第36話

「いやあぁぁぁっ。わたしのベッド、誰か使ってたあぁぁっ」


 そんな悲鳴が聞こえてシェリルたちの部屋へと飛び込むと──


「空あぁぁ、見てよこれぇ」

「クローゼットのお洋服が……」

「荒らされてるなぁ……」


 綺麗好きのリシェルが朝には必ずシーツをピシィーっと揃える。

 もちろん町へ出発した日も、彼女が片付けたあとだ。

 それなのに、ベッドのシーツはぐっちゃぐちゃ。その上二人のクローゼットは開けられ、服もその辺に散乱している。


「は!? ま、まさか下着っ」

「え? えぇぇ!?」


 二人は慌ててクローゼットの下の引き出しを開け、下着の枚数を数え始めた。


「俺も部屋を見てくるよ」

「いやあぁぁぁ、二枚足りないわっ」

「あぁぁぁ、私も足りませんっ」


 し、下着泥棒までしてやがるのか!?

 さすがに俺の下着は盗んだりしないだろう。男物だし。


 そう思ったら──


「俺のパンツ、一枚も残ってねええぇぇぇっ!?」


 犯人は変態か!?






「もうっ、ほっんとに……絶対に許しませんっ」


 リシェルがご立腹だ。

 俺もシェリルももちろん怒っている。だけどリシェルはそれ以上だろう。

 なんせ部屋の中にはあちこち泥のついた足跡がいっぱいだし、食器は片付けられてなくって食べたものがこびりついた状態。

 ってことで当然のように竈も汚されていた。


 誰が寝たのか分からないベッドのシーツや毛布は洗濯。衣類も全部だ。

 洗濯自体は簡単で、水の精霊に頼めば一度に洗うこともできる。

 それを乾かすために、俺はさっきからずっと空気操作で洗濯物を干している場所の温度を上げ続けていた。


「わたしたちの下着は洗濯すればいいとして、空の物は全部持っていかれちゃったし……」

「まぁ町へ行くための着替えを持って行っていたのが、不幸中の幸いなのかなぁ。はぁ……なんで男の下着なんて持っていくんだ」

「そ、そういう趣味の男も、い、いるかもしれない、わよ」

「や、止めてくれよ気色悪いっ」


 リシェルが掃除に風の精霊を使っているため、風を送るのはシェリルと俺の手動。

 薄い木の板であおいで、シーツや衣類は20分ほどで乾いた。毛布はまだまだかかりそうだ。


「う、腕が痛いわ。少し休みましょう」

「そうだな。空気操作だけは続けておくよ。温度を高くしていれば、勝手に乾くだろうし」


 何もしないよりはあおいだ方が早く乾く。それだけだ。

 今のでずいぶん空気操作も使ったし、そろそろレベル10にならないかな。

 空気清浄に比べると、こっちは使用頻度が少ない分上がりにくく感じる。

 まぁ空気清浄が切れるのは、俺の死活問題にかかわるからな。効果時間24時間だと言っても、気づいたら使っているから1日で10回ぐらい唱えてるか?


 リシェルの隣に座り、空気操作で洗濯物ゾーンを温かくしてステータスを開く。



************************************


 由樹 空 17歳 男

 職業:空気師 LV25

 属性:空気

 筋力:134 体力:129 敏捷:119

 器用:126 魔力:103 幸運:260


●スキル●

 空気清浄99★ / 空気操作10

 空気の成分分析 / 


************************************



「お、空気操作が10になった。これで範囲が10メートル四方だな」

「範囲が広くなるだけなのかしら?」

「んー、詳細は──」



************************************

【空気操作】レベル10

 空気中に漂うあらゆる成分やその量、温度等を自在に操れる。

(レベルにより制限あり)

 効果範囲:10m×10m×10m

   射程:目視でしっかり狙える範囲

 効果時間:90秒

*制限の一部が解除される。

 最大温度150度→200度

 最低温度-60度→-100度

 二酸化炭素50000ppm→80000ppm

 酸素濃度25%~16%→30%~10%

************************************



 効果時間が伸びた!

 ただし30秒だけ。

 制限の一部解除とあるが、レベル9の時にはこんなの無かったな。

 空気清浄も効果時間はレベル毎にあがったが、範囲は一定レベルで上がっていた。操作のほうは逆なのか。


 空気の温度上下は分かるけど、二酸化炭素濃度とか酸素濃度とかさっぱり分からないな。

 浮かんだホログラムウィンドウをなぞる様に指を這わせると、触れた文章のさらに詳細な説明が出てきた。


 二酸化炭素濃度──

 18000ppm:換気が必要なレベル

 30000ppm:呼吸困難に陥り、頭痛、吐き気、視覚減退、血圧や脈拍の上昇を引き起こす。

 40000ppm:換気性能を上げる必要があるレベル。頭痛が激しくなる。

 50000ppm:数呼吸で毒性の兆候が現れる。発汗が見られるように。※

 80000ppm:数呼吸で眩暈の効果が現れ、昏睡状態に陥ることも。※

*なお、必ずしも上記症状であるとは限らない。個体の体調や体格によって効果は上下する。

※呼吸数が多いと、死にいたらしめることもある。



 あぁ、ついにヤバい領域まできたな。効果時間90秒だけど、これ二酸化炭素で敵を殺せるんじゃ……。

 まぁ二酸化炭素濃度が増えるとヤバいのは分かる。

 酸素濃度が増えるとどうなるんだっけ?


 そういえば高濃度酸素カプセルとか、健康器具にあったような。


「"空気の成分分析"」


 空気中に表示される酸素。

 文字が小さいが、よく見ると酸素濃度は25%とある。

 二酸化炭素は320ppm。おおぅ、意外と低いんだな。


 次にさっきと同じように、今度は酸素濃度うんぬんの項目をなぞる。

 出てきたのはさっきのように、濃度別の人の状態みたいなのが書かれていたものだ。


 酸素濃度って、数%下がるだけでもヤベーです。


 酸素濃度16%:呼吸脈拍増加、頭痛、吐き気の他、集中力の低下など。

 酸素濃度10%:嘔吐、意識不明、チアノーゼ症状が現れる。


 高山病とかと同じなんだろうけど……そのうちひと呼吸で即死レベルとかになるのだろうか……。

 使い方を間違うと、大変なことになるな。



*****************************************************************************


アッー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る