267 イジェの村の初代村長

 数十年、もしかしたら数百年前、小さいながらも繁栄していた国があった。

 そこには賢くて優しい王子がいて、みんなに慕われていた。

 だが、突如、ものすごく強い悪魔が襲ってきて、王と王子は戦ったが敗れて国が滅びた。


 悪魔に受けた傷で死にかけた王が、民を連れて逃げろと王子に命じたのだという。

 そして、王子は王国から遠く離れた森の中に村を作った。


 数百人いた村人は、過酷な環境でどんどん死んでいき数十人になってしまった。

 その苦難を王子は村人と力を合わせて乗り越えたのだ。


 その過程で、家は個人のものだが、他は所有権ではなく使用権を持つと言った独自のルールができたらしい。

 村のルールを守ることで、村はなんとか存続できるようになった。

 そして村の運営を軌道に乗せたあと、王子は村長を辞めたという。


「なるほどなぁ。テオどう思う?」

「どう思うっていわれてもな。俺は学問を修めたわけではないからな」


 素直に聞けば「村のルールは大切なので守りましょう」という教訓話だ。


「私だって、昔話は専門じゃないさ」

「だが、学院で基礎教養的に学ぶんじゃないのか?」

「そりゃ、多少は学ぶけどね……、専門家じゃないから断言はできないけど、こういうのは実際の出来事が元になっていることも多いんだ」

「ケリーはその物語が実際にあったことだと思っているわけか」

「少なくともその話の元になった出来事はあったんじゃないかな」


「イジェ、その王国はどちらにあったかって聞いてないか?」

「エット、……アッチ? ズットトオクにアッタって」


 イジェは遠くにある山を指さした。


「ヤマをコエテ、ズット、ムコウにイッタトコロ」

「なるほど。大陸の中央方向か」


 ケリーは難しそうな顔をする。

 あまり遠くに調査に行くのは難しい。

 そもそも曖昧な位置情報では、たどり着くことはできないだろう。


「ううーむ」


 うめきながら、ケリーは先頭に立ってゆっくり歩き出す。

 ケリーの思考を邪魔しない方が良いだろう。

 そう考えた、俺とイジェ、フィオ、シロはその後ろをついていく。


「ところで、イジェ。昔話の中に、スキル持ちが多い理由とかなかった?」


 イジェの村は人数の割にスキル持ちが異常に多いのだ。

 スキル持ちが多いからこそ、過酷の環境でも、少人数で生き延びることができたのだろう。


 ならば、数百人から数十人に村人が減った最初の苦難のところに、スキル持ちが多くなる要因がある気がした。

 まず思いつくのが、スキル持ち以外死んだからである。


 スキル持ちの親の子はスキル持ちが、やや多いことはしられている。

 だが、それが血筋のおかげなのか、環境のせいなのかは学者の間でも意見が分れている。

 真相はわからない。


 スキルが神の加護であるならば、神に好かれる一族というのがいてもおかしくはない気はする。


「ウーン。オウジが、カミにイノッテ、スキルをモラッタって」

「祈ってもらうのか」

「ソウ。ダカラ、スキルはカミからモラッタモノだから、ミンナのタメにツカワナイトダメってオシエラレタ」

「そうか……もしかしたら、そのあたりから所有権と使用権のルールが生まれたのかもな」

「ドウイウコト?」

「スキルはみんなのものって、つまり所有権はスキル持ちの本人にはないっってことだろう?」

「アッソウカ」

「でも、使用権はあるというか、使えるのは本人だけだから本人以外は使えない」


 物質の所有権を認めたら貧富の差は必ず発生する。

 豊かな者に、スキル持ちがいない場合。

 豊かな者のために、スキル持ちが無償でスキルを行使することになる。

 それではスキル持ちに不満がたまり、争いの元になる。

 そう王子は考えたのかもしれない。


「ソッカー」

「俺もスキルをみんなのために使うってのは賛成だ。特に少人数の集落ならな」


 今の拠点もそうだ。

 みんなが、自分の出来ることをして力を合わせないと、生き延びるのは難しい。


「……イジェはスキルにツイテはヨクシラナイんだ。マダオシエテモラッテナカッタ」

「大人にならないと教えてもらえないのか?」

「ウン。ソウイウキマリ」

「スキルに目覚めたらどうするんだろうな?」


 俺がスキルに目覚めたのはイジェよりも年上だったが、フィオのようにもっと若く目覚める者もいる。


「イジェのムラだと、オトナにナラナイトスキルはモラエナイってキイタ」

「……ふむ。旧大陸と仕組みが違うのか?」


 考えながら、先頭を歩いていたケリーが急に振り返って言う。

 真剣に考えながらも、話を聞いていたらしい。


「シクミ、チガウの?」

「うむ。旧大陸では、いつ誰がスキルを貰えるのかは謎だ。それにスキル持ちの数も少ないしな」

「ケリー。仕組みが違うかあり得るのか?」

「授ける神が違うなら、あり得るだろう? それに同じ神でも、大陸によって運用を変えるのかもしれないしな」


 何でも無いことのようにケリーは言う。

 その発想は俺にはなかった。

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