおり、ジークは私と甘い時間を過ごせていないのだ。
「アンネ、ほんのちょっとでいいからディタを貸して」
両手を合わせるジークに、アンネは優越感で鼻をひくつかせながら「ダ~メ! 」とすまし顔。
この兄弟、母親は違うのに二人揃って超絶美形だ。ジークが赤毛に近いブロンドに比べ、アンネは透けるようなプラチナブロンド。二人共紅い瞳なのは王家の特徴らしい。
こんな美貌の兄妹に囲まれた私は、黒髪に茶色の瞳、顔立ちはそもこそこだとは思うが、この世界の人間は美形が多いため、普通といったところか。
しかし、私の一般的な評価は普通ではなく最低な醜女である。黒髪は珍しく、不吉だとか、汚ならしいとかのイメージしかなく、どんなに顔立ちが良くても扱いは最悪なのだ。
そんな私が娼館に売られたのは、貧困に喘ぐ下級庶民にはありがちの生活費の為に親が……といった話しなのだが、親にしたら黒髪の醜女を体よく処分したかったんじゃないだろうか?
当時は身体が弱かったらしい私を一人でいかせられないと、姉のカシスは自分の意思で私と売られた。
らしいというのは、私には十歳前の記憶がない。というか、ディタという少女であった記憶がない。気がついたら人買いの馬車に繋がれていたから。
私が記憶しているのは楠木彩、三十歳(彩としても年をとっているなら今は三十四歳)としての人生だ。この世界とは違う世界に生きていたOLとしての生だ。それなりに上手く世渡りしてきて、彼氏にも不自由したことはなかった。まぁ、はっきり言って初体験のトラウマからSex嫌いは半端なかったけど、彼氏にはごまかしつつそれなりに上手くやっていた。そんな私が、朝起きたら異世界に生きる十歳の少女になっていた。しかも不感症(彩)の私が娼館に売られてしまったのだから……。
あれやこれやあり(「娼館に売られたけど、成り上がって見せます!」参照)、楠木彩の知識をフル稼働して乗り切り、ジークと知り合い恋人となって今に至る。
「ディタのおかげで、王宮が良い香りになったでしょ。兄様も、今までサボっていた座学に精をだした方がよくてよ」
「いくらみながディタの作った石鹸を使ってると言っても、ディタの香りはディタだけなんだよ」
ジークは、そう言って私の髪の毛に顔を埋めて鼻をスンスン鳴らす。
この変態チックな行為にもなれた。ジークは誰よりも鼻がよく、匂いに敏感なのだ。身体を洗うという習慣があまりない(体臭はお香でカバーしてるが、それもまた独特に臭い! )この世界で、よく生き残ってきたなと思わざるを得ない。
「帰りに少し寄るから」
ステイ! とばかりにジークをひっぺがす。
皇太子に不遜な態度で打ち首……にはならない。普通はなるかもだけど、ジークの甘々はところ構わずだし、あまりにTPOをわきまえない時は、遠慮なく牙をむく私に回りもなれているからだ。
「少し……? 」
不満そうなジークを無視して、私とアンネは休憩を切り上げる。
王妃としての心得から始まり、国の行事での王妃の振る舞い、王妃の仕事……等々、来年隣国に嫁ぐアンネは、王妃教育で一日あけくれていた。
一人で学ぶのは嫌だというアンネに付き合い、私も同じように机を並べて話しを聞き、休憩時間には二人で気分転換に他愛ない話しをし、一日のほとんどをアンネと過ごしていた。
今もこれから新しい授業が始まる。
教室になっている広間に入ると、すでに教師が待っていた。
「ミモザ、イライザ?! 」
女性二人がにこやかに立っていた。ミモザは私を買った娼館の女主人で、イライザは娼館トップの娼婦だ。
「これから二時間、お時間をいただきましたミモザの館の主人ミモザでございます。こっちはうちのトップのイライザ」
イライザは優雅に淑女の礼をとる。なんていうか、アンネは清廉な天使のような美しさだが、イライザは即物的な官能的な美貌だった。王女と娼婦を比べる自体おかしな話しだが、並ぶと対極にある美貌だ。
「今日は、夜伽の仕方について、僭越ながら私ミモザが教鞭をふるわせていただきます。一人では説明しにくい点もございますので、イライザにも手伝わせる為に連れてまいりました」
丁寧に話しているけど、つまりは性教育……かなり実践的な物を行うのだろう。
今までの座学と違い、アンネは食いぎみに身を乗り出して聞いている。
興味があるのはわかるけど、深窓の美貌の令嬢が、ヤる気満々前のめりで性教育を受けるのはいかがなものかと……。口元を押さえ、真っ赤になってうつむく……くらいの可愛らしいリアクションをしてもらいたい。
まず、男性女性の身体の違いから始まる。図解付きだ。しかも、局部のアップもあったり(使用前使用後的な)で、画力豊か過ぎるその絵に苦笑してしまう。
こんなものを真面目くさった顔で、王女に見せるこの世界の性教育って……。
「まぁ、ウスラ様もこうなるんですか?! 」
「大抵の男性は」
さらに、どこをどうすれば男性が喜ぶか、イライザがハリボテを使って実践する。
なかなかエロい。というか、私もここまでしたことない(楠木彩時代)。
「あの……こういうのは、自然となんとなく覚えていくもんじゃ?」
娼婦見習い時代だって、この手の座学はなかった。初めてはあくまでも何も知らない方が喜ばれるから……という理由だと聞いたが、それは王女だって一緒じゃなかろうか? 初めての
それとも、それが喜ばれるのか?
「もちろん、最初からする必要はございません。最初は旦那様となるウスラ王に任せておけばよろしいかと」
「なら何で? 」
好奇心豊かなアンネのことだ。知ってしまったら、面白半分実践しそうで恐い。
「以前に、何も知らずに嫁がれて、拷問と勘違いされた姫君がおられたとか……。毎日恥辱を味わされていると涙ながらに訴えたそうにございます。それを信じた父王が宣戦布告をして、あわや大戦になりかけたとか」
「そ……それは恐いかも」
「ですから、王女様には男性との交わりの仕方から、どんな行為があるか事細かにお教えするようにと言われております」
それから、女性の身体はどこをどう攻められれば感じるかなど、エロ本のような講義が続いた。
これって、王女だけでなく王子も受けているんだろうか? 婚前にはマストな座学なんだろうか?
二時間みっちりSexについての実践的講義が終わり、私とアンネは顔を赤くしてしばらく座ったままだった。
「ディタも兄様とあんなことしてるの? 」
「してません! するつもりもありません! 」
「あら、何故? 結婚したら、みなするものでしょう? 私も詳しくは知らなかったけれど、侍女達のお喋りを盗み聞きしていると、結婚してなくても、みなしているみたいだったわ」
「私は無理です。あんな痛い思い、金輪際ごめんです」
「痛い……? そう言えば、初めは少し痛いって言っていたわね」
「少しなんてもんじゃないから!口角をおもいきり引っ張って、裂けるくらいの痛みですよ」
私は自分の口に人差し指を入れ、左右におもいきり引っ張る。
「……それは痛そうね。というか、ディタは経験したことがあるような口ぶりね」
「いや……、ほら、そういう話しはよく聞くから」
「ああ、そうね。好きな人とじゃないと、耐えられないに違いないわ」
「いくら好きでも無理! 」
私は自分(楠木彩)の初体験を思い出して身震いした。
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