第7話
「スキルレベルは99でカンストですか?」
「そうだ。ニキアスあたりは冒険者をしておるし、いくつかカンストしたスキルも持っているだろう」
そう教えてくれるのは若手の長老──と言っても500歳超え──のフロイトノーマ様。
長老は里から出たことがないからそもそも魔法をガンガン使う機会などがないから、カンストスキルは一つも持っていないという。
そして二週間弱で空気清浄のスキルレベルが50に達したことは、驚くべきことだと話す。
「空殿の空気清浄スキルのレベルの上がり方が早い原因の一つに、スキルのコスパが良いということだろう」
「コスパですか?」
「そう。どうやら空気清浄スキルは、発動させるのに大した精神力は消費しないようだ」
精神力はいわゆるMPのことだが、この世界にはステータスはあっても、HPやMPだけはない。
数値として存在しないが、精神力は個人によって量も違う。そしてスキルによって消費する量もだ。
どうやら俺の空気清浄は、消費MPが1とか、そんな感じのようだ。しかもレベルが上がっても消費量は変わらず。
「スキルを短時間サイクルで使用しているだろう? 本来スキルを数分間隔で使用などしていれば、1時間もすれば眩暈を起こすはず」
「起こしていませんね」
「だからコスパがいい。そして使用回数が多いからこそ、経験が溜まり、レベルも上がるのだ」
「なるほど」
「しかし──」
長老は俺をじっと見つめ考え込む。
使用回数が多いからといっても、この短期間でレベル50は、やはり驚異的な速さだという。
「もしかすると、そのスキルの熟練度が最高値に達したところで、新たなスキルに目覚めるかもしれぬ」
「え? あ、新しいスキルですか!?」
「過去にはそういったユニークスキルも存在した。そしてそのスキルを所持していた者は、異世界から召喚されてきた者だ」
マジか!
え、じゃあ俺、空気清浄機以上の働きができるのか?
もしかして……加湿機能とか!?
そこまで考えてから、ちょっと凹んだ。
「まぁ何にせよ、我らエルフは君に感謝している。他に知りたいことはないかね? なんでも聞きなさい」
「あ……えぇっと。そうだ。精神力の消耗と言ってましたが、消耗しきってしまうとどうなりますか?」
つまりMP切れ状態になったらどうなるかってことだ。
ゲームなら特にどうもならない。スキルが使えなくなるだけだ。
だけどファンタジー小説や漫画でよく見るせっていが──
「気を失う」
「やっぱりそうですよねーっ」
あぁ、やっぱりか。気絶か。それはマズいなぁ。
「気絶って、マズいですよね」
「マズかろう。例えばここで今気絶をしても、わしが君を家まで運んでやれる。だが森の中だと魔物も出るし、仲間がいればよいがひとりの時では……」
「魔物に食われる……」
俺の答えに長老は頷いた。
「コスパが良いと言われても、じゃあどのくらい消耗したら気絶するのか分からないもんなぁ」
「調べる方法はあるぞ」
「本当ですか!?」
さすがエルフの長老だ!
「間髪入れずとにかくスキルを唱えまくる」
などとにこやかに長老は言った。
ここのエルフ、なんかダメだ。
スキルを使うのなら、ついでに空気清浄もしようかと長老の意見で、俺は里の外へとやって来た。
「空さんが気絶するまでスキルを使うのですね?」
「いや、そうではない。空殿のようすを観察し、スキルの使用間隔を確認する」
言い出しっぺの長老も一緒にやってきて、リシェル、シェリル、ニキアスさんが護衛だ。もちろん長老も戦える。なんなら上位精霊を護衛に召喚しようかと恐ろしいことをシレっと言うのが怖い。
検証方法はこうだ。
空気清浄のスキルレベル1の時、効果時間は30秒だった。
その時、30秒間隔でスキルを使ったが、すぐにレベルが上がって1分になったから、それからは1分間隔、そして90秒と伸ばしていった。
だから今回、30秒間隔でずっとスキルを使い続ける。
ついでに歩き回る。
精神力が消耗してくれば、足取りに影響が出ると長老は話す。
「要は精神的な疲労が溜まるということだからね。その影響は動作にも現れる。それがそのくらいのタイミングで現れるのか、わしが見てやろう」
「なるほど、そういうことですか。じゃあお願いします。"空気清浄"」
時間はどうやって図るか。
スマホはあるけれど、それよりも簡単な物がこの世界にもある。
砂時計だ。
長老がそれを持ち、時間を計ってくれた。
30秒の合図で空気清浄のスキルを再使用。
1時間続けたが、特に俺の体に異常はない。
「予想以上にコスパがいいようだ。消耗した精神力は、時間の経過と共に回復する。君の場合、消耗した精神力が回復する量より少ないのだろう」
「はぁ……。じゃあ再使用まで間隔を短くして、連続使用しますか?」
「そうだな。15秒間隔にしてみよう」
ということで砂の量を調節し、15秒間隔でスキルを使うことにした。
そうして1時間後──。
「ふむ。ようやく疲労らしい影響がでたようだな」
「今ちょっと足が重い気がしますね。支障はないですけど」
その場駆け足を1分続けた後のような、その程度の疲れを感じる。
「そうだな……スキルを10秒間隔で5時間連続使用し続ければ、気絶するだろう」
「まずしませんよ。そんなこと」
「そうだろうな」
ふっと鼻で笑ってから、長老は里へと帰って行った。
この検証、必要だったんだろうかと思わなくもない。
まぁ結果がこうだっただけで、もし連続使用で実はあっさり気絶するところでした──という結果だったらやばかった。
「10秒間隔で5時間ね。じゃあ気絶しない程度に連続使用し続ければ、スキルレベルも早くカンストするんじゃいの?」
「そうですね。長老様もスキルの熟練度が最高に達すると、新たなスキルが生まれるかもとおっしゃっていましたし」
「あ、なるほど。そうか。どのくらいの間隔で連続使用してもいいか、それが分かっただけでも価値はあったのか」
という訳で、スキル連打を開始する。
1時間ほど続けたら暫く歩くだけ。精神力の回復時間だ。
「十分ほど休憩なされば大丈夫だと思います」
「そっか。じゃあ1時間ごとに10分休憩だな」
「休憩と言っても、歩き回っている間は森を浄化してくれている訳だし。あんたのスキルってほんと、凄いわね」
「い、いや。俺なんか空気を浄化することしかできないし。それに比べたらシェリルたちのほうがいろんなスキルを持っているから凄いよ」
魔法スキルのないシェリルだって、弓のスキル攻撃や視野が広がるスキル、索敵系のスキルとか、なんだかんだ10個以上は持っていた。
俺としてはそっちの方が凄いと思う訳で。
「そ、そんなことないわよ! あんたがどう思おうと、わたしたちエルフにとってはあんたのそのスキルこそが一番なんだからっ」
「そう言って貰えると嬉しいよシェリル。ありがとう」
「空さん。シェリルの言う通りです。空さんがこの世界に召喚されたのは、きっと大精霊様が私たちの願いを聞き届けてくださったからです。空さんにとっては突然異世界に招かれたのですから、ご迷惑だったでしょうが……。私たちは空さんへできる限りのことは致します」
「いや、いいんだよリシェル。俺の方こそ君たちに救われたんだからさ。できることはなんだってするよ」
もし長老の言うように、本当に新しいスキルが芽生えるのなら。
加湿機能じゃなくって攻撃スキルを望む!
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何故かエルフが全体的に残念な種族になっていく。
何故だ?
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