【イベント参加作品】疾走! 背脂パンダ

【イベント参加作品】疾走! 背脂パンダ より

【タイトル】ラーメンパンダ


 パンダは走っていた。白と黒の毛並みが風に流れてゆく。

 息が上がる。目の前がゆがむ。しかし止まれない。なぜなら背後から、どんぶりと肉の塊を持った幼女が、猛烈な勢いで追いかけてくるではないか。


 幼女は目をキラキラとさせてパンダを追いかける。追いかけられたら逃げたくなるのがパンダ……いや、生物の本能である。ゆえにパンダは止まれない。

 しかし、逃げるものを追いたくなるのもまた生物の本能なのだ。幼女は満面の笑顔でパンダを追いかける。


 幼女は、森を歩いている時に、クマさんならぬパンダさんに出会ってしまった。パンダは幼女の姿に驚いてビクッと身をのけぞらせた。そして幼女は、一瞬おびえた目を見せたパンダの動揺を見過ごす事は無く、そのパンダに触れようと接近を試みた。


 そうして、パンダは逃げた。

 全力で逃げた。

 人間に捕まりたくないのが野生動物の性なのだ。


 背脂を背負ったパンダは、もう何キロの道を走ってきたのか。深い森。逃げる道はまだある。が、パンダにはもう残された体力が無い。


 この鬼ごっこ、いつまで続くのだろう。


 一方幼女は、幼いが故の底知れない体力を誇り、好奇心という莫大なエネルギーを得たことで、疲労すら感じずにパンダを追い続けていた。


 いつしかパンダは、森の中に出来た広い広場のような場所に出た。そこには小さな小屋のようなものが一軒建っている。パンダは天性の危機管理能力で、そこが「人間の住処だ」と判断した。人間は危険だ。いつパンダを捕獲しようとするか分からない。


(まだだ、まだ逃げなければ。後ろからは幼女。前には新たな人間。ここで捕まるわけにはいかないのだ。逃げろ。逃げろ自分。大事な子パンダ二匹のために、生きて巣穴に帰るのだ)


 パンダは己を鼓舞した。鼓舞したが、背脂にまみれたパンダにはもう力が残されていなかった。


(おのれ……ここまで……か……)


 パンダは力尽きた。人間の小屋の前で、パンダはバタッと地面に突っ伏した。


 すると、直後に幼女がパンダに追いつき、そして……。


「パンダさぁぁぁん♡♡♡ やっとつかまえたぁぁぁ!!! ラーメンたべて♡♡♡ おにくたべて♡♡♡ おれいにモフモフさせて♡♡♡」


 幼女はそう叫びながらパンダの体を無理矢理起こし、パンダの口に肉を突っ込んできた。


「ぷぎゃひっ!!??」


 パンダは声にならない叫び声をあげた。パンダは、普段は笹ばかりを食べていた。このパンダは背脂を背負っているほど太ってはいるが、それは笹の食べ過ぎと運動不足という怠惰な生活の賜物であって、暴飲暴食をしていたからではない。


 パンダはむしろ肉を食うという行為を共食いのように感じていたので、肉を食べた事は無かった。それがこの瞬間、強制的に肉が口の中に突っ込まれたのだ。


「ぷぎゃ……ぷぴぴ……ぷぎゃひ……!?」


 パンダの様子がおかしい。


(これが肉……ジューシーな汁が口いっぱい広がって、何だろう……この幸福しあわせな気持ちは……)


 ぷぎゃぷぎゃ言っていたパンダが大人しくなったのを見て、幼女は嬉しそうな顔をした。


「パンダさん♡ おにくおいしいでしょ♡ これ、わたしのママがつくったチャーシューっていうおりょうりだよ。じゃぁ、つぎはラーメンね!」


 そう言うと幼女はまたしてもパンダの口に強引にラーメンを突っ込んできた。


「ぷぎゃはひっ!?」


 再度声にならない叫び声をあげるパンダ。しかし、この時パンダには革命が起きていた。


(なんだこの食べ物は。豊潤でいて深みのある味わい。笹とは違うのどごしの良さ。そして、何より、うまい……)


