253 暖炉の使い方

 鑑定スキルを使えば、すぐに材料の組成がわかった。


「外側は主成分はアルミニウムだな」


 アルミニウムは鉄よりも軽い。

 軽いからこそ、イジェが一人で持ち運びできたのだ。


「アルミニウムだけだと融点が低いし、強度も不安だ」

「ウン」

「それを鉄とオリハルコンの合金にすることで、頑丈で熱にも強くしてある。なるほど、勉強になる」


 イジェの尻尾がゆっくりと揺れている。


「そして鏡部分は鉄が主成分の合金だな」

「ツクルのムズカシイ?」

「難しくないよ。俺が作った鉄、クロム、ニッケルの合金に似ている」

「ソッカ」

「それにミスリルを少し混ぜている。この方が熱に強いんだろう。やはり勉強になるなぁ」

「ソウ?」

「ああ、イジェの村の金属加工技術は非常に高いな」

「ソッカァ」


 イジェの尻尾の動きが激しくなった。

 村が褒められて嬉しいのかもしれない。


「そして、このヒバシは……。アルミニウムと鉄とオリハルコンの合金か」


 暖炉の外側の組成とそっくりだ。

 だが、外側の金属よりも、耐熱より硬さを重視しているらしい。

 軽いのに、曲がらず、扱いやすそうだ。


「テオさん、イジェのムラのダンロ、ツカエソウ?」

「もちろん、このままでも使えるが……」

「ジャア、トッテクルよ!」

「いいのか?」

「モチロン! ミンナのモノダカラ」

「そうだったな」


 農具や衣服をもらったときにイジェから説明された。


 イジェの村において、所有権があるのは家屋だけなのだ。

 それ以外の物には使用権があるだけ。

 だから、暖炉の所有権は村全体にあり、当然イジェの物でもある。

 今、各戸に置かれている暖炉には所有者がいないので、所有者の一人であるイジェが自由にしていいのだ。


「じゃあ、頼む、助かるよ」

「ウン! マジック・バッグカシテ!」

「頼んだ」

「ウン、イッテクルネ!」


 イジェは魔法の鞄を持って走って行った。


 家屋は亡くなった村人の物。

 だから、所有者に立ち入り許可を貰っていない俺たちは入れない。

 旧大陸の常識とは違う常識だが、イジェの村ではそうなのだ。


「きゅおー」

「ヒッポリアスも暖炉が気になるのか?」

『きになる!』


 暖炉の回収をイジェに任せるしかない俺たちは、暖炉のことを観察してしばらく待った。



 十分ほど経って、イジェが戻ってくる。


「ハイ、テオサン」

「ありがとう」


 魔法の鞄からイジェの村の暖炉と赤い石を取り出す。

 赤い石は四十個、暖炉は十器あった。


 村には十軒ほどの家があったので、一家に一つ暖炉があったのだろう。

 そして、手作りだからか暖炉の形はそれぞれ微妙に異なっていた。


「アカイイシは、ツカッテナカッタノもゼンブモッテキタ」

「おお、ありがとう。赤い石がこれだあれば、安心だな」


 イジェが既に拠点に持っていってくれた赤い石と合わせれば五十個だ。


「ウン。コショウシテイルのもアルケド……」

「どれが故障しているんだ?」


 見た目ではわからない。


「コレとか」

「ほうほう?」「きゅおきゅお?」

「コノブブンが、コワレテいる。ハンニチしかアッタカクならない」

「持続力が無くなってしまっているのか。それでも半日持つなら役立つよ」

「ウン、アトでナオスね」

「直せるのか?」


 イジェが魔道具を直すことができるとは知らなかった。


「ウン、カンタンなのダケだけど」

「凄いな、俺は魔道具は直せないんだ」

「テオさんなら、スグにイジェぐらいナオセルヨウニナルヨ」

「そうかな?」

「キョテンにカエッタラ、ナオシテミルね」

「その時はよんでくれ。見学したい」

「ワカッタ!」


 俺とイジェは手分けして、一度出した暖炉と赤い石をもう一度魔法の鞄に収納しなおした。


『きゅうお~だんろあって、よかったね!』

「そうだな。大分楽になるよ」


 俺は拠点にある暖炉を設置すべき建物を思い浮かべる。


 まず、ヒッポリアスの家とボアボアの家、ヤギの家に一基ずつ計三基。。

 それに冒険者たちの宿舎が五棟に一基ずつで計五基。

 今は使われていないが病舎にも暖炉はあった方が良いだろう。

 冬季に、暖炉のない病舎に、病人を入れたら死にかねない。

 病舎にも暖炉は一基いる。

 食堂兼キッチンには二基欲しい。

 皆が利用する食堂は暖かい方が良いし、食事を準備する場所も暖かい方が良いに決まっている。


「問題はお風呂とトイレだな」

「おフロはアッタカイ」

「でも、脱衣所は寒いからな」

「フムー」

「拠点のお風呂場にもいるかな」

「ボアボアたちのオフロバは?」


 俺は少し考えた。

 ボアボアたちのお風呂場は、ボアボアの家とヤギたちの家に隣接している。

 扉をあければ、すぐお風呂場だ。脱衣所はない


「まあ、脱衣所はボアボアの家とヤギたちの家みたいなものだし」

「ソダネ」

「お風呂場は暖かいし、必要ないかな」

「ウン」


 ここまでで十二基だ。


「……二基作るだけでいいのか。すごく楽になるよ」

「ヨカッタ!」

「きゅうおー」

「あとは、子供たち用の柵を作ろうかな」

「ツッコンダラ、アブナイモンネ」

「そうなんだよ」


 冒険者たちの宿舎には大人しかいないので、柵は必要ないかも知れない。

 だが、ヒッポリアスの家やボアボアの家、ヤギの家には柵は必要だ。

 それに食堂とキッチン、風呂場にも柵を用意した方が良いだろう。


「子供は何するかわからないからな」

「ワカラナイネ!」

「きゅおきゅお」


 自分たちも子供なのにイジェとヒッポリアスが「本当に子供は大変だ」と頷いていた。

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