260 暖炉を少し改造しよう

 俺とヤギとの会話を聞いていたケリーが真剣な表情で言う。


「どうする、テオ」

「うーん、まあそれほど危険は無いだろうが……」

「そうか?」

「ジゼラがいるからな」


 ジゼラが同行しているならば、危険は無いと思う。

 そのぐらいには、ジゼラの強さを信頼している。


「とはいえ、気になるな」

「何か気になる物を見つけて、道草しているというのが一番可能性としては高そうだが……」

「それは同感だ」


 俺は少し考えて結論を出す。


「ともかく、ヒッポリアスが戻ってくるまでは待機かな」

 俺だけで向かっても、見つけられる可能性はかなり低い。


 よほど近くまで戻って来ていない限り、鼻のいいヒッポリアスと一緒に向かった方が早いだろう。

 そして、よほど近くまで戻ってきているならば、そもそも探しに行く必要がない。


「そうか、それがいいかもね」

「ああ、とりあえずは、暖炉の設置をしてしまおう。ヤギたち、来てくれ」

「めえ~」「めえめえ~」


 ヤギたちはメエメエが戻ってきてないことを心配していないようだった。


「こういうことはよくあるのか?」

「め~え」「めえめえ~」

「よくあるのか。なるほど。美味しそうな草を食べながら戻ってくると」

「め~」


 よくあることならば、特に心配しすぎる必要はなさそうだ。



 俺はヤギたちと一緒に家の中に戻る。

「メエメエと子ヤギには後で説明するとして……」

「めえ~」

「とりあえず、暖炉と柵を固定するから見ていてくれ」

「めえ~」「ほっほう」「ちゅちゅ」


 俺はみんなに見守られながら、暖炉と柵を固定する。

 もう慣れたものである。


「さてさて、これは暖炉といってとても熱くなる」

「ほっほう」

「絶対に突っ込んだりしないように。大火傷しかねないし、暖炉は固定しているが、倒したら火事になりかねない」

「めえ~」「ほっぅほう」「ちゅちゅ」

「カヤネズミは、倒す心配はなさそうだけど、絶対に突っ込まないようにな」

「ちゅぅちゅ」


 体が小さい分、火傷が致命的になりかねない。


「そして、フクロウたちも、絶対に突っ込まないように。フクロウたちには柵は無意味だからな」

「ほう」


 フクロウたちは真剣な表情で聞いてくれている。

 皆賢いので、大丈夫だとは思う。


 説明を終えた後、俺はヤギたちの家の中を見回した。

 ヤギたちの家は、他の建物よりも天井が高い。

 ボアボアの家も飛竜が暮らせるように天井を高めに作ってあるが、それよりも高いのだ。


「ストラス。熱気は上にいくと思うんだよな」

「ほっほう?」

「他の部屋の暖炉と構造を変えるべきか? 上方にも反射板をつけて熱気が上にいかないようにしたほうがいいか?」

「ほ~う」


 ストラスは首をかしげて考えている。

 フクロウたちも、ストラスと一緒に首をかしげていた。


「うーむ。実際にどうなるかわからんよな」


 熱気は上にこもるものだが、どのくらい熱くなるのかが予測しづらい。

 暑すぎたら、フクロウ用出入り口を開ければ、フクロウたちは快適にはなるだろう。

 だが、その場合、フクロウ用出入り口から流れ込んだ冷気が主にヤギたちのいる下に向かう。


「ほうほっほう」

「暑ければ下に降りてくれるのか?」

「ほう」

「それなら大丈夫かな。でも一応暖炉の構造を少し変えて、反射板を上にもつけよう」


 暖炉の上、いわば暖炉の天井の部分に斜めにした反射板をつければ、熱気が上に流れるのを少し抑えられるだろう。


「ちょっと待ってな」


 俺は魔法の鞄から金属のインゴットを取り出して、素早く鑑定する。

 それが終わると、固定済みの暖炉を改造した。

 反射板はさっき作ったばかりなので、特に難しくは無い。

 新しく反射板を取り付けると言うよりも、背面の反射板を少し延長し角度をつけた感じに仕上がった。


「これで、多分ましになると思うんだが……」

「ほっほう!」

「ああ、もし実際に使ってみて改良点が見つかったら教えてくれ」

「ほう!」


 暖炉が完成した後、もう一度改めてヤギたちに使い方と注意点を説明する。

 そして、俺はケリー、フィオ、子魔狼たちと一緒にヤギたちの家の外に出た。


「めえ~」


 ヤギたちも背中にカヤネズミを乗せたまま付いてきて、近くの雑草をむしゃむしゃしはじめた。

 中にはヤギの家の屋根に登り始めるヤギもいる。 


「登り心地はどうだ?」

「めめぇぇえ」

「登り心地がいいならよかったよ」


 ヤギたちは登りやすい屋根も気に入ってくれたようだ。


「ヤギってやっぱり高いところが好きなんだなぁ」

「崖の上とかに登りたがるな。外敵から逃れるためだろう」


 ケリーはヤギを見てうんうんと頷いている。


「そろそろ昼食の時間ではあるのだが……」

 太陽は一番高いところから、少し下がったところだ。

 太陽の位置から判断するに、正午から一時間から二時間ぐらい経ったころだろうか。


「フィオ、クロ、ロロ、ルルお腹空いてないか?」


 子供たちがお腹を空かしていたらかわいそうだ。


「たべた!」

『たべられる』「ぁぅ」『たべた』


 どうやら、フィオたちは昼ご飯をしっかり食べたらしい。

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