第9話
「うわぁぁぁ……」
ついにソレを見つけた。
歩くのに抵抗を受ける方角に進み続け、途中で昼飯食ってまた歩いて。
青々とした葉が生い茂る木から、土色に変色した葉をぽつりぽつりとくっつけた木へと変わり。そしてその枯れ葉すら一枚もない、真っ裸の痩せ細った木だけが立つ場所へとやって来た。
これ、ドローンでもあれば上から一目瞭然なんだろうな。
点々とする枯れ木。倒木しているのも多いので、離れた位置からでも腐王の屍だろう塊はよく見える。
黒と赤と紫のマーブル模様のソレは、どす黒い靄に包まれていて。
その靄が瘴気だ。
「あれが腐王の屍なの?」
「屍というか、お団子ですね」
「あれは食べたらまずいだろうねぇ」
誰も食べたいなんて言ってないから。
しかし俺は少し軽く見ていたかもしれない。
死体なら埋めてしまえばいいだろうと思っていたことを。
リシェル曰くの団子だが、10tトラック並みの大きさがある。
ちょっと深めに穴を掘る?
誰が掘るんだよ。
俺でしょ。
「ムリムリムリムリ。あんなでかいの埋めるとか、絶対無理!」
穴の直径10メートル以上必要だろ? 深さだって完全に埋めるなら同じぐらい掘らなきゃダメだ。
で、掘った後はどうやってあれを穴に埋めるか。
触りたくない、絶対にだ。
「穴を掘るのでしたら、土の精霊たちにお願いすればいいのですが……」
「でもここ、土壌が腐敗しているし精霊もいないんじゃないの?」
「うん、そうなのよシェリル。少し戻ったところで召喚して、連れて来れればいいだけなんだけど」
「だけどその前に、この一帯の瘴気は浄化しておきたいね。できれば土壌の」
土の浄化?
いや、俺は空気の浄化しかできませんから。
そう考えていたら察したようにシェリルがため息を吐いて俺を見た。
「土の中にも空気があるって、あんた知ってる?」
「……お、おぅ」
「その空気を浄化すれば、少しは土壌も清められるわ」
「あとは地面に根を張る生命の樹に託すことになりますが、応急処置は空さんでもできると思いますよ」
「な、なるほど」
その応急処置を施すことで、土の精霊たちも穴掘りの作業が可能になるという。
まずは団子が浄化範囲に入る所まで近づかなきゃな。
近づきすぎるのも怖いので、だいたい60メートルぐらいの所で立ち止まって様子を見ることにした。
どうせならスキルレベルも上げておきたい。
スキルの掛けなおしもしておこう。
「"空気清浄"――? シャボン玉の勢いが足りない」
緑色のシャボン玉は常に俺の周りをふわふわしている。もっと言えば効果範囲内をいくつかがふわふわしているのだ。
今スキルをかけなおしたとき、シャボン玉がそれぞれと漂って、そして団子──腐王の塊から遠ざかるようにして俺の後ろのほうへと飛んで行ってしまった。
よっぽど瘴気が濃すぎて、スキルの効果も苦戦しているんだろうなぁ。
「"空気清浄"──"空気清浄"」
20分ぐらいなら連続で使用しても平気だ。
この一カ月でレベルも上がり、魔力も少しだけだが高くなっている。
前より気絶するまでの時間が30分ぐらい伸びている──と長老も言ってくれたし。
「"空気清浄"──"空気清浄"」
掛けなおして浄化速度が速くなるのかと言えば、まぁ早くなる。
スキルが発動した直後が、もっとも浄化能力が強い。と長老やニキアスさんが教えてくれた。
だから濃い場所では数回、連続でスキルを使うといいいと。
「頑張ってください空さん」
「あんな腐った団子なんかに負けないでよねっ」
リシェルとシェリルに応援され、俺もがぜんやる気がみなぎって来る。
そりゃそうだろう。
リシェルとシェリルは双子の美少女エルフだ。エルフの里でも二人は特に可愛い。
そんな可愛い子に応援されて、嬉しくないわけがない。
それに、いつも鼻水涙でぼろぼろだった俺は、女の子との縁も一切なかった。
告白されたとかしたとかそれ以前に、しぱしぱする目で人の顔なんてまともに見れなかったんだからな。
いわゆる異世界デビューっていうの?
それとも空気清浄機デビュー?
いや、こっちはちょっと虚しくなるから止めよう。
とにかく異世界デビューだよ。
俺にも春の訪れが来るかもしれないんだ!
頑張るなら今でしょう!
「"空気清浄"──」
かれこれ20分近くたつだろうか。
次で少し休憩しよう。そうしよう。
「"空気清浄"──ぃ!?」
これで休もう。
そう思ってスキルを唱えると、現れたのは超巨大シャボン玉だった。
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