第27話

「あいつ……まだついてくる気か」

「葉っぱをくれたこと、よっぽど嬉しかったのでしょうね」

「怪我をなおしてくれたことも、でしょ」

「俺は知っている。夜中にこっそりシェリルがあいつにニンジンを食わせたことを」

「なっ!?」


 顔真っ赤なシェリルさん。可愛い。


 俺たちは苗木や新しく植える野菜の種を買うために、そして冒険者登録をするために町へと向かっている。

 リシェルの精霊魔法のおかげで怪我もすっかり癒えたパチパチ兎は、絶賛俺たちに懐いてしまった。


 昨日、葉っぱを食って満足したのか、それとも怪我で憔悴していたのか。とにかくあいつはこてっと倒れるようにして眠った。

 だったらこの隙にと捕まえると目を覚まし、静電気をパリパリ。

 チクチクする痛みに耐えリシェルの下へ行って、精霊魔法で治療をして持ったわけだ。

 その時にはすっかり落ち着いてしまって、もっと野菜をくれとアピールしてきやがった。

 もふもふが気持ちよくて、ついつい葉っぱを食わせてしまったが、夜中はリシェルが……。


 そして翌朝、町へ向かったわけだがこの通りだ。


『きゅきゅぅ』

「だから帰れって。ノームにはちゃんと言ってあるから。お前や他の動物が飢えないよう、収穫した野菜は全部柵の外に出すよう言ってあるし」

『きゅぅぅ』


 まぁ人間の言葉で言っても分からないよな。

 パチパチ兎は俺たちが家を出た時からずっと後ろからついてきており、途中で飢えた狼に襲われそうになったが追っ払ってやった。

 森を出る前の野宿でも、ちゃっかり俺のテントに入ってきてさ。そりゃあもう、もふもふでした。


「町の中に連れていけるかなぁ」

「抱っこしていればいいんじゃない?」

「抱っこか」


 くるりと振り向く。

 毛玉も止まる。


 ……抱っこって、どうやればいい?

 とりあえずしゃがんで、こっちに来いを手招きをしてみる。すると毛玉は鼻をひくひくさせながら、俺をじっと見る。

 こいつ、夜はテントの中に自分から入って来たくせに、俺が手招きしたら来ないとか!


「……いい。行く」

「くすくす。いくら着いてくるからって、直ぐに触らせては貰えないわよ」

「野生動物ですからね」


 すたすた歩きだせば毛玉は着いてくるわけで。

 その日の野宿でも、毛玉は焚火の火が届く距離。リュックからニンジンを出してやると、嬉しそうに『きぃっ』と鳴きはするが手渡しては食わず。

 三人交代で寝ているので、俺が寝る時間は気が付くとテントに入って来ていた。


 これはシェリル以上のツンデレだぞ。

 

 朝になれば何事もなかったかのようにゴソゴソとテントから出ていく。

 そして離れた所で俺たちをじっと見つめ──見つめ──


「うらぁっ、これでも食いやがれチクショーめ!」

『きゅいーん』


 投げたニンジンをジャンピングキャッチ。

 すまん。コントロールが悪くてすまん。

 けど、体長30センチかそこいらの大きさで、3メートルぐらい高く跳んだんですけど?

 兎ってこんな高くジャンプできるのか、すげーな。


 この日は夕方前に町まで到着したのだが……さてどうするか。


「毛玉ぁ。お前、このままついて来たら、町の中で肉屋に捕まってしまうぞ?」

「そうよ。だけどわたしたちに抱っこされて中に入れば大丈夫」

「でも、宿はどうします? 毛玉ちゃんが一緒だと、さすがに泊めて貰えないかと」

「そ、そん時は俺が──」


 俺が一緒に町の外でテントで寝る。

 そう言おうとしたとき、頭にもっさもっさのカツラができた。


「け、毛玉?」

『むきゅう』

「毛玉あぁぁ~!」

『きゅきゅきゅう~』


 頭に前足をちょこんと乗せ、後ろ足で肩の上に立っているようだ。

 手を伸ばすともふもふが……もふ……ん?


 さんざんもふもふした俺の手。

 何故か汚れている。


 まさか──

 バッと毛玉を掴んで目の前でぶら下げて観察すると、うん、汚い。

 

「もしかしてこいつ……臭い?」

「匂いを嗅いでみたら?」

「無理よシェリル。空さんの空気清浄で、臭いは常時消されているもの」

「あ、そっか」


 きっと臭い。そうに違いない。






「ペットの持ち込みができる宿でございますか? 無くはないですが、少し値が張りますよ?」

「ぐっ……じ、じゃあとりあえず、素材の買い取りと冒険者への登録をお願いします」


 苗木や種は必要だ。苗木は前回よりもっと多く買っておきたい。

 俺はテント暮らしでもいいと思っている。

 だが──


「お前は洗う! 受付のお姉さん、水とか桶とか、借りれませんか!?」

「は、はい。えっと、石鹸も使います?」

「お願いします!」

『むきゅああぁっ』


 逃げる毛玉をダイビングキャッチすると、受付のお姉さんがカウンターから立ち上がり奥の部屋へ。

 その時、彼女は大きなため息を吐きながらこう呟いた。


「はぁ……またあの量を鑑定しなきゃいけないのね……」


 瘴気が消えた大森林だが、もともとモンスターが住んでいた。

 数は激減しているが、一カ月で倒した&町までの道中に倒したモンスター産の素材──と大森林で採取できる薬草の数々。


 よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る