ようこそ、私たちの楽園へ

名月 遙

星空模様

第1話

 あの日のことは忘れない。


 夕食のあと、父と母に連れられ街外れにある森の中を歩いた。そこは子どもだけでは行ってはだめと言われていた場所で、私はいけないことをしている不安と高揚感が混ざった変な気持ちになっていた。


 真っ暗な森は想像以上に別世界だった。どこまでも続く暗闇の中に足を踏み入れ続けているようで怖い。

 もし一人だったら、きっと逃げ出すことも出来ずにその場でうずくまってしまったと思う。それでも私が先を進む勇気を持てたのは、握られた母の手の温かさとすぐ前を歩く父の背中があったからだ。

 

 一人じゃない。そう思えたから。


 緩やかな坂道を十分ほど登っていると、先導する父の身体を通り越して木々の出口が見えた。森を抜けた先にあったのは何もない開けた野原だ。山の中腹に出来たそこは自然の力で出来たとは思えず、かつて何かがあった場所なのは明らかだった。

 このような前時代の痕が残るところはたくさんある。男の子は放課後にそんな場所を探険、散策するのが宿命というように毎日行っていた。そこで珍しいものを見つけた人がヒーローになれるらしい。正直、私には理解できなかった。

 

 ここからは私の村が見渡せた。

 点々と、家の温かい灯りが見える。確かに、幸せな気持ちになる景色だったけれど、そこまで意外性はなかった。


「そっちじゃないわ」


 その声と共に母が手を少し上に引っ張る。つられるように私は空を見上げた。


 思わず、息を呑んだ。


 

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