第45話

 フォートサス王国の王都『フォーサス』には、予定より2日早く到着した。

 実はあることを試したら馬が元気になって、常に一定速度で走れるようになったのが大きい。


 なにを試したか──


「ねぇ空。宿に行ったら酸素の濃度を上げてよ」

「酸素が濃くなると疲れが取れるって、不思議ですねぇ」

「そ、その前にリシェル……お、お尻の治癒を頼む」

「はいはい。ふふ」


 なんですか、その含み笑いは!?


 俺が試したのは、要は酸素カプセルみたいなものだ。

 カプセルに入る必要はなく、俺が指定した空間の酸素の濃度を少し高くするだけだ。

 最大30%まで上げられるが、最大値にするのは怖い。

 平地であれば25%あるというので、そこを28%まで上げて様子を見た。


 もちろんいきなり本番なわけではない。

 野生動物で確認し、特に苦しんだりしていないのを見てからだ。

 大丈夫だと判断してから、食事休憩の時や馬に水を飲ます時に空気操作を使用。

 それからというもの、馬がめちゃくちゃ元気なのだ。

 それで俺たちもと、範囲内で食事をとるようにした。


 それで元気になったというか、朝起きてからの疲れが残らなくなったと言うべきかな。


「いやぁ、あんちゃんのおかげで、こいつらも元気にここまでこれただよ」

「帰りも頼みます」

「はい。それで、荷物を下ろしたらすぐに立つのですか?」

「いやいや。馬を暫く休めるので、戻るのは明後日になります。空さんたちはここは初めてでしょう。ゆっくり観光すればいいだ」


 宿は彼らと同じところに泊まることになる。その宿には納屋があって、馬と、そして毛玉を泊めて貰えるからだ。

 村人のうちひとりが宿へと案内をしてくれる。残り二人が市場へ行って、くっさいドリンを売る──という。


「い、今から売るんですか?」

「てっきり商人に買い取って貰うのかと思っていたわ」

「私もそう思っていました。これから販売って……明後日までに売れるのですか?」

「いやぁ、明日の昼まで残っているかも分かりませんよ」


 え……そんなに売れるのか?

 気になった俺たちは、宿に向かった後に市場を見学したいと頼んで連れて行って貰った。


 王都だけあってさすがにデカい。冒険者登録をしたオヌズの町の何倍もある。

 都自体が大きすぎてさすがに壁で囲われているなんてことはなく、だが町の中央を見ると高い壁が見えていた。

 依頼主の村の人の話だと、壁の内側が上流階級の人間が住む地域らしい。

 貴族や一部の商人、それに城勤めの重臣が『上流階級』に当てはまり、それとは別に騎士階級の者も住んでいるという話だ。


「市場はあの下です」

「壁の?」

「えぇ。ドリンを購入する客層が、あの壁の向こう側にいる上流階級の方々なので」


 客層によって市場も別々なのか。


「あの壁の下まで、結構距離があるわね……」

「大きな町ですもの。私、目が回りそう」


 リシェルもシェリルも興味津々な様子で宿を出たが、人ごみに酔って既にお疲れモードだ。

 俺は──まぁ日本に住んでいたら、歩くだけで肩がぶつかるなんてのは日常茶飯事だからなぁ。

 通勤通学時の電車やバスなんて、こんなもんじゃない。


 とはいえ、森で育った二人には、この人ごみはきついんだろうな。

 宿に帰ったら酸素リラックスルームを作ってやろう。


 外敵が一直線に城へと行けないためなんだろうけど、右に左にと曲がりに曲がった道はなかなか市場へと到着できず。

 立ち並ぶ露店や店に目移りしながら、そうして30分以上歩いてようやく市場へと到着した。


「や、やっと着いたのね──うっ」

「こ、これは……くしゃいです」

『きゅううううううぅぅぅぅぅっ!』


 リシェルたちの言葉を聞いて、毛玉が突然大興奮して俺の肩から飛び降りた。

 そしてダッシュした。


「そ、空っ。空気清浄の範囲広げてぇっ」


 慌てたように二人が俺の下へ駆け寄り、物凄い勢いで深呼吸をする。

 二人の様子と、そして毛玉の反応……これは。


「ははは。ドリンの臭いがここまで漂ってきているんだよ。どれ……わたしも入れさせてもらおう」


 村の人がしれーっとした顔で、臭いから避難してきた。

 なるほど……臭いのか。

 毛玉によっては甘美な匂いなのだろう。


 空気清浄による、消えてしまってはダメな奴まで消してはヤバいので、俺の周辺だけを清浄化させるようスキルを調節してあう。

 仕方ない。俺を中心に2メートルぐらいにしておくか。


 依頼主たちは屋台ではなく、荷車から直接ドリンを販売しているようだ。

 その荷車に毛玉が噛り付いているのが見える。

 勝手にドリンを貪らないだけ、偉い奴だ。めちゃくちゃ涎垂れてるけどな。


「え? き、木箱、もうほとんど空じゃない?」

「本当だわ。あんなに臭い果物がどうして……」

「そりゃあ、美味いからに決まってるべ。村さ帰ったら、熟してる奴があるだろうから、食わせてやんだ」

「「ど、どうも……」」


 リシェルとシェリルの顔が青ざめる。

 あのドリンが、ドリアンと同じものだったら……確かに美味しいんだろうけど。

 興味がない──わけではないけども、あの臭いはなぁ。


 そうこうしている間にも、ドリンは次々に売れていく。

 買っていくのはピシっとした服を着た執事然とした人が多く、一緒にコックのような服の人も同行しているパターンが多い。

 なるほど。貴族御用達の果物ってことなのか。


 いったいいくらで売っているんだ?


 そう思ってみてみると、1個500から650ルブ……。

 マジか。

 俺たちがモンスター倒したり、薬草集めたりしてやっと稼ぐ金額が、あれ4、5個分なんだぜ……。


「い、忙しそうだし、お手伝いしますか?」

「そうね。空、近くにいてね。じゃないと臭いから」

「んぁ、分かった」


 荷車の傍にいって、販売を手伝うと申し出ると──


「ん? ドリンの臭いが消えた?」

「な、なんだ? 新種のドリンか?」


 とお客が大騒ぎ。

 いかんいかん。範囲を狭くしなきゃ。

 でも二人が臭がるし。


 じゃあもう、彼女らとぴったりくっついて、ギリギリの範囲にするしかねーな。






「いやぁ。三人が手伝ってくれたおかげで、いつもより早く完売したよ」

「俺たちも面白い体験ができました」

「えぇ。お店屋さん、楽しかったです」


 町に到着したのは昼過ぎ。ドリンが完売したのは夕方だった。

 ドリンが売れたことで俺たちも報酬を受け取る。

 一人1000ルブ。これは前金であって、帰りの護衛もしっかりやれば、追加で1500ルブ支払うってことだ。


 ちなみに毛玉はドリンの入っていた木箱を貰った。

 宿の隣にある納屋で、その箱の中に入って幸せなひと時を送っていることだろう。

 なお、馬は迷惑そうな顔をしていた。


「帰りはドリンがないんで、モンスターを呼び寄せることもないだで」

「荷物もないけんなぁ、馬車も少し飛ばせるから帰りは早いやね」


 ということで、出発は明後日の昼頃。

 明日は1日、王都の観光だ。


 宿に戻って、まずは風呂へ。

 ゆっくり浸かって、部屋に戻ってからひとり酸素リラックスタイムだ。


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