112.無雲、人命救助をしました!

 あれは、今週の火曜日の仕事帰りの事でした。無雲、人命救助をしたのです。


 いつも通りバスの時間を気にして定時で凄い勢いで職場を出て、帰りのバスが停まる駅まで来ました。「今日は一服できる時間に着いたぞ!」と、嬉々として喫煙所に向かっていた時でした。(ただしバスの時間までは十分間くらいしかない。この駅からのバスは一時間半に一本間隔でしか来ないので急がなければならない)


 急いで喫煙所に向かっていた無雲ですが、その目前に謎の物体(そんなでかくない)が見えるではないですか。ど近眼の無雲は、その「謎の物体」に目を凝らしながらじわりじわりとにじり寄ります。「靴?」「ん? 人間か? いや、子供? ん?」とさらにじわりじわりとにじり寄りました。そしたら、そこには大人の人間が倒れて微動だにしないではないですか!


「「大丈夫ですか!?」」


 ちょっと前を歩いていた女性と同時に無雲がその人に声を掛けます。


「……」

 

 倒れている人からは返答がありません。よく顔を覗き込んでみると、六十代前後の女性が口から血を流して倒れているではないですか。そしてさらに声掛けをしました。そしたら「ん~……」くらい反応がありました。


「救急車呼びますか!!」


 無雲はアワアワとスマホを取り出します。するともう一人の女性はこう言いました。


「まずは交番が良いんじゃないですか?」


 交番!? なんかよく分かんないけどこういう時は交番なの!? というわけで、無雲は駅前交番にダッシュする事に。走りました。デブな無雲は重たい体を揺らして全力疾走しました。


 そして交番に着くと、そこには非情にも「ただいま留守にしてますので、御用の方は下記電話番号までご連絡下さい」みたいな看板が。


「居ねぇのかよ!!」(でかい声で独り言)


 無雲はまたまたアワアワとスマホを取り出しその電話番号に電話を掛けました。そしたら警察さんすぐ応答。色々と問答していると「現場に戻って、救急車を呼んで、さらに今の状態を聞かせて! 通話は切らないで!!」「はいぃぃ!!」


 そして無雲はまた猛ダッシュします。一月末の寒い時期ですがデブ無雲はすでに汗だくです。


 そして現場に戻ると、見守りの女性に何かのパトロール中のおじさんが二人加わっていました。


「救急車呼んで下さいって警察が言ってます!!」


 倒れていた女性は、何だかモゴモゴ言っているが、呂律が悪くて聞き取れない。ただ、なんか臭う。(これ重要)


 なんか変な臭いしましたが、マスク越しだし無雲は年がら年中鼻炎の人間であまり鼻が良くないので、その「なんか臭う」をスルーします。


 そして、誰も救急車を呼んでくれなかったのですが、警察が救急車を手配してすぐ来るし、警察もじき到着すると言われました。私達見守り隊はその場で待機するように言われました。


 この辺りで分かったことは、口から血を流していたのは吐血では無さそうということ。どうやら、転んだ時に顔をぶつけて切ったっぽかったです。そこで見守っていたもう一人の女性が気になる事を倒れている女性に言いました。


「嫌なことでもあったのかな~?」


 ん? 嫌なことがあると道で倒れるの? よく分かんないけど、これもスルー。


 そうこうしている内に救急車と警察が到着しました。


 そして、警察さんが倒れている女性に声を掛けます。すると、とんでもない発言がっ!!!


「見た顔だねぇ! まーたお酒飲んでるの?」


 え……。


 お酒?


 お酒って何? まさかこの人……お酒飲んで転んで倒れてた状態!?


 無雲、頭が混乱します。だってこの女性もろ倒れてて微動だにしなかったし!! って、え!? あの「なんか臭う」は酒の臭いだったのかぁ!!!!!!


「あ、すいません皆さん。もう帰って大丈夫ですよ~。」


 警察さんは微妙な面持ちで見守り隊に帰宅を促しました。倒れていた女性は、怪我をしているから救急車で病院に運ぶとの事でした。


 無雲、脱力です。先ほどの見守り女性の「嫌なことでもあったのかな?」は飲酒で倒れている事に気付いていたからこその言葉だったのでしょう。そして、無雲はというと安堵と同時に妙な怒りを覚え、「うぎゃぁぁぁ!!」とその場から叫んで走って逃げたい気持ちになりました。なので、ほんとに「じゃぁ帰ります!!」と高らかに宣言して走ってバス停に行きました。


 はい。賢明な皆様ならお気付きでしょう。一時間半に一本しかないバス、しかもバスの時間まで十分間しかなかったのです。バスは見事に発車したあとでした。


「あぁぁぁぁ!!!」


 無雲、呆然。しかし隣駅からのバスは二十分後に発車予定。というわけで、隣駅まで行って、興奮状態の自分を落ち着けるために大急ぎて喫煙所(各駅近くの喫煙所は把握してるんだw)に向かいスパスパしてバスに乗って、帰宅しました。


 うう。人助けは人助けだけど、酔っ払いって何だったんだ。


 思いっきり倒れてたんであるし、口から血を流して倒れてたらびっくりするじゃないか。


 でもよく見たらそのおばさんのバッグの中には飲みかけと見られるス〇ロングチューハイ入ってたよ。(笑)


 というわけで、これが私の「人命救助」の一部始終です。(笑)


 「酔っ払いオチ」という、何とも言えないビミョーな話でありましたが、人が倒れてたら放ってはおけないですよね。途中で完全に「酔っ払いだこの人」と気付いたとしても、そこで去るという選択も出来ないです。とにかくあの状態では警察なり救急隊になり保護してもらわなければなりません。


 私もお酒は大好きですが、行き倒れになるほど飲みたくはないなぁ。と心の底から思いました。


 他人のために警察を呼んだのはこれで二度目、となります。今回は相手が生きていましたので、安堵と清々しい軽い怒りで終わりました。初回の時は相手が死体でしたので、それはもう後々までメンタルに傷を残す大事件として私の中に記憶が残っております。


 もうすでに二千四百字になりましたので、今日はこの辺りで失礼しようかと思います。長い話になりましたがお付き合いありがとうございました!!


 


 

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