色付く髪は悪魔を宿す

ネミ

色付き

いろき】


『髪に神は宿る』それは色術しきじゅつの思想。


『白き髪は何も宿さず、黒き髪は全てを宿す』


『神の力、白に通じず、神の力、黒に通じる』


それは忌むべき思想。


白き髪は何者も宿してない証。


色付きは悪魔を宿している証。


色術の使い手、色術師しきじゅつし魔術まじゅつの使い手、魔術師まじゅつしである。


それは白教はくきょうの教え。


人間の七割を統べる白教会はくきょうかいが伝える教え。


………………。


…………。


……。


人里から遠く離れた森の中に僕の住まいはありました。


そこで母と二人、静かに暮らしていた僕たちはいろきをもの色狩人しきかりうど〟に襲われました。


僕を逃がした母は鋭い剣で貫かれ、思い出の詰まった家には火が放たれました。


人々は〝色付き〟に宿る悪魔を恐れています。


色付きを殺し、人々に安心をもたらす彼らは人々から色狩人しきかりうどと呼ばれ、尊敬されているそうです。


人を殺して得る名誉がこの世界にはあるそうです。


……。


そんな人たちから僕たちが襲われた理由、それは、僕が色付きだから、です。


白い髪の母から産まれた異端児、それが黒い髪の僕です。


白い髪色、それは潔白の証。


彩られた髪は悪魔の拠り所。


母は僕を守るために、故郷を離れて人気のない森に移住したそうです。


『森を出てはいけません』


それは耳にタコができるほど、聞かされた言葉です。


その言葉は、もう、聞けません。


振り返り見える家はミニチュアの様な大きさです。


その家は激しく燃えています。


僕の帰る場所は燃える火の中にありました。


もう、家には帰れません。


心の中で沸々と湧き上がる気持ち、それは害意です。


それは忌むべき感情です。


そう母から教わりました。


それでも、僕は、その気持ちを抑えられません。


母を殺された憎しみ。


拠り所を燃やされた恨み。


『色付きは人ではない』という道理を持った社会への憤り。


沸騰した心は、理性を押し込むほどに強靭な忌むべき言葉を湧き上がらせます。


『殺せ……あんな奴ら殺してしまえ……殺して良い人間だ』と。


清くあり続ける為に、言葉へ逆らうべきです。


幼い頃、母は僕に言いました。


優太ゆうたっていう名前にはね。豊かで優しい心を育んで欲しい。そういった願いを込めたの』と。


ごめんなさい。


僕は母の期待を裏切ってしまいます。


期待外れな僕を許してください――心の中で謝り、許しを請います。


僕は思い浮かべます。


母を貫いた剣の様に鋭い風が彼らの身体を貫く様子を。


家を燃やした業火が彼らの身体を包む様子を。


母や家が味わった痛みを、大切なモノが奪われた僕の苦しみを、思い知らせたい、と。


僕の空想はになります。


その力は人々から悪魔の力と呼ばれる代物だと思います。


色付きを恐れ、害する人々は間違っていないのかもしれません。


今、僕が行おうとしている事は、間違いなく、彼らが恐れているなんですから。


彼らと僕の中に住む倫理は僕の行いを悪と断ずるでしょう。


それでも、僕は止まりません。


止まらない理由があるからです。


彼らは母を害しました。


害するべき僕ではなく母を。


白き髪の母を。


彼らは誤りました。


殺すべき僕を殺さず、潔白な母を殺したんですから。


彼らは僕に報復する理由を与えました。


僕は、それに応えるだけです。


悪いのは、母を殺したですから。


明確な殺意を空想の刃に込めた、その時――。


不自然な突風が僕を包みます。


あり得ない風。


それは僕と同じ力。


そう直感が告げています。


唐突な強風は僕の思考を乱します。


乱れた心は念入りに作った風の刃を崩壊させました。


僕の心は、ふんわりと目前に舞い降りた紫色の長髪に引き寄せられました。


乱された紫色の髪が風に舞い、整えられる光景に魅せられた僕の心は一時の間、復讐心を忘れてしまいました。


風が落ち着き、紫色の髪に隠された顔は絵本でしか見た事の無かった可愛らしい少女のモノでした。


僕の瞳を見つめる少女は目頭を上げながら告げます。


「あいつらが君にしたことを、そのまま、返しちゃダメ!」と。


「そんなことしたら、君もあいつらと同じになっちゃうよ」と


それは命令でも、脅しでも、ない。


お願い、だと感じました。


僕が少女のお願いを素直に聞き入れられたのは、僕の心を少女が埋め尽くしたから、かも知れません。


【おわり】

















以下、【色付き】で説明していない色術の設定があります。


色術しきじゅつ設定(ペイントの『色の編集』を参考にしました)】


色や見え方に関して、間違っていたらごめんなさい。


……。


色術は魔術や魔法の様なイメージです。


黄色の髪は、赤と緑が255、青が0です


紫色の髪は、赤と青が255、緑が0です


水色(淡青たんせい)の髪は、緑と青が255、赤が0です


黒色の髪は、赤と緑と青が0です


黄髪は氷属性を


紫髪は風属性を


青(水色)髪は火属性を


黒髪は全属性を


吸収している色が使える属性です。


反射している色は見える視認できる色ですから使えません。


中間色や色の濃さなどで属性力(魔力的な)の高低はあります、おそらく……ですが。

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色付く髪は悪魔を宿す ネミ @nemirura

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