247 サイロの危険性

 今のサイロは危険ではない。ただの石の塔に過ぎないのだ。

 だが、本来のサイロは安全ではないのだ。


「ジゼラ。サイロは危険だから、遊び場にしたらだめだ」

「え、そうなの?」

「そうだぞ。クロ、ロロ、ルル、ボエボエ、ベムベム、とりあえず出てきなさい」

「わふ?」「ぁぅ」「わぉう」

「ぶい?」「べむー?」


 まずは子供たちをサイロの外に出す。


「ジゼラも」

「あ、はい」


 なぜか、ジゼラは出てきたら正座した。

 別に正座しなくていいのだが。


 もしかしたら、ジゼラは子供たちに反省の姿を見せようとしているのかもしれなかった。

 反省の姿を見せることで、サイロの危険性を子供たちに教えようとしているのだろう


「ぁぅ」「……」「ゎぅ」


 子魔狼たちは仰向けになって、へそを出している。

 服従のポーズ、いや恐らくこれは反省のポーズをしているのだろう。


「ぶい」「べむー」

 ボエボエとベムベムまで仰向けに寝っ転がる。

 キマイラも陸ザメも、服従のポーズが仰向けではないと思うのだが、子魔狼たちを真似したのだろう。


「いいかい? サイロは危険だから遊び場にしたらダメだ」

「どう危険なの?」

「ジゼラ、いい質問だ。まずサイロの中で草を発酵させるって言っただろう?」

「うん」

「発酵したら、ガスが発生する」

「毒ガス? ダンジョンでたまに出てくる」

「毒ではないが……ケリーいい説明の仕方は無いかな?」

「そうだね……、うーん」


 ケリーは正座するジゼラと、仰向けの子供たちを見る。

 みんな真面目に聞いている。


「簡単に言うと、息ができなくなる」

「くうきない?」


 真面目な表情でフィオが尋ねる。

 フィオはジゼラのサイロ侵入遊びには付き合わず、離れたところで子供たちを見ていたのだ。


「空気はあるよ。でも、息ができないんだ。空気を吸っても息苦しいまま、というか意識がなくなる」

「こわい!」

「怖いよ。ガスに色が付いているわけでもないし、見た目ではわからないからね」

「みんな、あそんだら、だめだよ!」


 フィオが真剣な表情で子供たちに言う。


「はい。ごめんなさい」

「「「わふ」」」

「ぶい」「べむ」


 ガスの見えない危険について理解して貰ったところで、次は見える危険についても説明しなければならない。


「サイロの中には草が積まれる。不用意に中に入ったら、崩れてきて生き埋めになるよ」

「いきうめ!?」


 俺は近くに落ちていた石を使って、屋根のない小さなサイロの模型を作る。

 機密性などの難しいことを考えなくていいので、一瞬で作れるのだ。


 直径も高さも本物の十分の一程度だ。金属を使っている場所は省略してある。


「みんな見て」

「おお?」「すごい」

「わふ」

「ぶぶい」「べーむ」


 仰向けだった子供たちがお座りして、模型を見る。

 メエメエとカヤネズミ、ストラスも模型を見に来た。


「ここに草を積んでいくんだが、草の代わりに土を入れよう」


 上から、近くにあった土を入れる。


「こうやって上から草を積んでいくだろう?」

「うん」

「そして、下から取り出すと……」


 実際に二つある取り出し口の下の方から土を取り出す。


「こう草は斜面をつくることになる。これは土だが、草も同じだ」

「ほうほう」

「この中に入ると……」


 指先ほどの大きさの小石を中にぽんと入れる。

 土の斜面が崩れて、小石は見えなくなった。


「こんな風に、生き埋めになる」

「いきうめ……」

「運が悪ければ死ぬ。だから近づいたらだめ」

「わかた」

『わかった』『ちかづかない』『はいらない』

「ぶぶい」「べむ」


 子供たちはわかってくれたようだ。


「大人もだぞ。危険だから中で作業するときは一人でやったらダメだし、気をつけないといけない」

「わかった」


 ジゼラもわかってくれたようだ。

 これで、ひとまず安心である。


「メエメエ、それにストラスも、ヤギたちとフクロウたちにもサイロで遊んだらだめと伝えてくれ」

「めええ~」

「ほっほう!」

「カヤネズミは……」

「ちゅきゅ」

「そうだな、遊ばないよな。でも念のために伝えておいてくれ」

「ちゅっちゅ」


 この場にいる飛竜やボアボアも危険性を理解してくれたことだろう。


「あとは陸ザメと……冒険者たちだな」


 俺はヤギたちの小屋で寛いでいた陸ザメたちにもサイロの危険性を説明した。

 その頃には、ヤギたちは屋根に登って遊んだりし始めた。


「屋根は……ヤギ以外は危ないから気をつけて。特にクロ、ロロ、ルル」

『のぼらない!』「ぁぅ」『わかった』

「ベムベムとボエボエも」

「べむ!」「ぶぶい」


 そして、みんなにサイロ内に草を入れる方法も教えた。

 模型がとても役に立った。

 サイロに草を入れるのは、あとで暇な冒険者たちに手伝ってもらってやればいいだろう。


 説明が終わると、ジゼラが、

「テオさん、この模型どうするの?」

「使わないから、そのあたりにほおって置けばいいんじゃないか?」


 機会があれば、石材として使えばいい。

 そう思ったのだが、


「そうなんだ? じゃあ、もらっていい?」

「いいけど、いるか?」

「いる!」

「じゃあ、あげよう」

「やった!」


 ジゼラは大事そうに模型を両手で抱きしめるように手に取った。

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