第13話

「空気中の成分操作?」

「難しそうですね……どうやってスキルの効果を確かめればいいのかしら?」

「簡単にできる方法はいくつかあるよ。温度の操作は体感で分かるだろうからね」

「「確かに」」


 という訳でさっそくスキルを使ってみることにする。

 範囲が縦横高さ1メートルと狭く、俺たち三人が部屋の隅に身を寄せ、対角線上になる位置に向かって使う。

 いきなり超高温だの超低温だのにならないために。


「"空気操作"──」


 そう唱えると、頭の中で声のようなものが聞こえた。

 明確に声と言えないそれは【何を行うか】と問うているように聞こえる。

 何をと言われれば、温度を少し弄りたいかな。


 スキルレベルによって制限があるようだけど、温度調節はできるんだろうか?

 とにかくやってみよう。


 今の気温は何度だろう?

 そう疑問に思うと、声が答える。──18度、と。

 これもスキルの効果か?

 なら温度調節は可能そうだ。


 18度なら、10度上昇すれば体感でも分かりやすいし危険もないな。

 じゃあ温度を10度あげる、だ。

 すると今度は【どこの空気を操作する?】と質問が帰って来た。

 同時に目の前に薄いブルーの立方体が出現する。それがちょうど縦横高さ1メートルぐらい。


 ゲームで攻撃範囲を指定するのと似たような感じかな。

 俺の手の動きに合わせて立方体も右に左に上に下にと動く。


 部屋の対角点に当たる隅、ここだと思う所で手を止め──【拳を握れば決定】と声がしてそれに従う。


「と、とりあえずスキルを使ってみた。向こうの隅の温度を10度上昇させたんだけど……」

「見た目は何も変化ありませんね」

「そりゃあ温度を上げただけじゃ、目に見えないもの──あ、暖かい」


 シェリルは何の躊躇いもなく歩いて行って、部屋の隅に向かって手を伸ばした。

 その言葉に俺も慌てて行って手を伸ばす。

 確かに暖かい。


「こ、今度は温度を下げてみるよ。またさっきの所に」

「分かったわ。どうせなら雪が降るぐらい寒くしてみてよ。そのほうが分かりやすいわ」

「雪、振りますかね」


 ふふ、とリシェルの顔に笑顔が零れる。

 1メートル四方の温度が変わるだけだしなぁ。


「"空気操作"」


 さっきのように声が聞こえるが、同じ動作なのでサクサクっと進む。

 今度は気温を──今28度だし、30度ぐらい下げるか。

 同じ位置を指定してその場所に行くと……。


「さむっ!」

「雪はないけど寒いわよ空!」

「凄いです。ごく狭い範囲ですが、本当に温度を自在に操れていますっ。でも寒いです!」

「い、1分したら消えるから」


 いや効果切れ待つより、ここから離れればいいだけじゃん!


 部屋の一角がプチ極寒になっている間に、もう一つの検証をしておきたい。


 部屋を照らすランタンの火を蝋燭に移し、それを受け皿に乗せてテーブルの上へ。

 空気成分の操作検証だ。


「それ、どうすんの?」

「ん。火ってのは酸素がないと燃えないってのは知ってるかい?」


 シェリルの質問に俺は質問で答えた。

 二人が頷くのを見て、このぐらいの化学反応はこの世界でも分かるのだと理解する。


「じゃあ蝋燭の周辺の空気に二酸化炭素──ってのは分かるかな?」


 二人は首を左右に振る。

 じゃあ人が吐いた息だと言い換えれば納得したようだ。


「呼吸によって体内に吸い込んだ空気には、酸素が少なくなっているのは分かります。つまり今度はその二酸化炭素という成分を増やし、火を消す実験なのですね?」

「なるほど。消すのが目的っていうより、酸素を減らせているかの実験みたいなものかしら」

「そうだね。この場合、酸素を減らして二酸化炭素という量を増やすのが目的だけど──"空気操作"」


 何をする=空気中の酸素量を減らし二酸化炭素量を増やす。具体的な数値は分からないけど、蝋燭の火を消せるレベルまで。

 頭の中でそう考えると、範囲を指定するブルーの立方体が現れた。

 蝋燭が入るようにして、決定っと。


 すぐに蝋燭の火が揺らぎ、ふっと消える。


「消えました!」

「酸素がなくなったってこと?」

「完全ではないけれど、薄くはなってるだろうね。だけど確かめるのは危険だから止めておこう」


 顔を突っ込んで酸欠にでもなったら怖いし。


 はぁ。こんなスキルを手に入れるなら、もっと化学の勉強してればよかったなぁ。

 とにかく手探りでいろいろやってみよう。

 今のところ、温度と二酸化炭素の操作はできるようだ。

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