第10話

 目の前に浮かぶのは超巨大シャボン玉。

 どれだけ大きいかって言うと、高校の体育館ぐらい。

 俺の目の前に浮かんで、腐王の屍らしき団子まですっぽり収まっている。


 なんで急に巨大化したんだ?

 他にシャボン玉はないようだけど──そう思って手を伸ばした。

 なんとなく触れてみようかなぁって思ったんだろうな。


 指先がちょんと当たった瞬間、弾けた!?

 そして爆風キタアァァァァァーッ!


「「きゃあぁぁっ」」

「リシェル、シェリル!」


 咄嗟に二人の手を掴み引き寄せ、そして両手で包み込んだ。


「うわあっぁぁっ」

「あ、ニキア──マスター!」


 でも俺、両手塞がっちゃっててもう助けられないよ。

 いいよね。ニキアスさん転がって行ったの腐王とは反対方向だし。

 ニキアスさんだし。


 それに爆風はすぐに収まった。


 弾けたシャボン玉は小さな光の粒となって降り注ぎ、それが地面へと吸い込まれていく。

 すると今度は地面がキラキラ輝き始め──。


「綺麗……何が起こったの?」

「地面の精霊力が……回復していきます。空さん、今のは?」

「この輝き、二人にも見えるのかい?」


 シャボン玉は俺以外誰にも見えない。でもこの光は見えている?


「今のはスキルレベルがカンストした時に起こる現象だね。カンストした瞬間に使ったスキルは、普段の数十倍の効果を発揮するんだ。俺も何度か経験あるから、間違いないよ」

「あ、やっぱりご無事でしたかマスター」

「やっぱりって……酷い弟子だ」

「心配する必要性を感じなかったので。それよりスキルカンストって、今朝の時点でまだ96だったんですよ? 半日でレベル3つも上がるなんてそんなこと……」


 ニキアスさんは有り得なくない話だと言う。

 

「ここの瘴気はとてつもなく濃かった。一度の浄化で通常の何十回、いや何百回分にも相当したのだろう。それでこの短期間でレベルが上がったのだよ」

「そ、そうなんですかね」

「そんなの、ステータスを確認すればいいじゃないっ」

「空さん、ステータスをご覧ください」


 俺を挟むようにぴったりと寄り添うリシェルとシェリル。

 二人に見つめられちょっとぐっとくるものがあるけれど、まずは言われた通りステータスを確認する。


「ステータスオープン──」



 由樹 空 17歳 男

 職業:空気師 LV12

 属性:空気

 筋力:125 体力:113 敏捷:116

 器用:125 魔力:99 幸運:30


●スキル●

 空気清浄99★ / 空気操作1



 ほ、本当にスキルがカンストしている!?

 そ、それに──。


「新しいスキルが出てる!?」

「え? 見せて見せてっ」

「空気、操作? これはどんなスキルでしょう?」

「さ、さぁ?」


 攻撃系スキル……には見えないな。

 強力な攻撃スキルでモンスターをばったばったと蹴散らし、森に平和をもたらす勇者に。

 なぁんて夢見たこともあったけど、俺はそういう役柄ではないらしい。


 いやいや。空気清浄の力で瘴気を浄化しているんだ。今でも英雄みたいな扱いをされることもあるし、十分じゃないか。

 ま、加湿機能じゃなかっただけ、ラッキーだよな。


「リシェル、土を触ったりしてどうしたんだ?」

「はい空さん。土の状態を見ておりました。これならここでもノームを召喚できそうです」

「ノームって、土の精霊?」

「はい」


 にこりとほほ笑んだリシェルは、さっそく精霊魔法を行った。

 俺には分からない言語でごにょごにょ唱えると、足元の地面がぼこぼこっと盛り上がった。

 そこから出てきたのは雪だるまを土にして、手足を生えさせたような形の物体。スノーマンの土バージョンだろうか。

 大きさは俺の掌にギリギリ乗りそうな物で、高さは30センチもないだろう。


『んニー』

「穴を掘って欲しいの。お願いできる?」

『ニっ』


 短い手で敬礼しているが、全然頭に届いてない。

 ヤッベ。これちょっとかわいいぞ。


 と思ったら足元がノームだらけ!?


「い、いつのまに出てきたんだ!?」

「あんたがリシェルをじっと見ている間によ。ふんっ」


 ぷいっとそっぽを向いたシェリル。なんで機嫌悪いんだよ。


 何十体ものノームが腐王の屍の近くに集まると、何故か円を作って踊りだした。

 うんどこどこどこ、うんどこどこどこ。そんな感じ。

 で、ぼこっと穴があく。


 おいおい、嘘だろ。

 そんなんで穴が掘れるのかよ!!

 

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