271 子ヤギのミミその2

『だに、さんびきいた!』

「そうか、ピイありがとう」


 草木の中で暮らしていたら、当然ダニはくっつくのだ。


「ぴっぴい」

「めえ~」


 ミミはピイに頭突きをしてぽよんと弾かれる。

 それが楽しいらしく、三回繰り返した。


「めえ~?」


 そして、慣れたミミはジゼラ、フィオ、ケリーが抱っこする子魔狼たちを見て、「誰?」と聞いた。

 子魔狼たちは吠えたらミミを怯えさせると思ったのか、鳴き声を上げずに黙ったままだ。


「このこがくろ、このこがろろ、このこがるる!」

 そういって、フィオが子魔狼を紹介する。

 

「ロロも、ご挨拶しな」

 ジゼラがロロを地面に置いたら、フィオとケリーもクロとルルを地面に置いた。


『くろ!』「ぁぅ」『あそぼ』

「めえ~」

「きゅお!」


 子魔狼たちとミミ、ヒッポリアスが遊び始める。


 俺はそろそろイジェとシロを紹介したくて、様子を見る。

 イジェとヤギやカヤネズミたち、フクロウたちのふれあいが一巡したようだ。


 だが、ほとんどみんなもう一度撫でて欲しくて並び直しているので、列は減っていない。


「イジェ、みんなもすまない。ミミを紹介したいんだが……」

「ワカッタ。マタアトデネ」

「めぇ~」「ちゅ~」「ほう~」


 ヤギたちは残念がってはいるが、イジェを解放してくれた。


「しろもおいでー」

「……」


 フィオが呼ぶと、シロはゆっくりと、イジェの後ろを歩いてくる。

 シロなりにミミを怯えさせないようにしているのだろう。


「ミミ、イジェだよ。ヨロシクね」

「めえ~」


 ミミはイジェに頭突きする。


「このこがしろ! なかよくしてね!」

「わふ」

「め!」


 フィオからシロを紹介されると、ミミはぴょんと跳んで、シロの背中に乗った。

「わふ?」

「めえ~~」

「シロ、ヤギは高いところが好きなんだ。痛くないか?」

「わふぅ~」


 シロは痛くないし、乗りたいなら乗っていいよと言っている。


 最初警戒していたミミも、もう怯えていない。

 みんなと仲良く出来そうでよかった。


「ミミ、暖炉の注意点とかサイロの危険性とか教わったか?」

「めえ~?」

「まだか。じゃあ、一通り説明するね」

「め!」


 俺はシロの背中に乗ったミミを連れて暖炉やサイロの説明をして回る。

 母ヤギとメエメエが俺の後ろをそっとついてきた。

 ヒッポリアスと子魔狼とシロも後ろをついてくる。


「ケリーとフィオは……」


 ケリーたちにも声を掛けようとしたのだが、


「順番にならんでくれ」

「じゅんばん!」


 ケリーは、フィオを通訳としてヤギやカヤネズミ、フクロウたちの診察を始めていた

 きっと診察兼生態調査なのだろう。


「オワッタラ、ナデテアゲル」

「めえ~~」「ちゅちゅう」「ほう!」

「はいはい、順番順番」


 イジェが診察の終わった動物たちを順番になで回し、その列をジゼラが整理していた。


「まあ、任せよう。ミミこっちだよ」

「めえ~」

「これはサイロといって……」

「めええ!」

「――これが暖炉。熱くなるから……」

「めええぇ!!」

「――屋根は一応登れるようになっているんだが、登っていいかはお母さんに聞いて……」

「めえええええ!」

「――これがお風呂。暖かいよ。濡れても、スライムたちがみずを吸ってくれるから冬も安心だ……」

「めえええ!!」


 一通り子ヤギにボアボアとヤギの家周辺の施設を説明してまわった。


「そうだ。このまま拠点移動してみんなに紹介しようか」

「めえ?」

「知らない人が一杯いるけど、怖い?」

「めえ!」

「怖くないか。じゃあ、行こうか。あ、ジゼラ、少し拠点に戻ってるよ」

「わかったー。一応悪魔についてヴィクトルに報告しといてー」

「ああ、わかってる」


 俺はシロの背に乗るミミと一緒に拠点に戻る。

 母ヤギとメエメエ、ヒッポリアスと子魔狼たち、シロも一緒だ。


 歩き出してから俺はメエメエに尋ねた。


「メエメエ。ところで、ミミの父ヤギって誰なんだ?」

「めえ~」


 メエメエはケリーに診察されている一頭の雄ヤギを顎で指した。


「あいつが父親なのか」

 その割にはミミと特別仲良いようにも見えないし、面倒を見ているわけでもない。


「めぇ~~」

「ふむ、父ヤギはあまり子育てに加わらないのか」


 そのあたりは種族によって違うものだ。

 魔狼や飛竜は父親も熱心に子育てするが、そうではない種族も多い。


「めえ~?」

「人族は、……それぞれだな」

「めえ~」

「メエメエがミミの面倒を見ているから、父ヤギはメエメエだと思ったよ」

「めえ~」

「群れの長だからか。なるほどなぁ」


 長としてみんなの面倒を見るのは当然。

 特に保護されるべき子ヤギのミミは、特に長が目を掛けなければいけない。

 そういうことらしい。


「めえ?」

「……俺たちの村で人族の赤ちゃんが生まれたらか」


 考えてなかったが、可能性はありうる。


「めえめえ?」

「もちろん、長のヴィクトルは赤ちゃんの面倒見るだろうな。だがどうなるかは実際にはわからないが……」

「め~」

「でもまあ、誰の子だろうと、俺も手伝うし、他のみんなも手伝うと思うよ」

「め~~」

 ヤギも、今こそイジェに夢中だが、基本的にはみんななんだかんだで手伝ってくれるらしい。


「そっか。そのほうがミミも寂しくないな」

「め~」


 ミミはシロの背中の上で、勢いよく短い尻尾を振っていた。

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