第33話

「"光の精霊! 明るく照らしてっ"」


 リシェルの声が森に木霊する。

 その声に応えるかのように、小さな光の玉がいくつも飛んで行った。

 そしてパチパチと点滅していた辺りをいっきに照らす。


『ゲギャッ』

『グゲーッ』


 うん?

 見覚えのあるベビーゴブリンだが、大きいか?


「ゴブリンだわっ」


 シェリルの声を聞いて、なるほどと頷く。

 こっちが本家本元のゴブリンだってことか。

 身長は俺の頭二つ分ほど低い程度で、胴に対して手足が細い。装備は腰ミノか。


「だけどあのゴブリン……ずいぶん大きいですね」

「俺には十分小さく見えるけどな。それより毛玉を助けよう」


 剣を抜きつつ「"空気操作"」と唱え、左手で範囲を決める。


 ゴブリンは5匹。それが地面の毛玉を襲おうとして円陣を組むように立っていた。

 好都合だな。

 

 毛玉を巻き込まないよう、操作範囲の高さ調節をして──二酸化炭素濃度を、今できる最大濃度に!


『ゲギャッ──ガッ』

『ンガガッ』

『フギーッ!?』


 おぅおぅ、パニックになってやがる。

 パニックになればなるほど、人は呼吸する速度が上がる。まぁあいつら人じゃないけど、呼吸して生きてるし同じだろう。

 あとやっぱりオツムが足りてないようだ。


 その場でじたばたするばかりで、逃げようとかそういう思考はないのか。

 少し移動すれば酸素あるんだけどなぁ。


 スキルの効果時間60秒を待って、それが切れる頃には4匹が地面に倒れていた。

 毛玉が報復とばかりパチパチしているのが見える。

 残る一匹も意識朦朧状態。

 駆けて行って俺が剣で仕留め──る前に、シェリルの弓に倒れてしまった。


「俺の出番……」

「で、出番あったじゃない!」

「カッコいいところ見せたかったのに」

「い、いいじゃない! い、いつだってカ、カッコいいわよっ」


 ……なにそれ。物凄く嬉し恥ずかし。

 倒れた4匹は念のために止めを刺しておこう。首のところをザクっとやれば、まぁ呆気なく死ぬ。


『ぎ……ぎゅい……』

「おっと、毛玉、大丈夫か?」


 地面でもぞもぞ動く毛玉に手を伸ばすと、何故か毛玉はその手を避けた。

 毛が汚れている。少し赤い染みも。

 けどそれより……。


「お前、大きくなったのか?」


 30センチほどだった毛玉が、ちょっとだけ大きくなっている気がする。

 それを聞いて毛玉がビクりと震えた。


「毛玉。俺たちを探しに牧場まで来たのか? ごめんな、すれ違いになったみたいで。さ、怪我を治してもらおう」

『きゅうぅぅ』


 まるで初めて畑で見かけた時のように、弱々しくなっている毛玉。

 何かあったのか?

 いや、こんな暗い森でゴブリンに襲われたんだ。怖かったんだろう。


 避けようとする毛玉を無理やり捕まえ、抱き上げてリシェルの所へと向かった。


「リシェル、回復頼む」

「あ、はい……あれ? パチパチ、少し大きくなってますか?」

「成長期なんだろ? 怪我してるから頼む」

「分かりました」


 毛玉の治癒をする間にシェリルが死んだゴブリンを確認していた。


「これ、変異体だわ」

「変異体?」


 腕の中の毛玉がもぞりと動く。


「こら、暴れるなっ。シェリル、変異体って?」

「……瘴気を吸い込んだ動物は、変異してモンスターになるって話したわよね」

「あぁ。人も狂ったりするんだろ?」

「えぇ、そう。でもおかしくなるのは、なにも人や動物だけじゃないの」


 まさかモンスターもか!?

 瘴気はそもそも、全ての生命に対して害にしかならない。それはモンスターに対しても。


「例外として、悪魔種族やアンデッドには影響ありません。それに瘴気を吸ってモンスター化した動物にも。耐性ができてしまうので」

「だけど瘴気を吸ってモンスター化した動物の寿命は短いわ。肉体が瘴気に耐えきれず、内側から腐って死んでしまうから」

「うへぇ……」

「それは普通のモンスターにも言えることなんです。瘴気をたくさん吸えば確かに肉体が強化され、狂暴性が増します。けれど──」


 そう長くは生きられない。

 モンスターは本能でそれを知っているから、好んで瘴気の中に留まろうとはしないらしい。

 たとえゴブリンでも、だ。


「寿命が短いって、どのくらいなんだろう?」

「森の動物が変異したものだと、一年ぐらいだったかしら」

「叔父様が言うには、体の大きなものほど長く生きれるけれど……小型のドラゴンでも五年と持たないそうです」


 その小型のドラゴンの寿命は、エルフと同じぐらい長いらしい。大型ともなれば千年以上生きているのもいるだろうって。

 普通の動物やゴブリン程度の体のサイズなら、一年生きられるかどうか。


 それが分かっていて変異するほど瘴気を吸い込む奴も、確かにいないだろう。


「それにね空。瘴気を少し吸った程度じゃ、体は変異しないわ」

「はい。せいぜい気分が悪くなる程度です」

「そう、なのか」

「そうじゃなかったらエルフの里は今頃、変異したエルフだらけよ」

「むしろ空さんがこちらの世界に来た時には、もう死滅していたでしょうね」


 まぁそれもそうか。

 じゃああいつらはよっぽど瘴気を吸い込みまくったのか?


「さ、治療は終わりました。村へ戻りましょう」

「そうね。とにかくゴブリンがいることは分かったし、戻って対策を立てたほうがいいわね」

「あぁ。こいつらが畑を荒らしていたに違いない」


 ぷるぷると震える毛玉を抱いたまま、村へと戻った俺たち。

 眠っている村長を叩き起こし森での出来事を報告すると、思いもよらない反応が返って来た。


「ゴ、ゴブリン? そんな馬鹿な。この近辺にゴブリンなんて、生息してないはず!?」


 ……だったら何故畑の見張りを依頼したあぁぁっ!?




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その他の連載作品は以下にて

ダンジョン暮らし!スキル【ダンジョン図鑑】で楽々攻略?:https://kakuyomu.jp/works/1177354054893184855

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ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~:https://www.alphapolis.co.jp/novel/475542718/623342199(アルファポリス)


異世界に転移したけど僕だけゲーム仕様~公式ショップが使えてチャージし放題!つまりこれは無双確定!?~:https://kakuyomu.jp/works/1177354054893262163



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