第17話
「金の価値がわからねえ?」
「す、すみません。お、俺たちエルフの里から出たことがなくって」
受付嬢の悲鳴を聞いてやってきたのは、ギルドマスターと言えば定番のムキムキマッチョマン。
他数人がかりで小一時間ほどかけて鑑定して貰い、提示された金額に納得しますかどうしますかのサインを求められた。
提示された金額は2200ルブ。
その金額をリシェルとシェリルに見せ、こんなものかと尋ねたけど首を捻られた。
エルフの里ではお金を必要としない。
時々、人間の行商人と物々交換することがあるが、やはりお金は使わないという。
「後ろの姉ちゃんは理解できる。エルフだからな。だがてめーはハーフエルフでもないだろう」
「え、えっと──」
「空は大森林に置いていかれたの。だからわたしたちの里で暮らしてるのよ」
シェリルが嘘のような嘘でないことを話す。いや、嘘じゃないか。
だけど彼女の言葉を、このムキムキマッチョマンは勘違いした。
俺が森に捨てられた赤ん坊だった、と。
「そうかいそうかい。まぁそれならしゃーねーな。今回は後ろの可愛い姉ちゃんたちに免じて、タダでレクチャーしてやらぁ」
「助かります」
そこでカウンターに並べられたのは、金銀銅──あと鉄かな?
この世界で使われる硬貨が4種類並んだ。
「単位はルブ。この鉄硬貨は1ルブだ。これが10枚でこっちの銅貨になる。銅貨10枚で銀貨1枚だ」
「ふむふむ。じゃあ銀貨1枚が100ルブなんですね」
「そうだ。で、最後が金貨だ。銀貨10枚でこいつが1枚」
1000ルブ。
じゃあ金貨2枚と銀貨2枚で2200ルブってことになるな。
それからギルドマスターは相場についても教えてくれた。
だいたい定食が5ルブ前後。素泊まりの安い宿が15ルブ。ただし衛生面は期待できない。
「客が入れ替わるときにシーツを取り換えてくれるような宿は、素泊まりでも40ルブぐらいだな」
聞いていると、1ルブ100円ぐらいの計算だな。
2200ルブってことは、ゼロ2つ足して……22万円!?
それだけあればかなりいいパソコンが買えそうだ。
いやいや、ここで買うのはテントだろう。
「あの、ついでに質問なんですが」
「あ? なんだ、言ってみろ」
「テントって、おいくらぐらいなんですか?」
「そうだな。サイズにもよるが……三人一緒か?」
さ、三人一緒!?
いやいや、違うから、テント二つ買うからと、首を左右に振る。
「一緒なのか、違うのか、どっちなんだ」
「いや、首横に振ったでしょ俺」
「あんちゃんは横に振って、後ろの姉ちゃんたちは縦に振ったぞ」
「え?」
振り返るとリシェルとシェリルが頷くのが見えた。
お年頃なんだから、ダ、ダメでしょう!
2200ルブを手に、まずは雑貨屋へとやって来た。
と言ってもギルドの建物の後ろにある商店街なのですぐだ。
マッチョギルドマスターが「品揃えが良い店」と言って紹介してくれた店へと入った。
「いらっしゃい」
カウンターの向こう側に、眼鏡のおじいさんが見える。新聞を読んでいるようだ。
この世界にも新聞ってあるんだな。
でもなんとなく紙質は悪そうだ。
「ご主人、私たちテントを探しておりまして」
「テントかい? おや、こりゃ珍しい。ずいぶんと若いエルフのお嬢さんだね」
「ふふ。ありがとうございます」
「それでおじいちゃん。大きなテントが欲しいの。予算は1000ルブでどうかしら?」
10万のテントか。
そういえばテントって日本では相場いくらぐらいだったんだろう。
アウトドアなんて、俺を殺す気かってぐらい危険行為だったからな。
テントの購入なんて、考えたこともなかった。
シェリルから予算を聞いたじいさんは驚いて「は?」と聞き返す。
うん。この反応は、1000ルブは多すぎたようだ。
「少ないの? じゃあ1500ルブならどう?」
「いやいや、エルフのお嬢さん。そうじゃなくってね……」
シェリルはじいさんの反応を逆に受け取ったようだ。
「五人が寝れるほどのテントでも、600ルブぐらいじゃよ」
「え? そ、そうだったの?」
「では予算は十分ですわね。よかった」
「で、大きいってのはどのくらいだね」
じいさんの問いに二人は──
「「3人用です」」
と答える。
「違う違う! ひとり用と二人用の二つだ!」
俺は慌てて訂正した。
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