 またも沈黙するパンダ。傍から見ればそれは恍惚とした表情で口をもぐもぐさせているパンダ。幼女は歓喜の声をあげた。


「パンダさんって、とってもおいしそうにラーメンたべるのね♡ これ、わたしのパパがつくったラーメンなの♡ じゃぁ、おれいにモフモフさせてね!」


 そう言うと、幼女はパンダの全身を激しくモフモフし始め、クンクンと匂いを嗅ぎだした。


「パンダさん、とってもいいにおい♡ あまいようなすっぱいようなおはなみたいなにおい♡ モフモフもとってもきもちがいいし、わたしずっとこうしていたい……」


 しばらくモフモフしていた幼女だったが、次第にパンダの脇の下で寝息を立てだした。


(どうしよう、幼女が寝始めたぞ。逃げるなら今だが、なんつーの? かわいいなこの子。無理矢理食わされた料理もうまかったし、この子をないがしろにはできない。しかしそろそろ日が暮れる。子パンダ二匹が待つ巣穴に帰らなければならないのだが……)


 困惑するパンダは、そこで小一時間はじっとしていただろうか。すると、目の前の小屋から人間の女が出てきて大きな声を出し始めた。


「ムーン!! どこに居るの? まだ出前から帰ってきてないのかい?」


 すると女はこちらに気が付いたようで……。


「おや、ムーン。パンダさんと一緒じゃないか。何してるんだいそんな所で」


 幼女は女の声に気が付き、目をこすりながらむくっと起き出した。


「あ、ママ♡ ムーンね、でまえにいこうとしたらパンダさんをみつけたから、パンダさんにおにくとラーメンをあげて、おれいにモフモフさせてもらってたの♡」

「え!? ムーンお前、出前の途中だったのかい!? っていうかパンダにあげちゃった!? 仕方のない子だね。お客さんには詫びの電話入れとくから、とりあえず中に入って晩ご飯を食べな!」


 そう言うと女は小屋の中に戻っていった。再び残されたパンダと幼女。幼女はすくっと立ち上がりパンダを見下ろした。


「パンダさん♡ とってもきもちよかった、ありがとう♡ パンダさんさえよかったら、いつでもうちのラーメンやさんにごはんをたべにきてね♡ パンダさんだったらいつでもかんげい♡ パンダさんはおかねをもっていないだろうから、おれいはモフモフでいいからね♡ じゃぁね、パンダさん! またね♡」


 そう言い残し、幼女は小屋へ入っていった。


 残されたパンダ。パンダはまだ半分放心状態であった。


(あれが人間の食べ物か。なんという美味しさなんだ。自分もパンダ界にラーメンとチャーシュー旋風を巻き起こしたい)


 パンダはこの時心に決めていたのだ。自分はパンダ界のグルメ王になると。パンダ界にラーメンとチャーシューを普及させ、よりパンダの世界を豊かなものにするのだ、と熱い想いを煮えたぎらせていた。


 そしてパンダはその場を後にし、子パンダ二匹が待つ巣穴に無事に帰っていった。



 その後のパンダの話をしよう。



 パンダは幼女の両親に弟子入りし、料理のいろはを覚え、パンダ界に人間考案のグルメを普及させ、パンダ界のグルメ王として君臨する事になった。


 そうして、このパンダは人間界でもパンダ界の革命児として注目を浴び、世界で一番有名なパンダとなった。


 そう、『ラーメンパンダ』として……。



────完



***

 はい! おはようございます、無雲です(笑)。

 朝から妙なものを読ませてすいませんでした(笑)。


 仁志水ぎわ様主催のイベント『疾走! 背脂パンダ』に参加した作品でございました。


 無雲がカクヨムで創作物を発表するのは初めてなんであります。創作作品自体は、幼少期から書いていたのですけどね。自サイトをやっていた時も発表していたのですが、カクヨムで発表するのは初めてです。


 このお話、最初は『風船持った女の子に追い回されたパンダが、次第に愛を知る話』だったのですが、「なんつーの、ふつーすぎてつまんねーな」となりまして、このようなラーメンとチャーシューでパンダがグルメ王になるお話になりました。


 フィクションなんで、突き抜けてありえない発想でいいと思うんです。ふつーに起こる事を文章で読まされたって、「ん? 日記?」ってなりますし、創作物は『ありえない発想』から来ていていいと思います。私は突き抜けてありえない発想の作品が好きなので。


 このイベントに参加されている作品は、これから読みに回らせて頂きます♡


 ただ、今(令和三年十月三日午前九時二十分)からおいたんと近所の道の駅に行く予定が入っていますので、帰宅してからになります~。ちょい出かけてくるわ!

 

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