268 イジェたちの村のスキル
「俺は神はもっと普遍的なものだと思っていたけど……」
「言語神のようにか?」
「そうそう」
旧大陸の言語も新大陸の言語も、言語神の支配下にある。
おかげで、フィオやイジェとも話せるのだ。
「言語神は大神だからなぁ……まあ、神のことは話し合ってもわからないからね」
そういって、ケリーはイジェに微笑みかける。
「大人になったら教えて貰えるという話だったが……大人になったらスキルに目覚めるのか?」
「ウン。ソウ」
「詳しく教えてくれ。大人になったらとはいつのことだ? 成人になるのは十五と言っていたがそのときでいいのか? 全員がスキルに目覚めるのか? そのスキルは選べるのか?」
「エット……ジウゴになって、セイジンのギをウケタラ、スキルがモラエル。ダカラ、ジウゴのタンジョウビのダイブマエカラ、スキルについて、ミンナのイエをマワッテ、オシエテモラウ」
「全部の家を回るのか?」
「ソウ。セイジンになるひとがハナシヲキキニくる日、コドモはソンチョウのイエにトマル」
「……ほう。子供には絶対教えないという強い意志を感じるな。テオはどう思う?」
「子供が知ると良くないってことなんだろうが……危ないのかもしれないな」
そう言いながらも、少し引っかかった。
陸ザメたちの甜菜採りにも子供は連れて行って貰えなかったと聞いた。
そして、イジェはメエメエやストラスとも会わせて貰っていなかった。
甜菜採りはともかく、メエメエやストラスは危険ではない。
むしろ危険から遠ざけると言うよりスキルから遠ざけようとしたのでは無かろうか。
仮に子供をスキルから遠ざけようとしたのならば、その理由がわからない。
「イジェ。大人になると何か儀式をするのか。それが終わればスキルを貰えるのか?」
「ソウ、ソンチョウとイッショにドッカにイッテ、モドッテキタラ、スキルのオヒロメ」
「どこに行っているのかは?」
「イジェはシラナイ」
「それはそうだよね……。スキルは選べないのか?」
「ウン、エラベナイ。ダケド、オヒロメのトキハ、ドンナスキルでもミンナでヨロコブ。ゼッタイ、ホカのスキルがヨカッタとか、イマイチとかイッタラだめ」
神から頂いたものにとやかく言うのは不敬ということなのかもしれない。
「その場所が鍵だろうな。テオもそうおもうだろう?」
「スキルを手に入れる鍵か? まあ、そうなんだろうな。少なくとも旧大陸のシステムとは全然違う」
「わふー」
少し不安そうにフィオが俺を見上げていた。
「フィオのスキルの獲得方法は、俺と同じだ」
「わふぅ! ておさんといしょ?」
「ああ、一緒だよ。突然、気付いたら手に入ってた」
旧大陸ではそれが普通なのだ。
「神への祈りがキーワードか……」
ケリーは一人でブツブツとそんなことを呟きながら、先頭をゆっくり歩いて行く。
ケリーの思考を邪魔しないよう、俺は黙って後ろをゆっくりついていった。
「フィオはスキルモラッタとき、ドンナカンジだった?」
「わかんない! でも、むかしからみんながいてることはわかた」
「ソッカー」
イジェとフィオがそんなことを話している。
少し歩いて、ボアボアの家が見えてくると、
「あ、テオさん! 待ってたよ」
ジゼラが笑顔でやってくる。
「ジゼラ、お前……」
ジゼラの服がよくわからない青い液体で汚れている。
ちょっと濡れているというより、青い液体の沼に飛び込んだのかように、濡れていた。
「ジゼラ、それはなんだ?」
考え込んでいたケリーもジゼラの姿を見てぎょっとした。
「じぜらくさい!」
「きゅーん」
フィオが顔をしかめて鼻をつまみ、シロが俺の足に鼻を押しつける。
『きゅーん』「ぴぃー」『くさい』
フィオたちに抱っこされて眠っていた子魔狼たちも目を覚まして臭いと騒ぎ始める。
「たしかに臭いな。旧大陸の人族である俺でも感じられるぐらいだから……」
鼻のよいフィオやシロたちにとっては耐えがたい臭いのはずだ。
俺に抱っこされて眠っていたヒッポリアスも起きたようだ。
『くさい。きゅおー? じぜらだいじょうぶ?』
「大丈夫だよ、ヒッポリアスは優しいなぁ」
そういって、ジゼラはこちらにやってきて、ヒッポリアスを撫でた。
『くさい、きゅおー』
「ジゼラ、それで、怪我はないんだよな?」
「もちろん。怪我を心配してくれるからテオさん好き」
ジゼラの顔や手などは実に綺麗だ。
汚れているのは服だけだ。
「で、それはなんだ。青い沼で水泳でもしたのか?」
「あのね、ケリー。僕がそんなことするわけないじゃないか」
ジゼラは呆れたように言う。
「じゃあなんだ?」
「これはね。なんだっけ? あの悪魔? とかいうのを三匹ぐらい倒したんだけど」
「返り血か?」
「これ血なのかなー?」
俺は会話しながら、悪魔にひどい目に遭わされたイジェや子魔狼たちを見る。
イジェも子魔狼たちも怯えてはなさそうだ。
ジゼラやヒッポリアスの強さを知ることで安心できているのかもしれない。
俺はほっと胸をなで下ろす。
「少しサンプルをくれ」
「いいよ、ケリーならそういうと思った」
服についた青い液体。その固まった部分を、ケリーは小さな瓶に採取していく。
「鑑定するぞ」
「どうぞ」
「……毒じゃない。よかったな」
毒じゃないならば、ひとまず安心だ。
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